東レは9月27日、米国のラージトウ炭素繊維メーカーZoltek Companies, Inc.を総額約584百万$(1株あたり 16.75$)で買収することに合意したと発表した。
東レはこれまで、高機能・高品質レギュラートウ炭素繊維に経営資源を集中、ボーイング787向けをはじめとする航空機や天然ガス圧力容器などの先端分野で強みを発揮してきた。
他方、ラージトウ炭素繊維の品揃えがなく、風力発電関連用途や自動車構造体用途等のより汎用性の高い産業分野の成長を如何に取り込むかが課題となっていた。
今回のZoltek買収により、レギュラートウ炭素繊維とは全く異なる分野での事業展開が可能となり、新たな成長の機会を得ることになる。
ラージトウ : フィラメント数が40K(40,000本)以上 風力発電機翼、樹脂コンパウンド強化剤等に使用 レギュラートウ : フィラメント数が24K(24,000本)まで 航空機等、高性能・高品位分野で使用
Zoltekはハンガリーからの移民のZsolt Rumyが設立した会社で、1988年に買収によりラージトウ炭素繊維事業に参入し、1996年にハンガリーのアクリル繊維会社のMagyar Viscosaを買収、2007年にはメキシコのアクリル繊維工場を買収して、ラージトウ炭素繊維の需要開拓を進めてきた。
現在の生産能力は年産10,500トンで、世界シェアは10.5%。
買収により、東レの能力は21,100トンから31,600トンに、シェアは21.2%から31.7%に増え、世界第二位の帝人(東邦テナックス)の13,900トン、13.9%を大きく上回ることとなる。
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今回の東レの買収は、ラージトウへの進出という同社の目的に適うものではあるが、実はZoltekの敵対的買収に対するホワイトナイトとしての買収であり、競争相手があることから買収価格は高めになっている。(本年3月初めの株価は9ドル前後で、昨年11月頃には7ドル以下であった)
2013年3月4日、Quinpario Partners LLCのグループがZoltekの10.13%を保有していることを発表、現在の取締役会を解任して、Quinpario Partners の Jeffry N. Quinn ほかに替えることを求める株主総会開催を要請した。
Jeffry N. Quinnは元 Solutiaの会長・社長・CEOで、8年間で倒産会社をグローバルな特殊化学品メーカーに変貌させ、2012年1月にSolutiaを負債込み47億ドルでEastman Chemical に売却した。
2012/2/3 Eastman Chemical、Solutia を買収
Jeffry N. QuinnはSolutiaの元の役員達とともに、2012年に特殊化学品、機能材料部門に特化した投資会社Quinpario Partnersを設立した。
これに対し、Zoltekは同日、要求はいくつかの重要な点で問題があるとしてこれを拒否した。
Quinpario は昨年11月頃に、密かに10ドル台半ばの価格で全株式を購入することなどのシナリオをRumy社長に提案していた。
これに対する返事は法律顧問からの拒否の返事だけで、Zoltekの取締役会は提案を正式に検討せず、Quinparioとの話し合いも拒否した。
Quinn はQuinnparioは高値で売り抜くヘッジファンドではなく、彼のチームはZoltekの株主価値を最大限にする戦略的計画を持っていると主張した。
また、市価の2倍で購入するという既存株主にとって極めて有利な案を議論もしないのは株主への義務の違反であるとした。これに対しZoltekは、正式提案はなかったとし、Zoltekのボードメンバーは多くの株を所有しており、メンバーの利害は株主の利害と結びついていると反論している。(実際にはRumy社長がそのほとんどを所有しており、社長の利害は「株主利害と結びつく」とはいえない。)
Zoltek は4月2日、株主価値を最大限にするための戦略案を検討すると発表、J.P. Morgan Securities をアドバイザーとして選んだ。
東レへの売却がその結論である。
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日経によると、主要企業の炭素繊維生産能力(2012時点の三菱レイヨン推定)は以下の通り。
企業 | 能力トン | シェア% | |
東レ+Zoltek | 31,600 | 31.7 | |
1 | 東レ | 21,100 | 21.2 |
2 | 帝人(東邦テナックス) | 13,900 | 13.9 |
3 | Zoltek* | 10,500 | 10.5 |
4 | 三菱レイヨン | 10,100 | 10.1 |
5 | SGL Group(独)* | 9,000 | 9.0 |
6 | 台湾プラスチック | 8,750 | 8.8 |
7 | Hexcel * | 7,200 | 7.2 |
その他 | 19,200 | 19.3 | |
合計 | 99,750 | 100.0 |
*は廉価品中心のメーカー
日本勢の製造拠点は以下の通り。
帝人 (東邦テナックス) |
東レ | 三菱レイヨン | |
日本 | 6,400トン | 8,300トン |
5,400トン 2,700トン |
米国 | 2,400トン | 5,200トン | 2,000トン |
ドイツ | 5,100トン |
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フランス | 5,400トン | ||
韓国 | 2,200トン | ||
合計 | 13,900トン | 21,100トン | 10,100トン |
三菱レイヨンはドイツのSGL
と提携しており、英国スコットランド
のSGL
Technic Ltd. に年間750トンの製造委託を行っている。
今回、東レはZoltek買収によりラージトウに進出するが、他の2社の状況は下記の通り。
東邦テナックス
2004年8月、東邦テナックス100%の販売会社Toho Carbon Fibers, Inc.が、Acordis 100%のFortafil Fibers, Inc.を資産買収し、設備、資産および人員をToho Carbonに統合した。2005年4月に同社はToho Tenax America, Inc.に改称した。
同社の能力はLarge Tow 3,500トンであったが、買収後改造し、Regular Tow 700トン、Large Tow 1,300トンとした。(その後増強し、合計2,400トンとしたが、内訳は不明)
三菱レイヨン
2011年に大竹事業所で産業用途を主体とした新タイプの高性能ラージトウ 年産2,700トンを完成した。
大型成形品に適した加工性を持ち、かつ高強度、高弾性の特性を実現したもので、これまでのPAN系炭素繊維の概念を変える新しい炭素繊維。高性能ラージトウを本格生産する世界最初の工場であるばかりでなく、ラージトウの工場あたり生産能力としても世界最大規模としている。
なお、三菱レイヨンは2010年4月、SGL Automotive Carbon Fibersに炭素繊維のプレカーサーを供給するため、SGL Technologiesとの間で合弁会社「MRC-SGLプレカーサー」を設立した。SGLは米国でラージトウ繊維を生産する。
MRC-SGLプレカーサー 大竹 プレカーサー SGL Automotive Carbon Fibers 米ワシントン州 焼成→ラージトウ炭素繊維 同上(中間材工場) 独 バイエルン州 →各種織物 BMW部品工場 成形加工→炭素繊維複合材料 BMW 次世代環境対応車"Megacity Vehicle"
参考 炭素繊維関連記事
2006/9/9 炭素繊維 2011/12/15 自動車向け炭素繊維複合材料の開発が進展 上記「MRC-SGLプレカーサー」記載 2013/4/6 帝人、炭素繊維関連で減損処理
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