東レは9月27日、韓国の連結子会社 東レ尖端素材が応札していた熊津ケミカル(Woongjin Chemical)の株式約56.2%の入札方式による売却について、優先交渉権が確定したと発表した。
韓国で法定管理(会社更生法)の適用を申請した熊津ホールディングスが熊津ケミカルの買収優先交渉対象者に東レ尖端素材を選定し、ソウル中央地裁に承認を申請した。
入札には4社が参加し、東レが最も高い入札価格
4300億ウォン(392億円)を提示した。
入札したのは他に、韓国のLG Chem、GS EnergyとUNIDの3社。
UNIDは1980年に東洋化学とDiamond ShamrockのJVの韓国カリ化学として設立された。1987年にDSが撤退、1995年にUNIDに改称。
水酸化カリ、炭酸カリなどの化学品と中密度繊維板(ボード)を扱う。
裁判所の承認と調査、本契約などの手続きを経て子会社化するが、中国当局による独占禁止法審査などもあり、若干時間がかかるとみている。
買収するのは、熊津グループ所有の46.3%と同グループの尹錫金会長の息子二人所有の9.9%の合計の56.2%。
熊津ケミカルは ポリエステルフィラメント、ポリエステルファイバー、チップ、繊維、水処理フィルター、A-PET シート(無延伸フィルム)、アラミド繊維等の製造・販売を行っている。
水処理フィルターでは逆浸透膜とマイクロフィルターを扱っている。(1994年に韓国で初めて 逆浸透膜を開発した。)
熊津ケミカルは1972年にSamsung Groupにより
Cheil Synthetic Fiber として設立され、1997年にセハン(Saehan Industries)に改称した。
2008年に熊津グループが買収し、社名を現在の熊津ケミカルに改称した。
東レは1999年10月にセハンとのJVで東レセハンを設立した。(東レ60%、Saehan 40%)
東レセハンはセハンから亀尾第1工場のポリエステル長繊維年産5万トン、同フィルム9万トン、また亀尾第2工場のポリプロピレン/ポリエステル長繊維不織布2万4,000トンの全事業を買収し、その後、年産1万トンの最新鋭ポリプロピレン長繊維不織布設備を建設した。
東レは2008年に東レセハンを100%子会社とし、2010年5月に創立10周年を機に、「東レ尖端素材」(Toray Advanced Materials Korea Inc.)に社名変更した。
今回、当初東レと熊津ケミカルのJVであった同社が、一方の親会社であった熊津ケミカルを買収することとなる。
東レは水処理膜大手の同社を傘下に収めることで、現在の世界シェア25%程度を30%強に高め、世界首位(30%強)のDow Chemical に迫る。
東レは海水淡水化や排水処理など大型設備向けの高性能品に強く、熊津ケミカルは家庭用浄水器向けが主力で
、顧客に重複が少なく、相乗効果が見込まれる。
東レ尖端素材は9月30日、「熊津ケミカルとの相互補完的な事業構造を通じ、事業間で戦略的シナジー(相乗効果)を創出する企業として今後、持続的な投資と高付加価値製品の開発、事業間シナジー・力量統合を基盤とした新事業を推進していく」と発表した。
東レのグローバルネットワークを活用し、海外市場拡大とR&D分野での協力を通じグローバル総合化学素材企業としての同時成長を追求すると強調、 併せて、安定的な雇用とこれまでの協力関係を土台に熊津ケミカルの安定的な経営を図っていくと説明した。
東レは米国のラージトウ炭素繊維メーカーZoltek
の買収と合わせ、今後の成長をけん引する炭素繊維と水処理膜という2大成長分野で拡充を図る。
ーーー
熊津ホールディングスは2013年2月から、教育出版部門を除く熊津食品、熊津ケミカルなどの系列会社を売却して債務を返済することを骨子とする再生計画を、裁判所の認可を得て進めている。
同計画に基づき、年内に熊津ケミカルを売却し、売却代金で債務を返済しなければならないため、入札価格、財務能力などを優先的に考慮し、交渉対象者を選定した。
ーーー
熊津グループの創業者の尹錫金会長は韓国ブリタニカのセールスマンを経て、英会話教材の図書出版 熊津出版を設立 、学習教材と児童向け図書の訪問販売で急成長した。
その後、朝鮮人参の加工食品(熊津食品)、化粧品(後に売却)事業を開始、訪問販売を行ったが、訪問販売の製品多様化のため1989年に熊津コーウェイを設立して家庭用浄水器事業を開始した。その後、浄水器のリースに加え、フィルタ交換や水質検査などのサービスを充実させ、事業が急拡大した。
しかし、その後の更なる拡大が同社の足をすくった。
まず太陽光発電事業に進出、米国のSun
Powerとの合弁で熊津エナジーを設立し、Sun Powerからインゴット製造とモジュール組み立ての技術を導入して生産を開始、更に熊津ポリシリコンを設立し、川上進出を果たした。
さらに合成繊維・化学材料メーカーのセハン(熊津ケミカルに改称)を買収、重合工程の技術者を有効に活用した。
その後の太陽光発電の世界的不況で、熊津エナジーと熊津ポリシリコンの業績悪化が熊津グループの大きな重荷となった。
さらに同社は2007年に売りに出ていた極東建設を買収した。(市場価値よりもはるかに高い値段で買収したとされる。)
しかし2011年以降、不動産不況が本格化してアパート分譲事業は極度の不振に陥り、極東建設と同社に債務保証をおこなっていた熊津ホールディングスは資金繰りが困難となった。
2012年9月26日、熊津ホールディングスと極東建設は会社更生のための法廷管理を申請した。
JETRO アジア経済研究所 大財閥を夢みた企業家の挫折-- 熊津グループの経営破綻
ソウル中央地方法院破産3部は2013年2月、ウリ銀行など金融会社8社で構成された債権者協議会が提出した熊津ホールディングスの回復計画案を認可した。
一時14社に達した熊津グループの系列会社は、熊津シンクビッグ(旧称 熊津出版)とブックセンだけを残して全て整理され、事実上熊津グループは解体される。
熊津ケミカルと熊津食品を年内に売却するほか、熊津エナジーを2015年にまで売却して債務を返済する。
法廷管理人は、"熊津ケミカルと熊津食品は市場の関心が高い資産"として、"最大限高い価格で売って債務を早期に返済する"と話した。
熊津コーウェイ(家庭用浄水器事業)と熊津パスウォンは売却が完了している。
債権団は、熊津ケミカルの価値を経営権プレミアムを含んで2066億ウォン(189億円)、熊津食品は495億ウォンと算定した。
東レは最も高い約400億円を提示したとされ、債権団の評価額と比べると高過ぎると思われるが、LGなど他社との競合で、この価格になったと思われる。過去の経緯や東レの水処理事業の今後を考え、他社に獲られるわけにはいかなかったのかも分からない。
同時に債権団は、熊津ホールディングスに対して大株主15対1、一般株主9対1の割合で減資を実施することを決めた。
これに伴い、現在熊津ホールディングス株73.92%を保有している尹錫金会長の保有率は5%水準に落ちる。
尹会長の2人の息子は、保有する熊津ケミカル株と熊津食品株を
売却して、約500億ウォンの私財を放出、代わりに熊津ホールディングス株を25%まで確保して、最大株主の地位を維持する。
コメントする