TPP交渉の行方

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インドネシアのバリ島で開かれていたTPP首脳会合は、10月8日、下記の概要の声明を出して終了した。

・妥結に向かっている。
・ 年内妥結に向け、課題解決に取り組む
・TPPは包括的で次世代のモデルになる
・ 深く広範な貿易・投資自由化で最大限の利益を確保
・ APEC目標の自由貿易圏構築への有望な道筋

目標としていた「交渉大筋合意」は折り込まれなかった。
焦点となっている関税の撤廃では、今回、自由化率について、具体的な議論は行われなかったという。

首脳会合の直前、マレーシアのナジブ首相は「年内妥結というスケジュールよりもっと時間がかかるかもしれない」「TPPのいくつかの分野に関して大きな懸念をもっている」とあえて発言し、年内妥結を訴える米国をけん制した。


詳細は不明だが、新聞情報では状況は下記の通りで、多くの重要な問題が残っている。

項目 内容 状況
(1)物品市場アクセス

(作業部会としては、農業、繊維・衣料品、工業)
物品の貿易に関して、関税の撤廃や削減の方法等を定めるとともに、内国民待遇など物品の貿易を行う上での基本的なルールを定める。

参考 2010/11/10  TPP参加と農業問題 

多くの進展が見られたが、
各国にとって配慮が必要な項目に関する合意は未解決の問題として残っている。

関税全廃について
賛成:豪、チリ、NZ、シンガポール
慎重:日、米、加、ベトナム

(2)原産地規則 関税の減免の対象となる「締約国の原産品(=締約国で生産された産品)」として認められる基準や証明制度等について定める。 減免対象物品の基準づくりでほぼ合意
(3)貿易円滑化 貿易規則の透明性の向上や貿易手続きの簡素化等について定める。 合意に向けて交渉が進んでいる
(4)SPS(衛生植物検疫)
Sanitary and Phytosanitary Measures
食品の安全を確保したり、動物や植物が病気にかからないようにするための措置の実施に関するルールについて定める。  
(5)TBT(貿易の技術的障害)
Technical Barriers to Trade
安全や環境保全等の目的から製品の特質やその生産工程等について「規格」が定められることがあるところ、これが貿易の不必要な障害とならないように、ルールを定める。 ほぼ合意
(6)貿易救済(セーフガード等) ある産品の輸入が急増し、国内産業に被害が生じたり、そのおそれがある場合、国内産業保護のために当該産品に対して、一時的にとることのできる緊急措置(セーフガード措置)について定める。  

 

(7)政府調達 中央政府や地方政府等による物品・サービスの調達に関して、内国民待遇の原則や入札の手続等のルールについて定める。 公共事業の外資への市場開放について
賛成:日本
慎重:マレーシア、ベトナム、米
(8)知的財産 知的財産の十分で効果的な保護、模倣品や海賊版に対する取締り等について定める。 新薬保護期間延長について
賛成:日、米
慎重:マレーシア、ベトナム、ブルネイ
(9)競争政策 貿易・投資の自由化で得られる利益が、カルテル等により害されるのを防ぐため、競争法・政策の強化・改善、政府間の協力等について定める。 国有企業の優遇措置廃止で、
賛成:日、米
慎重:マレーシア、ベトナム、シンガポール
サービス (10)越境サービス 国境を越えるサービスの提供(サービス貿易)に対する無差別待遇や数量規制等の貿易制限的な措置に関するルールを定めるとともに、市場アクセスを改善する。 国際宅配サービスの公正な競争条件の確保でほぼ合意
(11)商用関係者の移動 貿易・投資等のビジネスに従事する自然人の入国及び一時的な滞在の要件や手続等に関するルールを定める。  
(12)金融サービス 金融分野の国境を越えるサービスの提供について、金融サービス分野に特有の定義やルールを定める。  
(13)電気通信サービス 電気通信サービスの分野について、通信インフラを有する主要なサービス提供者の義務等に関するルールを定める。  
(14)電子商取引 電子商取引のための環境・ルールを整備する上で必要となる原則等について定める ルールづくりはほぼ合意
(15)投資 内外投資家の無差別原則(内国民待遇、最恵国待遇)、投資に関する紛争解決手続等について定める。 ISDA条項 で
賛成:日、米
慎重:マレーシア、ベトナム、豪
(16)環境 貿易や投資の促進のために環境基準を緩和しないこと等を定める。 排ガス規制で
賛成:日、米、加
慎重:マレーシア、ベトナム
(17)労働  貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和の禁止、労働者の権利保護等  
(18)制度的事項  協定の運用に関する協議等に必要な合同委員会の設置等  
(19)紛争解決  締約国間の紛争を協議や仲裁裁判等にて解決する際の手続  
(20)協力  TPP発効後の締約国間の協力メカニズム等  
(21)分野横断的事項  ・規制度間の整合性
・競争力及びビジネス円滑化
・中小企業(中小企業による国際的な取引の促進)
・開発(途上国が直面する課題)
 

 

付記 知的財産の新薬保護期間は新薬を開発した企業のデータを後発医薬品の承認のために使わない年数。
     マレーシア、ベトナム、豪州、NZなどは原則5年、日本は8年。
     米国は原則5年だが、TPP交渉で10年への延長を主張。

関税撤廃を扱う「市場アクセス分野」では、農産物が最大の焦点。日本はコメなど重要5項目、米国は砂糖、カナダは乳製品などを関税撤廃の例外にするよう求めている。

日本は、聖域としてきた5項目、およそ580品目の関税の一部撤廃をめぐって、早くも国内で強い反発が起こっている。

政府・与党は聖域5品目586品目のうち、複数の原料を混ぜるなどした調製品や加工品の約220品目の関税をなくすことができるかを、検討する方針を固めた。年内妥結を念頭に、11月中旬にも検討結果を取りまとめる。

聖域5品目:コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖

関税撤廃試算
 過去に完全撤廃の例があるものを撤廃:89.7%
 5項目以外の全てを撤廃:93.5%

 5項目のうち、影響の特に大きな約360品目以外の約220品目を撤廃:約96%

 なお、5項目以外の鶏肉、合板なども撤廃対象外とすべきとの声も強い。


「各国の関心は、米国がどこまで譲歩するかに絞られている」との声が強い。 そもそも「年内妥結」は来秋の中間選挙前に成果を上げたい米オバマ政権の意向で、交渉参加国からは「急ぎたいのは米国だけ」との冷ややかな声も聞かれる。

ーーー

日本政府は年内合意を目指し、難しい国内調整に乗り出した。

しかし、誰も公言はしないものの、TPP交渉には大きな問題がある。
仮に妥協の末にTPP交渉がまとまったとして、米国議会がこれを承認するかどうかという問題である。

京都議定書の場合、当時のゴア副大統領がまとめ上げたが、米国議会の承認が得られず、レーガン政権は離脱した。

模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement)も議会の承認が得られなかった。

通商条約については、以前には、Trade Promotion Authority法によりファスト・トラック権限(fast track negotiating authority)が認められ、議会は、大統領と外国政府との通商合意の個別内容の修正を求めずに、一括承認するか不承認とかのどちらかであった。
しかし、これは2007年7月1日に失効したままになっている。

アメリカ合衆国憲法第2章第2条第2項では、大統領は上院の助言と承認を得て条約を締結する権限を有するとされるが、同憲法第1章第8条第3項では、連邦議会の立法権限として諸外国との通商を規制する権限も認めている。

ジョージ・W・ブッシュ政権は、2002年8月に成立したTrade Promotion Authority法(2002年超党派貿易促進権限法)によって貿易促進権限(TPA)を得た。 これによって、議会への事前通告や交渉内容の限定などの条件を満たす限り、議会側は行政府の結んだ外国政府との通商合意について、個々の内容の修正を求めず迅速な審議により一括して諾否のみ決することとされた。

TPAは2005年6月に延長されたが、その後は再延長が認められず、2007年7月1日に失効したまま現在に至っている。

この被害を受けたのが韓米FTAである。

米国と韓国が進めていた自由貿易協定(FTA)締結交渉は2007年4月2日、期限切れ直前に妥結した。
最後まで争点となった牛肉を含む農業と自動車分野でも合意した。

しかし、議会の承認が得られなかった。
自動車分野の環境規制のような非関税障壁の緩和や30ヵ月以上の全年齢の牛肉輸入許可などが障害となった。

2010年7月の韓国・EUのFTA妥結(10月6日調印)を受け、米国でもムードが変わってきた。

米国は牛肉問題はFTAと別の問題とする韓国の主張を受け入れ、韓国は自動車で大きな妥協を行った結果、2010年12月にようやく妥結、2012年3月15日に発効した。最初の交渉妥結から5年かかった。

今回は12か国の交渉である。

交渉をまとめるには、多くの妥協が必要であるが、米国議会がそれを無条件に認めるであろうか。
不満な点を認めなければ、今度は相手国との修正交渉となるが、うまくいくであろうか。

主義主張のためには予算を通さずに政府機関を閉鎖させ、米国をデフォルトに追い込むこととなりかねない債務上限引き上げも容易に認めない議会である。
 
特に、現在強硬なTea Partyは、医療保険法 (Obama Care)は、ヒスパニックが主な対象であり、自分たちの税金が不必要に使われることに反対している。
根源には、グローバル化により製造業が中国等海外に奪われて職を失い、残る職業も移民や不法移民に奪われる白人中低所得層の不満がある。
更なる市場開放に賛成する可能性は少ない。

また、米国には党議拘束はなく、議員が特定の業界の要求を求める可能性もある。
 (米韓FTAでは自動車業界の要望が通った。)
 
 

オバマ大統領の理想はよいとして、実際にはかなり難しいと思われる。

仮に京都議定書の場合のように米国が離脱した場合、日本はどうするのだろうか。

ーーー

なお、日本のTPP参加にあたり、各国との交渉が行われたが、これらは、仮にTPPが最終的にまとまらないとしても、拘束されることとなる可能性がある。

米国との間では、以下の交渉が行われた。

  日本が他の交渉参加国とともに、「TPPの輪郭」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことを確認するともに、日米両国が経済成長促進、二国間貿易拡大、及び法の支配を更に強化するため、共に取り組んでいくこととなった。
  この目的のため、日米間でTPP交渉と並行して非関税措置に取り組むことを決定。
    対象分野:保険、透明性/貿易円滑化、投資、規格・基準、衛生植物検疫措置等
  また米国が長期にわたり懸念を継続して表明してきた自動車分野の貿易に関し、
  TPP交渉と並行して自動車貿易に関する交渉を行なうことを決定。
 対象事項:透明性、流通、基準、環境対応車/新技術搭載車、財政上のインセンティブ等
TPPの市場アクセス交渉を行なう中で、米国の自動車関税がTPP交渉における最も長い段階的な引き下げ期間によって撤廃され、かつ、最大限に後ろ倒しされること、及び、この扱いは米韓FTAにおける米国の自動車関税の取り扱いを実質的に上回るものとなることを確認。
  日本には一定の農産物、米国には一定の工業製品といった二国間貿易上のセンシティビティが両国にあることを認識しつつ、TPPにおけるルール作り及び市場アクセス交渉において緊密に共に取り組むことで一致


非関税措置については、米国側発表では以下の通りとなっている。

保険   かんぽ生命との公平な競争環境
投資   外部取締役の役割強化などを含む日本企業へのM&Aの機会増
急送便   日本郵便の手がけるEMS(国際スピード郵便)
SPS(植物検疫)   日本の食品添加物の審査手続きを早めて効率を上げるよう求める

 

 



 

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