一般用医薬品のネット販売規制

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政府は11月6日、市販薬(一般用医薬品)の99.8%の品目のインターネット販売を解禁する一方、安全性に懸念がある28品目は販売を禁止したり、制限したりする方針を発表した。

約1万1千品目ある市販薬のほとんどはネット販売を認めるが、エフゲン(殺菌消毒薬)など劇薬5品目は禁止、リアップX5(発毛剤)など市販後間もない23品目は、原則3年間かけて安全性を確認できればネット販売を認めるというもの。

政府は今国会に薬事法改正案を提出し、来春実施を目指す。

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従来は一般用医薬品は薬剤師を置かないと販売できなかったが、逆に、薬剤師を置けばインターネット販売も可能であった。

厚生労働省は、薬事法上「店舗による販売又は授与」とは必ずしも店頭に限定するものではないとの解釈の下、インターネット販売は適法とし、これを容認してきた。

薬事法 第37条 
薬局開設者又は一般販売業の許可を受けた者、薬種商若しくは特例販売業者は、店舗による販売又は授与
以外の方法により、医薬品を販売してはならない。

2009年6月1日に改正薬事法が施行され、コンビニエンスストアなどでも、登録販売者を置けば、「一般医薬品」の販売ができるようになるなど、医薬品販売の規制緩和がなされた が、厚生労働省は、改正薬事法施行に合わせて、一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を規制する内容の省令を公布した。

             改正薬事法 省令
専門家 相談対応 積極的情報提供 ネット販売
第一類 副作用等により日常生活に支障を来す程度の
健康被害が生ずるおそれのある一般医薬品のうち、
特に注意が必要なもの
(胃腸薬「ガスター10」、発毛剤「リアップ」など)
薬剤師 義務 文書義務付け   ○    X
第二類 副作用等により日常生活に支障を来す程度の
健康被害が生ずるおそれのある一般医薬品
(主な風邪薬、「葛根湯」などの漢方薬、鎮痛薬など)
薬剤師
登録販売者
義務 努力義務   ○ X
第三類 第一類医薬品、第二類医薬品以外の一般医薬品
(ビタミン剤、整腸薬など)
薬剤師
登録販売者
義務 規定なし   ○
  * 登録販売者:実務経験1年以上で、都道府県が実施する試験に合格したもの

これに関して、ケンコーコムとウェルネットは国を相手取り、医薬品ネット販売の権利確認と省令の無効確認・取消を求め、東京地裁に提訴したが、東京地裁は2010年3月30日、上記の請求を棄却した。

しかし、東京高裁は2012年4月の控訴審で、原告側敗訴の一審判決を一部取り消し、2社に販売権を認める逆転判決を言い渡した。

最高裁第2小法廷は2013年1月11日、ネット販売を一律に禁止した省令は無効との判断を下し、国の上告を棄却した。

改正薬事法にネット販売規制の趣旨を明確に示すものはない。国会にもこの意思があったとは言い難い。
・省令は改正薬事法の趣旨を逸脱し、違法で無効

この結果、省令以前の状態に戻り、ネット販売は従来どおり実施されてきた。

安倍首相は6月に、原則解禁し、劇薬などの扱いは秋までに検討する方針を表明した。
政府の規制改革会議やネット販売推進派は、対面販売と合理的根拠のない差を設けないよう求め政府内で調整が続いていた。

しかし、厚労省側の判断は異なる。

厚労省の検討会資料では、最高裁の判断について、こう解釈している。

ネット販売禁止は職業選択の自由の制約になるが、禁止の是非については賛否両論があるなか、国会の委任の範囲を超えて勝手に省令で規制するのが違法である。⇒ 法改正によりこれを行う。

厚労省は、「薬剤師らが薬の危険性を説明する必要がある」と対面販売にこだわった。
厚労省専門会議では、表情や口臭などを通じて患者の状況を把握できる利点を強調している。

薬事法では薬局には医薬品の販売又は授与に従事する薬剤師が勤務していることが求められるが、薬剤師がレジで販売に従事することは求めていない。小さな個人経営の薬局は別として、薬剤師が「表情や口臭などを通じて患者の状況を把握」して販売するなどは先ずないであろう。
一般医薬品の販売に関しては、対面販売とネット販売に差があるとは思えない。

これについて、池田信夫ブログは以下の通り批判している。

司法の意思は「薬局でも説明なんかしてないのに、ネット販売だけ規制するのはおかしいだろ」という常識論を「法律で決まってない禁止規定を省令で決めてはいけない」という法技術論で表明したものと読める。

厚労省の今回の方針は、それを「一律」ではなく品目指定して法技術ですり抜ける脱法行為である。役所が率先して脱法行為をするのでは、国民に「法律を守りましょう」とはいえない。新たに立法してネット販売を規制することも形式的には問題ないが、それは最高裁まで「おかしい」と判断した薬事法の過剰規制を今度は堂々と表からやろうという話だ。

この背景には薬のネット販売に反対する議員連盟があり、その議員に対して薬剤師連盟が3年間で14億円の政治献金をしているというわかりやすい構図がある。

 (翌日の記事)
大衆薬のネット販売が認められると、その次は(世界で普通に行なわれているように)処方薬もネットで買えるようにしろ、という要求が出てくるだろう。そうすれば処方薬にも価格競争が起こり、薬価基準も市場の実勢に合わせて見直さざるをえない。それを防ぐことが、薬剤師や製薬業界や医師会の最大の関心事なのだ。


アメリカ、イギリス、ドイツなどでは、処方せん医薬品を含め、医薬品のインターネット販売が認められている。
 (但し、安全性を
確保するための認証システム
や許可制などがある。)
     http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/pdf/0727.pdf


政府の規制改革会議は10月31日、一般用医薬品(市販薬)のネット販売について改めて議論、厚生労働省が一部市販薬のネット販売を禁止する方向で検討を進めていることについて、岡 素之議長(住友商事相談役)は「ネット販売の特性を十分に理解していないのではないか」と批判した。
会議後、全品目のネット販売を求める追加の意見書を厚労省に提出した。


楽天の三木谷浩史社長は、「3年であれ4年であれ、科学的な議論もなく、一律に規制を行うのは違憲であり、甚だ遺憾だ。対面販売の方がインターネット販売よりも安全だという主張も話にならない」と述べ、政府の方針に強く反対する考えを示した。
そのうえで、「今回の規制は、ネットユーザーを中心に大きな波紋を呼ぶと考えているし、特定の団体の利益を守る規制については断固として反対する。基本的には、司法の場で争うことになるだろう」と述べた。

また、三木谷社長は、今回の政府の方針に反対して、政府の産業競争力会議の有識者議員を辞任する意向を固めた。

ーーー

政府の規制案は以下の通り。

1) 副作用のリスクが特に高いとされる「劇薬」に指定される5品目のネット販売は今後も禁止する。

ガラナポーン 勃起障害等改善薬
ハンビロン
ストルピンMカプセル
マヤ金蛇精(カプセル)
エフゲン  殺菌消毒薬

  
2) 医薬品から市販薬に転用されてから間もない23品目については一定の期間後、ネットでの販売を可能とする。

一般医薬品のうち、医療用医薬品の有効成分を転用したものをスイッチOTCと呼ぶ。

現在の制度では、スイッチOTCは先ず「第一類」に分類される。
市販後、3年間の調査を義務付け、提出されたデータを基に1年間かけて、安全対策調査会で検討、パブリックコメントを行い、リスク区分の変更を行う。

今回、この過程を終了していないものについてはネット販売を禁止するというもの。
当初からでは合計4年間となるが、政府ではこれを3年に短縮することとした。

法律が通り、来年4月に施行されると仮定すれば、23品目のうち、9品目はリスク区分が完了し、ネット販売が可能となり、残り14品目が一定期間、ネット販売が禁止となる。

今後のスイッチOTCは4年間は薬局では販売できるが、ネット販売は禁止となる。

アラセナS 口唇ヘルペス用薬 2014/4
 ネット販売可
リアップX5  発毛剤
イノセアバランス  胃腸薬
フェミニーナ膣カンジダ錠 膣カンジダ用薬
オキナゾールL 100
パブロン点鼻クイック アレルギー用薬
ナザールAR〈季節性アレルギー専用〉
コンタック鼻炎スプレー〈季節性アレルギー専用〉
ロキソニンS 解熱鎮痛薬
 
エンペシドL  膣カンジダ用薬 一定期間
ネット販売禁止
ナシピンMスプレー  アレルギー用薬
ストナリニ・ガード
アレジオン10
アレギサール鼻炎
アレグラFX
アイフリーコーワAL
コンタック鼻炎Z
ストナリニZ
エルペインコーワ 生理痛用薬
ナロンメディカル 解熱鎮痛薬
エパデールT 中性脂肪異常改善薬
エパアルテ
アンチスタックス むくみ等改善薬

  

付記

政府は11月12日、一般用医薬品(市販薬)の大半についてインターネット販売を解禁する薬事法改正案を閣議決定し、国会に提出した。
上記のほか、下記が折り込まれている。

ネット事業者は最低1店舗で週30時間以上の対面販売を行う。
注文の受け付けや梱包作業は実店舗でのみ認められる。

薬剤師らはメールなどを通じて購入希望者の持病や副作用歴を確認した上で市販薬を販売する。
副作用リスクが高い1類については、販売した薬剤師の名前などの販売記録を保存するよう義務付ける。
オークションによる販売や、使用期限の切れた薬の販売は禁止。
依存性のある薬の販売個数も制限する。
厚生労働省のホームページにネット販売業者の一覧を掲示する。

医師の処方箋が必要な医療用医薬品もネット販売を認めず、対面販売でなければならないと明記する。

現在も省令で禁じているが、市販薬の省令によるネット販売規制が最高裁で違法とされたため、法律で位置づける。

楽天子会社のケンコーコムは11月12日、国に対して処方箋薬郵便等販売の地位確認請求訴訟を東京地方裁判所に提起した。



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