住友化学は11月22日、㈱ボナックとの間でボナックが保有する核酸医薬原薬の製造・販売に関する知的財産権の独占的実施権の許諾契約を締結、大阪工場に開発用途の核酸医薬原薬の製造設備を新設し、2014 年度第3 四半期から同原薬の受託製造を開始すると発表した。

核酸医薬は、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)の働きを利用して、病気を引き起こす遺伝子やタンパク質に作用するタイプの医薬品で、低分子医薬(化学合成により作られる一般的な医薬品)、抗体医薬に続く、第三世代の医薬品として、近年注目されている。

核酸医薬品は遺伝子にじかに働きかけるため、従来型の医薬品と比べて治療効果が高く、副作用が少ないとされる。

ただし、病気を起こす遺伝子まで到達させるため、体内での安定性やDrug Delivery System(DDS)などの課題を解決する必要がある。

ボナックは、これらの課題解決に有力な独自の核酸医薬のプラットフォームを確立し、特許を日本で取得したほか欧米の主要国で出願中で、国内外の製薬メーカーと核酸医薬品開発についてライセンス交渉を進めるとともに、核酸医薬品の自社開発を行っている。

RNA干渉法を用いた核酸医薬に関する研究開発を進めてきた九州大学、東京医科大学、ボナックの3者は日本独自の核酸医薬に関する新しい基盤技術を確立するに至り、それを機に眼科領域に特化した、新しい分子標的核酸医薬の開発と臨床応用を本格的に進めるために、2012年3月19日に、産学連携ベンチャー「アクアセラピューティクス」を福岡市に設立した 。

住友化学は、医薬原薬・中間体については30 年以上にわたる生産実績があり、優れた工業化技術、GMP対応力を有するとともに、高度な品質保証体制を確立している。

核酸医薬原薬の工業化パートナーを探していたボナックと、同社の技術の将来性、優位性に着目した住友化学のニーズが合致したことから、今回の決定にいたった。

住友化学は、今後、ボナックおよび同社からライセンスを受けて医薬品開発を行う国内外の製薬メーカー向けに核酸医薬原薬の受託製造を行い、医薬化学品事業の強化を図る。
ボナックは、住友化学から安定的に高品質の核酸医薬原薬を確保し、核酸医薬品の早期実用化に向けた開発を進める。

ボナックはタルク、カオリン、炭酸カルシウム、マイカ等の輸入やあらゆる無機粉末を扱う鉱物粉末の専門メーカー の林化成が2010年2月に設立した。
社名のボナック(BONAC)は核酸化学の架け橋(Bridge Of Nucleic Acids Chemistry)を表す。

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核酸医薬品にはいろいろの種類があり、世界の多くの企業が開発に当たっている。(主としてsiRNAを開発している)

http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2011fy/E001922.pdf


しかし、現状では市販されているのは3品目しかない。

初めの2つはいずれも眼性疾患用である。

第1号は1998年に米国で認可されたエイズ患者のサイトメガロウイルス網膜炎の治療薬「Vitravene」(fomivirsen)で、米国のISIS Pharmaceuticalsが開発した。

天然型のDNA製剤 (アンチセンスDNA医薬 )のVitraveneの問題は、注射すると血中で分解されることと、細胞内になかなか取り込まれないこと。
そのためVitraveneは患者の眼球に局所注射して分解を抑止、局所のアンチセンスDNAの濃度を上昇させてやや無理矢理細胞内に取り込ませて薬効を発揮した。 (全身投与できず、対象疾患も極めて限定された )

第2号は2005年にEyetechとPfizerから上市された血管新生型加齢黄斑変性症(AMD)治療薬でアプタマー医薬の「Macugen」(ペガプタニブナトリウム)

第3号は2013年1月にFDAが承認した家族性高コレステロール血症の治療薬 の「Kynamro」(mipomersen) で、アポたんぱく質B100のmRNAを標的とした第二世代のアンチセンスDNA医薬 。
家族性高コレステロール血症患者のホモザイゴート(両親からLDL受容体の変異を共に遺伝した患者)に限り、承認された。
米Isis Pharmaceuticals社が開発、米Genzyme社が販売する。

ボナックは、自社の有する高い有機合成・核酸合成技術に基づいて一本鎖核酸による遺伝子発現制御プラットフォーム技術「nkRNA®」「PnkRNA™」(ボナック核酸)を開発し、2012年4月に国内特許を成立させた。

  1. nkRNA® : 「遺伝子発現制御のための一本鎖核酸分子」 (特許第4968811号)
  2. PnkRNA™ : 「含窒素脂環式骨格を有する一本鎖核酸分子」 (特許第4965745号)

ボナック核酸は従来のsiRNA(二本鎖短鎖RNA)とは異なる、ユニークな分子内構造(2次構造)を有する一本鎖長鎖核酸を構造的な特徴と する。
既に日本国内で特許が許諾されているため、特定の欧米企業が専有する既存の核酸干渉に関する基盤特許技術に依存することなく、独自の核酸医薬を開発することが可能とな る。

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核酸医薬品の原料は、日東電工の米子会社 Avecia Biotechnology と米 Agilent Technologiesが合計8割程度の世界シェアを持つ。

日東電工は2011年2月に、今後成長が期待される核酸医薬の分野において事業基盤の強化を目的に、米国マサチューセッツ州にある核酸医薬の製造受託分野でトップのAvecia Biotechnologyを買収した。

Avecia Biotechnologyは、核酸医薬の製造受託分野でトップシェアを誇り、前臨床段階から商業的製造までのステージにおいて、 世界最大のcGMP製造能力をベースに、分析方法開発、プロセスバリデーション、安定性試験、品質管理及び薬事面サポートと幅広いサービスを提供してい る。

日東電工では下記のシナジー効果を発揮し、更なる事業拡大を図っていくとしている。

1)核酸医薬分野での優位性のある市場ポジション及び顧客ネットワーク  
2)ドラッグデリバリー技術を含む、特許・技術の融合
3)日東のポリマービーズ技術を活用した、核酸合成効率の向上と製造原価削減
4)Aveciaの良好な地理的立地と、更なるサービス提供エリアの拡大

Agilent Technologiesは、化学分析機器や電気・電子計測機器の開発・製造・販売・サポートを行う業界最大手の企業。核酸分野での主なビジネスは研究用・GMP レベルの核酸の受託合成、分析受託、合成・分析機器の販売など幅広い。

Hewlett-Packardの一部門であったが、2000年にHPが株式を売却、独立した。

2006 年に核酸の製造を行うSynPro を買収、さらに2008 年にDawpharma の核酸医薬品製造ビジネス部門を買収し業務を拡大している。

住友化学は原料の需要家でもあるボナックと組むことで、先行する2社を追う。
ボナックなどの開発が進んで市販できる核酸医薬品が出るときは、量産用の設備の建設を検討する。