小泉元首相の原発に関する発言が、11月12日の日本記者クラブでの講演の以後、盛んに取り上げられている。
原発即時停止の理由は、「放射性廃棄物、核のゴミをきちんと危険のないよう保管する場所が、日本にはどこにもない」というもの。
2013/11/1 小泉元首相の「脱原発」論
これに対する批判も多い。
使用ずみ核燃料は1万5000トンあり、これは原発ゼロにしても減らない。原発の運転と核廃棄物の処理は別の問題なのだ。したがって彼が繰り返し強調する最終処分場の立地が困難だという事実は、原発をゼロにする根拠にはならない。これは小学生でもわかる理屈だと思うが、一国の首相だった人がまだ錯覚に気づかないのは悲劇である。
彼も認めるように最終処分の技術は確立しているので、政治が決めればいいだけだ。具体的な候補地も複数あがっているが、もっとも有力なのは六ケ所村だ。面積は253km2(大阪市より大きい)もあり、再処理をやめて最終処分場に転用すれば、原発を動かしても核廃棄物を半永久的に収容できる。
2013年11月13日 小泉元首相の「錯覚劇場」
安井至氏も「市民のための環境学ガイド」で述べている。
B君:しかし、小泉さんの言う「使用済み核燃料の問題」は、なかなかの難問だ。
A君:その通りですが、すでに相当大量の使用済み核燃料を抱えているので、これから多少増えたところで、本質的な差がでるとは思えないですね 。
2013年11月16日 「小泉元首相の発言」
しかし、これは間違いで、使用済核燃料問題の重要性は河野太郎氏がブログ「ごまめの歯ぎしり」で以前から主張している。
六ヶ所村の再処理工場が稼働できなければ、早晩、原発は、耐用年数よりも使用済核燃料プールの空き容量で行き詰まることになる。
六ヶ所村の再処理工場が完全稼働すれば、年間800tの使用済核燃料を再処理することができる。それでも毎年180tの使用済核燃料が処理しきれずに溜まっていく。2011年05月31日 使用済核燃料で原発が止まる
当初の構想は、使用済み核燃料を六ヶ所村で再処理を行ってプルトニウムをつくり、ウランと混合したMOX燃料を高速増殖炉で使用するという「核燃料サイクル」であった。しかし、再処理設備も高速増殖炉の実験炉である「もんじゅ」もトラブルで長期間動かず、「もんじゅ」直下に活断層がある疑いがあり調査が行われている。
現在では、再処理が経済的に成り立たないことは、ほとんどの人が認めている。
原発賛成論の池田信夫ブログでも、「もう核燃料サイクルの経済性が失われた」、「電力業界の人も、再処理が経済的に成り立たないことは理解している」としている。2013年02月24日 核燃料サイクルの出口戦略
原子炉の燃料棒は通常16か月ごとに1/4~1/3程度を入れ替える。
年間約1,000トンが交換されることとなる。
使用済核燃棒は、
崩壊熱を発生させるので、原子炉建屋内の貯蔵プールで水を循環させて冷やし続けなければならない。
福島第一原発・4号機は、地震発生時、定期点検中だったので原子炉には核燃料がなかったにもかかわらず、水素爆発が起きた。貯蔵プールの冷却水が循環できなくなり、冷やせなくなったために、水が高温になって蒸発し、燃料が露出して、水素が発生して爆発した。(文末に注)
そのプールがもういっぱいである。棚の間隔を狭くするなどして貯蔵能力を増や してきたが、狭くし過ぎると危険が伴う。
全国の原発の貯蔵能力合計は(廃炉する東電福島第一、第二を除くと)17,200トンだが、現在の貯蔵量は11,290トンとなっている。(詳細は下記の表)
原発は13ヶ月に一度定期点検に入り、3ヶ月点検が続くので、16ヶ月に一度燃料取替が入る。
全国の原発の取替量の合計は1,340トンで、12ヶ月換算すると約1,000tになる。(福島を除くと810トン)
このため、あと7.3年で全国の原子炉建屋内の貯蔵プールは満杯となる。
原子炉建屋内の貯蔵プールとは別に、再処理を前提に、日本原燃が青森県六ケ所村の再処理工場で使用済み核燃料を受け入れている。
この貯蔵能力は3,000トンだが、既に2,945トンが貯蔵されており、ほぼ満杯である。
民主党政権が2012年9月に、新エネルギー・環境戦略に2030年代の原発ゼロ、サイクル政府の見直しの検討を行ったことを受け、六ケ所村議会は9月7日、県と村、日本原燃の3者で取り交わした覚書を根拠に、サイクル政策見直しなら燃料を返還するとした意見書を可決した。
福井新聞によると、仮に返還された場合、県内原発の貯蔵プールは一気に逼迫、美浜原発、大飯原発、高浜原発とも1サイクル(13カ月)運転できる程度しか貯蔵能力の余裕がなくなるという。
東京電力と日本原子力発電はこれに備え、青森県むつ市で使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設を進めていたが、2013年8月29日に完成した。
使用済み核燃料を金属製容器「キャスク」で貯蔵、空気で冷やすもので、貯蔵能力は3,000トンとなっている。2010年8月に着工し、完成までに3年を要した。
2022年までに1棟追加し、合計貯蔵能力を5,000トンとする。
今後、中間貯蔵施設を新設することも考えられるが、むつ市の場合、計画からほぼ完成まで12年を要しており、間に合わない。
池田氏の「六ヶ所村の250km2の空き地の使い道がなくなるので、最終処分場に転用できる」というのは、実際的でない。
再処理工場で受け入れている使用済み核燃料さえ、再処理をしないなら返却するとしている地元が、最終処分場を簡単に受け入れるとは思えない。
また、最終処分の技術面の検討ができていない。
日本学術会議は2012年9月、政策の抜本的な見直しを原子力委に提言した。
経済産業省の総合資源エネルギー調査会は9月28日、原発の高レベル放射性廃棄物を地中深くに埋める地層処分の技術的課題を検討する作業部会の初会合を開いた。技術面での本格的な再検証を始める。
日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターは10月28日、北海道の宗谷管内幌延町の調査坑道を報道機関に公開した。
来年度から放射性廃棄物に見立てた100度程度の熱源入りの実物大の鋼鉄製容器の埋設試験を行い、本格的な処分技術の研究を始める。
水分を通しにくい特殊な粘土で覆い、地下水の浸透や容器の腐食の程度を数年かけて調べる。経済産業省は11月28日、年内をめどに取りまとめるエネルギー基本計画に、政府が候補地を示す方式を盛り込むことを固めた。
廃棄物を地中に埋めた際、断層や地下水の影響で放射性物質が漏えいする懸念が少ない複数の地域を、国が科学的な分析に基づき選んで提示する。
フィンランドのオンカロは立地を決めたのが2000年で、本格操業は2020年に開始の予定である。立地決定からでも20年かかっている。
岩盤を掘るオンカロに対し、日本の場合、活断層の存在や湧水対策その他、簡単でなく、もっと時間がかかるであろう。
実際に立地を決め、設計を行い、工事を行って、最終処分場が稼動するまでに30~50年はかかると思われる。
仮に原発が再稼動しても、なんらかの追加の貯蔵場所が完成するまでに満杯になり、ほとんどの原発が稼動を停止せざるを得ない。
河野太郎氏の主張通り、日本の原発は使用済核燃料プールの空き容量で行き詰まることになる。
日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長は12月3日、日本からトルコなどに原発輸出を可能にする原子力協定について、「日本は原発を動かす最低条件として使用済み核燃料の最終処分のあり方を具体化しておかないと原発を動かす資格がないと学んだ」と指摘し、反対の意向を石原共同代表に伝えた。
但し、原発の運転を止めても、これまでに溜まった使用済み核燃料の処理の問題は残る。
付記
ーーー
いろいろの資料から推定した使用済核燃料の状況は以下の通り。(残り年数以外は単位:トン)
貯蔵容量 貯蔵量 1回当たり取替量 同年間換算 残り年数 北海道電力 泊 1,000 400 50 37.5
16.0
東北電力 東通 440 100 30 22.5 15.1 女川 790 420 60 45 8.2 東京電力 福島第一 2,100 1,960 140 105 1.3 福島第二 1,360 1,120 120 90 2.7 柏崎刈羽 2,910 2,380 230 172.5 3.1 日本原子力
発電東海第二 440 370 30 22.5 3.1 敦賀 860 580 40 30 9.3 中部電力 浜岡 1,740 1,140 100 75 8.0 北陸電力 志賀 690 160 50 37.5 14.1 関西電力 美浜 680 390 50 37.5 7.7 高浜 1,730 1,160 100 75 7.6 大飯 2,020 1,430 110 82.5 7.2 中国電力 島根 600 390 40 30 7.0 四国電力 伊方 940 610 50 37.5 8.8 九州電力 玄海 1,070 870 90 67.5 3.0 川内 1,290 890 50 37.5 10.7 合計 20,660 14,370 1,340 1,005 6.3 (除く 東電・福島) (17,200) (11,290) (1,080) (810) (7.3) 日本原燃 六ヶ所村 3,000 2,945 東電/日本原子力 むつ市中間貯蔵施設 3,000 ー
1) 同一原発内では貯蔵能力を融通できるとして計算。
2) 六ヶ所村の保管分の返却がない(現状通り保管)とした。東京新聞の記事(2012年9月4日)では残り年数はもっと短くなっている。
東京電力柏崎刈羽、原電の東海第二、九州電力の玄海が特に短い。
このうち、柏崎刈羽と東海第二はむつ市の中間貯蔵施設が完成したため、これを利用できる。
但し、福島第一、第二の廃炉を進める場合、使用済み核燃料をいつまで福島のプールに置いておけるのかという問題がある。
ーーー
福島第一原発で廃炉に向け、4号機の使用済み燃料プールから核燃料の取り出しを始めた。
定期検査中だった4号機は、福島第一で最も多くプールに燃料を保管している。事故による爆発で大きな被害を受けたため、原子炉建屋の耐震性を懸念する指摘もある。
使用済燃料プール内の燃料ラックから1体ずつ取り出し、構内用輸送容器(キャスク)へ装てんして共用プール建屋のプール内へ移送し、ここで集中的に保管する。
コメントする