日本化学会は、平成21年度から化学関連の学術あるいは化学技術遺産の中で特に歴史的に高い価値を有する貴重な史料を認定する『化学遺産認定制度』を開始し、これまでの 4回で 22件を認定・顕彰している.
今回、第5回化学遺産認定として次の6件を認定した。
(1)「日本の近代化学の礎を築いた櫻井錠二に関する資料(石川県立歴史博物館など)」
ロンドン大学に留学、1881年に日本に帰国し、東京大学理学部講師になり、翌年には教授に昇進した。
日本の化学研究、学術研究体制の基盤を築き上げた。
理化学研究所(初代の副所長)や日本学術振興会の創設にかかわる。
(2)「エフェドリンの発見および女子教育に貢献のあった長井長義関連資料(大日本住友製薬など)」
ベルリン大学に留学、帰国後、政府の要請で大日本製薬会社の製薬長に就任、機械の設置から薬の製造までを担当し、国産の製薬事業をスタートさせた。
併せて、東京大学教授として化学・薬学を指導し、麻黄の薬効成分を単離・構造決定し、エフェドリンと命名した。 (ぜんそく治療薬)
当時、輸入薬品が主流で、製薬の国産化事業は進展しなかった。
このため政府の援助を得て1883年に半官半民の大日本製薬会社が設立され、長井長義が製薬長に就任した。他方、大阪では大阪薬種卸仲買商組合の有力者を発起人として1888年に大阪薬品試験会社が設立された。
1897年には大阪に近代的な製薬所を設立し、純良医薬品を提供するため、武田、塩野義、田辺の道修町御三家などが出資して、大阪製薬株式会社が設立された。大阪製薬は1899年に、経営難に陥っていた大日本製薬を吸収合併して「大日本製薬」となった。
1908年には大阪薬品試験を吸収合併した。2005年10月1日、大日本製薬と住友製薬が合併し、大日本住友製薬となった。
長井は「日本においても女子教育が必須である」という信念で妻のテレーゼ(ドイツ人)とともに、女子教育に力を入れた。
付記
大日本住友製薬は大阪本社ビル内に、くすりの町・道修町と大日本住友製薬のあゆみに関する資料展示スペースを開設した。
海老江製薬所の再現模型や、医薬品製造に使用していた蒸留缶・濾過器(化学遺産認定) などを展示している。
(3)「旧第五高等学校化学実験場および旧第四高等学校物理化学教室(熊本大学など)」
熊本の旧第五高等学校の化学実験場は1889年に建設され、戦後、熊本大学に継承された。
金沢の第四高等学校物理化学教室は1890年に建設され、戦後、金沢大学に継承された。
(4)「化学技術者の先駆け宇都宮三郎資料(早稲田大学)」
幕末に舎密開宗を独習するなどして化学の腕を磨き、蕃所調所精錬方で技術の向上と後進の指導に努めた。
第二回認定(第8号)の川本幸民が初めて使った「化学」という語を導入し、蕃所調所精錬方を化学所と改称した。
(5)「日本のプラスチック産業の発展を支えたIsoma射出成形機および金型(旭化成ケミカルズなど)」
1933年にドイツのFranz Braun社が開発した画期的な機械駆動式横型射出成形機。
日本には1937年に旧式射出成形機が初めて輸入され、翌年にはそれをモデルにした手動式機会が初めて国産化された。川崎市川崎区が戦前・戦中の産業文化財として展示している。
付記
積水化学工業は、同社が保有する日本現存最古の射出成形金型「Isoma金型」が、旭化成ケミカルズが保有する「Isoma射出成形機」とともに「化学遺産」に認定されたと発表した。
「クシ」と「ウイスキーコップ」成形用の2つの金型でドイツ製。
積水化学の前身である日本窒素肥料が1943年に射出成形機とともに現地企業から購入し、ドイツの潜水艦で運ばれた。
2つの金型は1947年、積水化学がプラスチック加工メーカーとして創業した際、日本窒素から提供された。
(6)「日本初のアルミニウム生産の工業化に関わる資料(昭和電工)」
昭和電工創設者の森矗昶は、長野県大町の水力発電による電気を使って、電解精錬によるアルミニウムの生産に挑戦し、1934年に日本初の国産アルミニウムの工業的生産に成功した。
なお、原料のアルミナは1933年に横浜(現 昭電横浜事業所)で明礬石を原料として生産を開始した。
付記
認定対象は同社の「国産アルミニウム一号塊」、「明礬石」、「アルミニウム製花瓶」、「大町工場建設日誌」、「常盤発電所配電盤」および「積算電力計」。
国産アルミニウム一号塊
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過去に認定された化学遺産は下記の通り。
2010/3/18 化学遺産認定 |
第1号 杏雨書屋蔵 宇田川榕菴化学関係資料 |
第2号 上中啓三 アドレナリン実験ノート | |
第3号 具留多味酸(グルタミン酸) 試料 | |
第4号 ルブラン法炭酸ソーダ製造装置塩酸吸収塔 | |
第5号 ビスコース法レーヨン工業の発祥を示す資料 | |
第6号 カザレー式アンモニア合成装置および関連資料 | |
2011/3/17
化学遺産、第二回認定 |
第7号 日本最初の化学講義録 朋百舎密書(ポンペせいみしょ) |
第8号 「化学新書」など日本学士院蔵 川本幸民化学関係資料 | |
第9号 「日本のセルロイド工業の発祥を示す建物および資料」 | |
第10号 日本の板硝子(ガラス)工業の発祥を示す資料 | |
2012/3/17
化学遺産、第三回認定 |
第11号 眞島利行ウルシオール研究関連資料 |
第12号 田丸節郎資料(写真および書簡類) | |
第13号 鈴木梅太郎ビタミンB1発見関係資料 | |
第14号 日本の合成染料工業発祥に関するベンゼン精製装置 | |
第15号 日本初期の塩化ビニル樹脂成形加工品 | |
第16号 日本のビニロン工業の発祥を示す資料 | |
第17号 日本のセメント産業の発祥を示す資料 | |
2013/3/21 化学遺産、第四回認定 |
第18号 小川正孝のニッポニウム発見:明治日本の化学の曙 |
第19号 女性化学者のさきがけ、黒田チカの天然色素研究関連資料 | |
第20号 フィッシャー・トロプシュ法による人造石油に関わる資料 | |
第21号 国産技術によるアンモニア合成(東工試法)の開発とその企業化に関する資料 | |
第22号 日本における塩素酸カリウム電解工業の発祥を示す資料 |
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日本化学会は認定内容を、第8回 化学遺産市民公開講座~日本の化学教育・産業の基盤作り~ で具体的に紹介する。
日時 3月29日 (土) 13時 30分 ~ 17時15分
会場 名古屋大学 東山キャンパス 法経本館共用館1階第2講義室
(3月27日から30日まで、同キャンパスで日本化学会第94春季年会が開催されている。)http://www.chemistry.or.jp/event/calendar/2014/02/8-52.html
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