世界の四大ウラン濃縮企業の1社の米国のUSEC Inc.は3月5日連邦破産法11条(Chapter 11) の適用を裁判所に申請した。
USECは米国を中心とした原子力発電用濃縮ウランの供給等を行っており、新技術を採用した新型遠心分離機(American Centrifuge Plant)の開発を進めている。
この資金需要に対応するため、同社は2010年5月に、東芝及び米国の原子力発電所向け大型機器メーカーのBabcock & Wilcoxとの間で、2社が各1億ドルを出資して優先株を得る契約を締結、両社は2010年9月に第1回分として各3750万ドルを出資している。
その後の 東京電力福島第一原発の事故のあと、日本やドイツで多くの原発が運転を停止したことなどから燃料の濃縮ウランが供給過剰となって価格が3割以上下落したことなどが影響し、 同社は経営に行き詰まった。
このため、USECでは先ず、債権の60%を占める債権者との間で2013年12月に、2014年10月満期の転換社債を新たな債権と資本金に交換することで合意に達し、優先株を持つ東芝とBabcock & Wilcoxと同様の処理を行う交渉を行ってきた。
今回、リストラ案がまとまったことから、Chapter11を申請し、裁判所の許可を得てリストラを実行する。
同社では3ヶ月~4ヶ月で処理が完了し、Chapter 11
から離脱できるとみている。
子会社のUnited States Enrichment Corporation がDIP(Debtor In Possession:占有継続債務者)ファイナンスを行うため、外部からの支援は必要としない。
Chapter 11 申請で、日常業務や新型遠心分離機開発に影響を受けない。
リストラの概要は以下の通りで、減資増資を行い、既存株主には新株式を5%与え、債権者には旧債権の放棄の代わりに新債権と残り株式を与える。
転換社債は2014年10月に満期となるもので、交換する新債権は期間5年だが、条件付で更に5年延長できる。
債権(百万ドル) 資本金 既存債権の放棄 新債権 減資 増資割当 債権者(債権の60%) 転換社債 530.0 200.00 79% Toshiba 優先株 37.5 20.19 8% Babcock & Wilcox 優先株 37.5 20.19 8% 既存株主 -100% 5% total 605.0 240.38 -100% 100%
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USEC Inc.は世界の四大ウラン濃縮企業の1社。2011年のシェアは以下の通り。
USEC:
エネルギー省が所管していたウラン濃縮事業が1993年7月に公社化され、合衆国濃縮公社(US Enrichment Corporation:USEC)が発足した。
1994年7月に米国政府が民営化を承認し、1998年7月28日までに株式を公開し完全に民営化されたUSEC Inc.が発足した。
ケンタッキー州Paducahにガス拡散法プラントを持つ。
URENCO:
英国、オランダ、ドイツが1/3ずつ出資する国際共同企業体で、英国とオランダは政府、ドイツはRWEとE.ON
が出資する。
英国のCapenhurst、オランダのAlmelo、ドイツのGronauで遠心分離法による濃縮工場の操業を行っている。
ROSATOM:
ロシア政府の原子力関連企業で、Novouralsk、Zelenogorsk、Seversk、Angarskに工場を持つ。
EURODIF:
フランス、イタリア、スペイン、ベルギー、およびイランの合弁会社で、フランスのArevaが約60%を出資する。
各社の詳細は:http://www.jaea.go.jp/03/senryaku/topics/t13-1.pdf
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原子力産業の民営化政策に沿って原子力国営企業の民営化を進めてきた英国政府は2013年4月22日、保有するウラン濃縮会社 URENCOの持ち株(1/3)の全て、または一部を売却する方針を明らかにした。
ドイツ側の株主E.ONとRWEも、ドイツの原子力発電所の停止対策と再生可能エネルギーや天然ガス火力発電などの代替エネルギーへの投資のための資金確保のためにURENCOの株の売却の検討を始めている。
英国政府とドイツ政府がURENCO株の売却を望んでいるのに対し、オランダ政府は現状維持を望んでいると伝えられている。
英国政府は、英国の安全保障や核技術の不拡散が担保され、かつ売却額が妥当と判断された場合にのみ売却する方針。
URENCO創設時の取り決めにより、株式取得者は3カ国の承認を得る必要がある。
フランスの原子力関連企業Areva、カナダのウラン鉱会社Cameco Corp や東芝などが株式取得を目指しているとされている。
核拡散につながる機微情報管理の問題を抱えており、売却先企業については多くの制約と関係国間の新たな条約が必要となるため、今後、紆余曲折が予想される。
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