IneosのJim Ratcliffe会長は3月7日付けでBarroso欧州委員会委員長宛に欧州化学産業についてのオープンレターを送った。
http://www.ineos.com/en/News/INEOS-Group/Letter-to-Mr-Barroso/
内容は以下の通りで、真意はカーボンタックス課税への牽制である。
欧州化学産業の将来について、深刻な懸念を伝えたい。悲しいことだが、欧州の化学産業の多くが10年以内に閉鎖の運命にある。
1980年代に欧州の繊維産業が壊滅したのをこの目で見た。化学も同じ運命(もう一つの恐竜)だ。しかし、化学産業はもっと大きく、欧州経済にとりもっと重要だ。直接従事が100万人、他に間接従事が500万人の職がかかっている。
化学セクターの売上高は全世界で 4兆3千億ドルあり、ドイツのGDPより多く、自動車セクターの売上高2兆6千億ドルよりもかなり多い。欧州では化学と自動車はそれぞれ1兆ドルでトップである。経済的には化学は欧州のjewels in the crownの一つである。
化学製品は生活のどこででも使われる。金属を作るのにも、繊維を作るのにも、陶器を作るのにも使われ、時計にも、消臭剤にも、iPhoneにも、車にも、衣服やNikeのシューズにも使われている。化学産業なしでは、欧州のこれらの産業はやっていけなくなる。
戦略的にも経済的にも、化学産業を捨てるわけにはいかない。
しかし、欧州は欧州の化学の運命について分かっていないようだ。
欧州繊維産業はアジアの低労賃に競争できず抹消された。Courtaulds社の100の繊維工場がすべて赤字を出し、閉鎖されていった。化学製品はエネルギーコストと原料コストの競争力に依存している。技術が重要であり、欧州のこれまでの成功も技術によっているが、技術だけでは救えない。
欧州のエネルギー(ガス)は米国の3倍もする。電力料は50%高い。欧州には安い原料はなく、米国や中東の原料コストはまるで別世界だ。
米国のシェールガスは米国の競争力と自信を変えてしまった。シェールガスで710億ドルもの石油化学新増設が行われている。
これに対し、欧州では閉鎖に次ぐ閉鎖である。
中東では、Abu Dhabi、Qatar、Saudiで建設が続き、イランでも600万トンのエチレンが新設される。
英国では2009年以降、22の化学プラントが閉鎖され、新設はゼロだ。
更に中国がある。英国の大学で技術を学ぶのは中国人だ。昨年息子が経済学部を卒業したが、先進工学の卒業生で優等は全て中国人で、英国人はいなかった。
中国は絶え間なくプラントを建設しており、これまで世界の余剰化学品を全て吸収したが、まもなく完全自給する。その後は流れを変え、輸出するだろう。2020年までに世界最大の経済になるのだ。
このなかで、EU本部や欧州各国は対案を持つのか? どんな防衛策を持つのか?
欧州では、環境税が導入される。シェールガスはない。原発は閉鎖される。製造業は追いやられる。独禁当局は輸入品がツナミのように押し寄せるのに気がつかず、企業がまともなリストラをしようとしているのを邪魔している。
INEOSの欧州の利益はこの3年で半分になった。米国での利益は3倍になった。
世界最大のBASFは、市場低迷、高いエネルギーコスト、高い労賃を理由に、これまでで初めて、欧州での投資を戦略的にカットすると発表した。欧州にとってよくないことだ。我々は激しい恐怖に襲われている。
欧州の化学産業を守るため、緊急対策を取ってほしい。
これについて Ratcliffe 会長は、INEOSが工場を閉鎖するとか、Grangemouth石化コンビナートの再建を取り止めるとかを言っているのではないとし、EUに直ちに何かをしろといっているのでもないとも述べた。
「しかし、政治家は化学産業がなくなった場合のことを考える必要がある。遅いと思った時はもう遅い。世界で最も高率のGreen Tax を課すのは結構なことだが、その結果、欧州の製造業がなくなってしまうなら、よくないことだ」としている。
European Chemical Industry Council のHubert Mandery会長も最近、欧州の温暖化対策が、競争相手が安いエネルギーの恩恵を受けているのに対し、欧州産業に高コストを負わせると警告した。「エネルギーと温暖化対策は負担可能なものでないといけない。欧州の競争力を削ぐと産業空洞化(de-industrialisation)に直結する」と述べた。
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・温室効果ガスを2030年に90年比で40%削減する。
・再生可能エネルギーを2030年にエネルギー消費量の27%まで引き上げる。
・エネルギー効率向上に向け、政策を本年中に見直す。
・排出量取引制度を改正する。現在の目標は2020年にトリプル20(排出量20%削減、再生可能エネルギー割合20%、エネルギー消費効率20%改善)で、これを更に強化する。
BASF、INEOS、Solvay、Totalなど欧州の主要化学企業14社のCEOは1月15日、Barroso欧州委員会委員長にオープンレターを出した。
http://www.solvay.com/en/binaries/Letter to Barroso January
2014-155252.pdf
オープンレターのタイトルは、エネルギー価格についての警告(Chemical Industry Warns Europe Over Energy Prices)で、「我々エネルギー多消費型製造業14社のCEOは欧州の将来(短期及び長期)に懸念を持つ」とし、EUのエネルギー・温暖化対策と、産業の競争力の復活・欧州への投資の再開という目標との調和を要請している。
温室効果ガス削減目標と産業の成長目標とを調和させ、厳密にモニターし、問題あれば再調整することを求め、カーボンタックスを製造業に課さないことなどを求めている。
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