近隣住民によるアスベスト訴訟、高裁も企業に賠償命令、国の責任は否定

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兵庫県尼崎市にあったクボタの工場周辺で生活し、アスベスト特有のがんで死亡した住民(男女 2名)の遺族が、国やクボタに賠償を求めた裁判で、大阪高裁は3月6日、 男性については、一審(神戸地裁:2012年8月7日)と同じくクボタの責任を認めて、約3190万円の支払いを命じたが、女性については却下した。

工場従業員ではなく、工場周辺の石綿健康被害を巡り、高裁レベルで企業の責任を認めたのは初めて。

国が被害防止の立法や規制をしなかったことについては、一審と同様、違法性はないと判断した。

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旧神崎工場は1954〜1995年に石綿を含むパイプなどを製造していた。

男性は1939~75年に、同工場の約200メートル先の工場に勤務、自宅は約600メートル離れていた。

一審では「中皮腫発症は旧神崎工場から飛散した石綿粉じんに暴露したのが原因」として、約3190万円の賠償を認めた。

今回の高裁判決では、「当時20年にわたり工場から300メートルの範囲内で1年以上住んだ人は、中皮腫を発症する危険性が高い」 とし、一審と同じ賠償を認めた。
遅延損害金についても、一審判決は訴状送達の翌日からとしたが、今回は男性が死亡した日までさかのぼり、1800万円余りの支払い を命じた。

女性は1960年から1995年まで、1.1〜1.5キロ離れた家に住んでいた。

一審では石綿と発症との因果関係ありとは認めたが、以前の居住地域にも石綿関連工場があったことなどから、「原因が旧神崎工場と特定できない」として請求を退けた。

控訴審では原告側は「疫学調査の結果から、工場から1.5キロまでは危険だった」と主張したが、高裁は、「旧神崎工場から飛散した石綿で中皮腫が発症したとはいえない」として請求を退けた。


国の賠償責任については、一審では「1975年以前に周辺住民の発症リスクが高いとの医学的知見はなく、健康被害を防止する立法をしなかったことが違法とはいえない 」とした。

控訴審で原告側は、国際がん研究機関が1972年に石綿工場周辺の危険性を指摘していたとして、国がその時点で公害として規制すれば2人は死亡しなかったと主張したが、高裁は、「1975年以前に周辺住民の発症リスクが高いとの医学的知見はなかった」と指摘、国が被害防止の立法や規制をしなかったことに違法性はないと判断した。

原告側は判決を不服として上告する方針。

「クボタ」は「主張が認められず残念です。判決の内容をよく見て、上告を含めて今後の対応を検討します」とコメントしている。

2005年に工場周辺住民に中皮腫の発症が多発していたことが分かり、クボタは2006年に救済金制度を設け、2013年9月末時点で計255人に1人最高4600万円を支払った。ただ、工場の石綿との因果関係は認めていない。

原告らは救済対象だったが、裁判で責任を問いたいと提訴した。

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アスベスト被害での国の責任についての国側の主張は下記の通り。

最高裁の判例(筑豊じん肺訴訟最高裁判決等)上、規制権限の不行使が国家賠償法上違法となるのは、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、当時の具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限られる。

国は、戦前から、石綿についても粉じんの一つとしてその衛生上の有害性を認識し、その時々の医学的知見、工学的知見に応じ、使用者に一定の義務を課すなどの措置を講じ、適時、措置を強化してきたものであり、国の規制権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められず、国家賠償法上の違法は認められない。

これまでの判決は以下の通りで、高裁レベルでは大阪アスベスト訴訟第一陣が原告敗訴、第二陣では国側が敗訴と分かれている。
今後、最高裁で判断が出る。

他に、屋外型訴訟では地裁レベルで判断が分かれている。

  一審 二審 現状
大阪アスベスト
訴訟(第1陣)
大阪地裁(2010/5) 賠償支払い

綿対策を省令で義務づけなかったのは違法」
大阪高裁(2011/8) 一審判決取消

「国が1947年以降、健康被害の危険性を踏まえて行った法整備や行政指導は著しく合理性を欠いたとは認められない」
原告上告

2011/8/30 アスベスト被害訴訟、高裁で逆転判決 

大阪アスベスト
訴訟(第2陣)
大阪地裁(2012/3/28)

「1959年までには石綿肺の医学的知見が集積され、国は粉じんによる被害が深刻だと認識していた」
「旧じん肺法が制定された60年までに対策を取るべきだった」

60~71年の期間外に勤務していた従業員や、勤務先から十分な賠償を受けたと認められる原告の請求は棄却

原料搬入の運送業者の元従業員1人の遺族の請求も認定

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50人に総額約1億8千万円賠償命令

従業員の健康被害について最終的責任を負うのは使用者→被害額に対する国の責任の割合 1/3

大阪高裁(2013/12/25)

1971年までに石綿粉じんを除去する排気装置の設置を罰則付きで義務づけなかったのは著しく合理性を欠き、違法

工場内の石綿粉じんの濃度規制については、1988年まで学会の勧告値に従わなかった点は「遅きに失した」

 

 


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170名に対し総額10億6394万円賠償命令

 損害賠償額を増額
 喫煙による減額を否定
 被害額に対する国の責任の割合 1/2

原告・被告双方が上告
屋外型の横浜
建設アスベスト訴訟
横浜地裁(2012/5/25)

原告の請求を全て棄却

「1972年時点で、石綿粉じん曝露により肺がん及び中皮腫を発症するとの医学的知見が確立した」

それ以前はもちろん2006年に至るまでアスベスト建材の使用を全面禁止しなかったこと等について、「著しく合理性を欠く」と言うことまではできない。

   原告控訴
屋外型の東京
建設アスベスト訴訟
東京地裁(2012/12/5)

国に対する請求を一部認容
170人に総額10億6394万円の賠償命令

 双方が控訴
2012/12/10  建設労働者アスベスト訴訟、国に初の賠償命令

 


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