中国商務部は本報告について遺憾の意を表し、WTOの紛争解決手続きに基づき今後の後続作業を行うとしている。
WTOは2012年にも、中国のレアメタル輸出規制に対してWTOのルールに違反しているとの報告書を出している。
中国による上級委員会への上訴は却下され、中国は貿易制限を廃止した。
対象は、ボーキサイト、亜鉛、黄燐、コークス、蛍石、マグネシウム、マンガン、炭化ケイ素、シリコン金属の9種の鉱物資源で、中国は輸出関税、輸出割当、最低輸出価格、輸出許可制などの輸出制限 を行っていた。
2012/2/6 中国のレアメタル輸出規制、WTOが規則違反認定
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中国は1997年にレアアース製品の輸出許可制度を開始した。
2006年に輸出枠を減らすとともに、11月からレアアース鉱石・酸化物の輸出に10%の課税を開始、2007年6月からはレアアース金属にも10%課税した。
2008年にレアアース製品の輸出税を15~25%に引き上げた。
中国の輸出枠の推移は以下の通り。(トン)
2005 2006 2007 2008 65,580 61,070 59,643 49,990
2009年に中国のレアアースの過度な開発問題について、全国人民代表大会(全人代)代表の周洪宇氏が「レアアース生産・輸出の厳格な規制を求める建議」を全人代に提出した。中国のレアアース生産量は2005年に世界の96%を占め、輸出量で世界一となったが、乱開発されており、無秩序な開発で採掘現場での回収率も低効率の状態にあるとした。
国家発展改革委員会は乱開発がこのまま続けば、20~30年で中国のレアアースは枯渇すると した。
2009/4/22 中国がレアアースの輸出を制限?
中国政府は2010年下期に輸出枠を激減させ、年間輸出枠を前年の50千トンから30千トンへと4割減らし、その後もその水準を維持している。
2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | |||
輸出枠 | 上期 | 軽希土 | 18,585トン | 13,563トン | 13,314トン | |||
中重希土 | 2,641トン | 1,938トン | 1,796トン | |||||
合計 | 21,728トン | 22,282トン | 14,446トン | 21,226トン | 15,501トン | 15,110トン | ||
下期 | 軽希土 | 8,537トン | 13,821トン | |||||
中重希土 | 1,233トン | 1,679トン | ||||||
合計 | 28,417トン | 7,976トン | 15,738トン | 9,770トン | 15,500トン | |||
年間 | 軽希土 | 27,122トン | ||||||
中重希土 | 3,874トン | 3,617トン | ||||||
合計 | 50,145トン | 30,258トン | 30,184トン | 30,996トン | 31,001トン | |||
輸出実績 | 39,813トン | 18,600トン | 16,265トン | 22,493トン |
更に2010年12月に、2011年からのレアアースの輸出税を更に引き上げた。
現状 2011年 ネオジム 15% 25% ジスプロシウム 25% 25% テルビウム 25% 25% ランタン 0% 25% セリウム 0% 25% 他のレアアース・スカンジウム・イットリウムとの混合物 25% 25%
2010/12/18 中国、レアアース輸出税を引き上げ
輸出枠の急な削減で、レアアースの価格は急騰した。
更に、2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事件の後、日本向け輸出の審査が停滞し、大混乱となった。
レアアースの輸出実績は以下の通りで2003年をピークに減少している。
輸出枠が急減した2010年下期は輸出量を集計している間に枠を超え、年間輸出量は枠を超える40千トン弱となったが、その後は激減した。
輸出枠の急減と価格の高騰に対し、日本企業を中心に、中国以外のソースの権益取得、新技術・代替材料採用によるレアアースの使用減、レアアース製品のリサイクル等の対策を取った結果、2011年には中国の輸出量は輸出枠を下回るに至った。
中国工業情報化部では以下の通り述べている。
2011年のレアアース輸出割当は、余りが出るだろう。
中国はレアアースの輸出を制限していない。レアアース業界に対して行った規制強化も市場供給に影響しなかった。輸出割当分の輸出が行われなかったのは、需要が減少したためである。
この主な理由はレアアース価格の高騰による需要の減少だ。これまでレアアース価格が低く見積もられていたが、現在はそれが是正された。(2012年には中国は輸出枠未達の理由を密輸によるものとしている)
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2012年3月、日本、米国、EUは、中国のレアアース、タングステン、モリブデンの輸出制限をWTOに提訴した。
問題となったのは次の点:
対象品目:レアアース、タングステン、モリブデン
輸出制限行為:
1)輸出税
2)輸出割当
3)輸出企業に課せられた制限
今回の報告内容は以下の通り。
1)輸出税
提訴側:
WTO加盟議定書で中国は付属書記載以外の輸出税を撤廃するとしている。
タングステン鉱石とその濃縮物以外は付属書に記載されておらず、輸出税は課すことが出来ない。
中国側:
GATTのArticle XXには "General Exceptions" の規定があり、人・動物・植物の生命・健康の保護に必要な場合は対策が認められている。
これら製品の採掘による公害から生命・健康を保護するために輸出関税は必要である。
パネル:
General Exceptions規定は中国の加盟議定書での輸出税撤廃義務違反の正当化には使用できない。(多数意見)
(例外意見:General Exceptions規定は適用できないと明示された場合以外は適用できる。輸出税撤廃は不適用と明示されていない)仮にGeneral Exceptions規定が適用されたとしても、輸出税は人・動物・植物の生命・健康の保護に必要ではない。(全員意見)
2)輸出割当
中国側:
この制限はGATT 1994に違反だが、枯渇する天然資源の保護のためであり、Article XX(g) にある例外規定で正当化される。
パネル:
中国の輸出割当は資源保護のためよりも産業政策目標の達成のためである。
Article XX(g)の "conservation"は単なる天然資源の "preservation"よりも大きな意味を持つもので、各国は持続可能な開発のニーズを考慮に入れることが出来る。しかし、"conservation"を天然資源の国際市場をコントロールする手段に使うのは許されない。
更に、Article XX(g)の要件に国内市場の制限策が求められているが、これが行われていない。
中国側の主張する国内での諸策を検討した結果の結論は、全体としての効果は、国内の採掘を推進し、中国の製造者がこれを優先的に使用するのを確保するためということになる。
Article XX(g)のもとで求められる公平性("even-handedness")が見られず、輸出割当はこの規定では正当化できない。
3)輸出企業に課せられた制限
パネル:
中国は Article XX の例外規定を主張するが、貿易の権利の制限がこの規定で正当化できるかを十分に説明していない。
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これを受け、商務部条約法律司の楊国華副司長は「中国は今、WTOルールに合致した規範・制度を構築して、レアアースなどの戦略的資源を保護することを考えている。たとえば採掘総量の制限や資源税といった方法により資源類製品の輸出を管理する道を模索している」と述べた。(人民網)
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