アルゼンチン政府は2012年4月16日にスペインの石油会社 Repsol-YPF のアルゼンチン子会社 YPF を国有化する方針を示し、アルゼンチン下院は5月3日、国有化法案を可決した。
YPFはもともとアルゼンチンの国有石油会社だったが、1999 年の民営化に伴う政府放出株式をRepsol
が購入した。
アルゼンチン政府は0.2%の"golden-share"を持ち、買収拒否権などの重要事項についての権利を持つ。
Repsol はYPF の買収後、2008年にアルゼンチンの億万長者Eskenazi
一族に15%を売却、2011年には更に10%をEskenazi に売却した。
アルゼンチン政府はRepsolの持ち株57.4%のうち、51%分を接収した。
時価による買収ではなく、資産没収で、補償額は国家評価裁判所(National Appraisal
Tribunal)が決定するとするだけで詳細は明らかにされなかった。
Repsolは2012年5月にニューヨークの裁判所に105億米ドルの損害賠償を求めて民事訴訟を起こし、2012年12月3日にアルゼンチン政府を相手取り、世界銀行傘下の投資紛争解決国際センターに仲裁を提訴した。
2012/4/19 アルゼンチン大統領、スペイン石油大手傘下を国有化へ、スペインは反発
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Repsolは2014年2月25日、アルゼンチン政府との間の合意書を取締役会が承認したと発表した。
Repsolの株主総会による承認と、アルゼンチン議会の承認を得て発効する。
合意書は、YPF の51%持分の接収の補償として50億米ドルを支払うとしている。
支払いは米ドル建てのアルゼンチン政府の長期債で行われるが、アルゼンチン政府債は2002年のデフォルト以降、大幅な割引率で取引されているため、複雑な仕組みとなった。
1)基本パッケージ 額面合計50億米ドル
Bonar X債 5.0億米ドル 年利7%、2017年償還 Discount 33債 12.5億米ドル 年利8.28%、2033年償還 Bonar 2024債 32.5億米ドル 年利 8.75%、2024年償還 合計 50.0億米ドル
2)補完パッケージ 額面合計10億米ドル
Boden 2015債 4.0億米ドル 2015年償還 Bonar X債 3.0億米ドル 年利7%、2017年償還 Bonar 2024債 3.0億米ドル 年利 8.75%、2024年償還 合計 10.0億米ドル
政府債の市価が下がった場合、補完パッケージの政府債で調整する。
Repsolは満期まで保持しても、売却してもよいが、利息とコストを除いて50億米ドルを超えた分は政府に返却する。
この債券がデフォルト(債務不履行)に陥ってもRepsol
が50億ドルを受け取るまではこの債務は返済されたことにならない。
もし政府債が支払われない等の場合、Repsolは未払い分を国連国際商取引法委員会を通して期限前支払いを求める権利を有する。
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アルゼンチンはYPFの持つVaca Muerta油田の開発に外資を必要とするが、Repsol からの訴訟を恐れ、外資は参入をためらっていた。
今回の解決には、両国の政治家のほか、メキシコ政府も関与した。
メキシコ国営石油のPemexはRepsol の第3位(9.4%)の株主であり、メキシコはアルゼンチンと密接な関係を持つ。PemexはVaca
Muerta油田の開発参入に関心を示している。
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なお、RepsolからYPFの株を2回にわたり買収(15%+10%)したアルゼンチンの億万長者Eskenazi 一族のPetersen
Groupは、2回目の買収資金の借入金でデフォルトを起こし、グループの持ち株は金融機関等が担保として取り上げた。
債権者の一社であるRepsolはこれにより、接収後の持ち株 6.4%を12%に増やした。
Repsol では、YPFの持ち株売却やスペインのGas Natural Fenosaの持ち株(30%)の売却を行い、それらの資金と今回の補償金で北米で石油資産を購入し、YPFで失った分を補填する構想を持っている。
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