水俣病被害者互助会の8人が、国と県、原因企業チッソに総額2億1200万円の損害賠償を求めた訴訟で、熊本地裁は3月31日、3人の損害を認め、被告に賠償を命じる判決を言い渡した。5人については棄却した。

重症で介護が必要な男性1人には、認定患者がチッソと交わす補償協定の慰謝料(1600万〜1800万円)を大きく超える額が認められた。

症状を訴えて県に水俣病認定申請をしたが、認められず棄却されたり、結論の出ていない9人が、2007年10月に提訴したもので、うち1人は2013年11月に国の公害健康被害補償不服審査会の逆転裁決を受けて熊本県から患者認定され、訴えを取り下げた。

概要は下記の通り。

1人   (2013年11月 行政認定→訴え取り下げ) 1600万円 (チッソと補償協定)
1人 請求 1億円
(
全身の機能障害)
手足のしびれ(感覚障害)などの症状とメチル水銀との因果関係を認定
 ・同居家族や出生地周辺で認定患者がいること
 ・残されていた臍の緒のメチル水銀値など
1億500万円 介護費用や後遺症への慰謝料など
2人 請求
 各1600万円
 (チッソ慰謝料
        最低額)
220万円 控訴する方針
440万円
5人 各症状は心因性や他の病気が原因の可能性が高い
 ・家族に認定患者がいないこと
 ・家族の水銀摂取状況など

  棄却


原告は熊本、鹿児島両県に住む54~61歳の男女8人。
1953~1960年(水俣病公式確認は1956年)に水俣市、津奈木町、芦北町、鹿児島県長島町で出生した。

胎児期・小児期からチッソの排水でメチル水銀に汚染された魚介類を食べた影響で、水俣病の典型症状である手足の感覚障害や、頭痛、めまい、こむら返りなどがあり、肉体的・精神的な苦痛を受けていると訴えた。
「ほかに原因を証明できなければ水俣病と判断できる」と主張した。

うち7人は、認定患者がチッソとの協定に基づいて受け取る慰謝料の最低額と同じ1600万円、全身の機能障害がある1人は1億円を請求した。

被告側は、原告がメチル水銀を摂取した客観的証拠は乏しく、症状は別の病気などが原因と反論。
仮にメチル水銀中毒が原因としても、2001年の関西訴訟大阪高裁判決が認めた損害額と比べ、「原告7人の症状は特に強いとも言えず、1600万円は高額すぎる」と主張した。

2001年の高裁判決は、排水規制をしなかった国と県の過失を指摘、水俣病の認定基準も間違っているという判断を下し、「汚染された魚介類を多く食べ、指先や舌先の感覚に障害があれば認定できる」との基準を示し、女性ら37人を水俣病と認定、国と県、チッソに原告1人あたり障害の程度を考慮して400万円、600万円、800万円の賠償責任があることを認めた。

2004年10月の最高裁判決は二審・大阪高裁判決が示した基準を支持し、高裁判決が確定した。

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水俣病を巡っては、最高裁が2013年4月、複数症状を要件とした現行の認定基準よりも幅広く患者認定する道筋を示した。

・司法が独自に患者認定審査審査しうる。
・環境庁の「手足のしびれや視野狭さく、運動障害など複数の症状の組み合わせ」を条件とするという「52年判断条件」に基づく高裁判決を破棄。

   「52年基準」に合うものは個別的な因果関係について立証の必要がないとするものにすぎない。
   それ以外でも諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、水俣病と認定する余地を排除するものとはいえない。

2013/4/17  水俣訴訟、最高裁判決

これを受けて環境省が2014年3月に打ち出した新指針は、「水俣病を発症するに至る程度のメチル水銀」の摂取を証明する客観的な資料の提出を求めている。

2013/1/14  水俣病認定基準 

今回の判決は「汚染された魚を多食した」という証言だけでは証明が不十分との立場を示した。