日豪EPA大筋合意

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安倍晋三首相と豪州のアボット首相は4月7日、経済連携協定(EPA)で大筋合意した。来年初めにも発効させることを目指す。

豪州は日本にとって第4位の貿易相手国(中国、米国、韓国に次ぐ)で、これまで日本が締結した二国間EPAのパートナーとして最大の貿易相手国である。
また、農業大国と結ぶ初の本格的なEPAである。

往復貿易額の約95%を協定発効後10年間で関税撤廃するもので、日本は10年以内に88%超の貿易品目で輸入関税を撤廃する。

豪州の市場開放は以下の通り。

鉱工業品  大部分の品目で即時関税撤廃
自動車 現状:5%
完成車輸出額の約75%が即時関税撤廃
主力の1500cc超3000cc以下のガソリン車は即時関税撤廃
残りの完成車も3年目での関税撤廃
自動車部品 即時を含む主に3年目以内の関税撤廃
鉄鋼 即時又は5年目での関税撤廃
一般機械
電気機械
(除 自動車部品)
即時関税撤廃
農林水産品 全ての品目で即時関税撤廃


日本の市場開放は以下の通り。

鉱工業品 ほぼ全ての品目で即時から10年間で関税撤廃
農林水産品 コメ 関税撤廃対象外
食糧用麦 将来の見直し
飼料用麦 政府による管理貿易を廃し、関税ゼロ
砂糖 将来の見直し
脱脂粉乳・バター 将来の見直し
牛肉 現状は38.5%
冷凍牛肉:1年目に30.5%に、段階的に18年目に19.5%まで削減
冷蔵牛肉:1年目に32.5%に、段階的に15年目に23.5%まで削減



但し、セーフガードを導入(一定量を超えた分は38.5%に戻す)
 冷凍牛肉:初年度 19.5万トン、10年目 21万トン
 冷蔵牛肉:初年度 13万トン、10年目 14.5万トン
チーズ 原料用ナチュラルチーズ:無税枠設定(5,250トン、20年で16,100トン) 
ブルーチーズ:10年で関税 2割削減
粉チーズ:低関税枠設定
フローズンヨーグルト 低関税枠設定
アイスクリーム 低関税枠設定
ワイン 7年間で段階的に関税撤廃


付記 

牛タンを含む「牛内臓・調製品」:輸入枠設定(協定発効時 22,300トンから10年間かけて29,300トンに)
                    枠内関税は牛タンで12.8%が7.6%に

「豚肉等」(含 ベーコン、ハム):輸入枠設定(協定発効時 6,700トンから5年間かけて16,700トンに)
                     現行の差額関税制度(基準価格より高い場合 4.3%)で枠内関税は2.2%になる。


日本(及び韓国)にとって輸出の最重要事項は、自動車及び自動車部品の輸出の関税撤廃である。

韓豪FTAでは日豪EPAとほぼ同じ結果を得ている。

中型車(1500~3000cc)と小型車(1000~1500cc)の即時撤廃
自動車部品は3年以内に撤廃

実は、これについては豪州の立場は米国と異なる。
米国は日韓からの輸出を出来るだけ抑えたいとの姿勢だが、豪州の場合は2017年末には製造メーカーがなくなるため、自動車輸入を制限する必要は無く、実際には豪州からの農産品輸出を増やすための交渉材料に過ぎない。

トヨタ自動車は4月10日、オーストラリアでの車両・エンジン生産から2017年末までに撤退すると発表した。

Toyota Motor Corporation Australiaは1959年に設立され、カムリやカムリハイブリッド、オーリオンなどの生産を行ってきた。
トヨタの新車販売台数は221千台強とシェア首位。
生産撤退の理由としてトヨタでは「厳しい市場環境や豪ドル高の他、今後、オーストラリア自動車産業全体において生産規模の縮小が見込まれること」を挙げている。

同国での販売は日本やアジアからの輸出に切り替えて継続する。

2008年には三菱自動車が現地生産から撤退米フォードモーターも2016年10月までにオーストラリア2工場を閉鎖すると発表した。2013年12月にはGMが2017年末での生産撤退を発表したばかり。
トヨタの生産撤退で、同国で自動車生産するメーカーはなくなる。

ーーー

今回の日豪EPAにおける牛肉の扱いは、今後の日米のTPP交渉に影響を与えるとともに、2014年4月8日に署名された韓豪FTAの批准にも影響を与える可能性がある。

韓豪FTAでは韓国は、
牛肉などの492品目の関税は10年以上かけて撤廃となっている。

牛肉、精製糖、麦、トウモロコシなどの品目にはセーフガード措置を導入
コメ、粉乳、果実(リンゴ、梨、柿など)、大豆、ばれいしょ、水産物(カキ、明太子など)など171品目 (1.4%分)は除外   

また、韓米FTAでは牛肉は40%の関税を15年で撤廃することとなっている。

韓国が最終的に牛肉の関税を撤廃するのに対し、日豪EPAでは現状38.5%の関税を冷凍牛肉は18年目に19.5%に、冷蔵牛肉 は15年目に23.5%まで削減するというもので、かつ、セーフガードがついている。

米国は4月9-10日のTPP交渉で、関税撤廃の要求を断念したが、数%にまで下げる「実質的な関税撤廃」を要求、日本は拒否して合意に至らなかった。

自民党は、米国とのTPP交渉にあたって、日豪EPAの大筋合意を「ぎりぎり越えられない一線」とする決議を採択した。

日本の牛肉の供給ソースは下図のとおりで、豪州と米国が二大輸入元であるが、豪州産が減少傾向にあるのを利用し、豪州の譲歩を確保した。
更にこれを基にして、米国に対し同様の結果を呑ませる作戦である。

 

しかし、米国にとっては原則が関税撤廃のTPP交渉での譲歩は難しいと思われ、TPP交渉が短期にまとまる可能性は少ない。
更に、韓国内で日本との違いが大きいことに関して不満が出る可能性もある。




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