4月3日には更に485ドルに引き上げた。これまでの価格の1.8倍となる。 (付記 輸出関税割引制度の撤廃)
現状: 268.5$/1000m3 (6.7125$/MMBTU) 2014/4-6: 385.5$/1000m3 (9.6375$/MMBTU) → 485.0$/1000m3 (12.125$/MMBTU) 注) 天然ガス 1,000m3=40MMBTU
アレクセイ・ミレルCEOは、ウクライナのガス料金未払い分が17億ドルに達しているため、値上げは必要だとの見解を示し、「2013年12月合意の割引はもはや適用できない」と述べた。
GazpromのEU向けの平均ガス価格は370$/1000m3 (9.25$/MMBTU) となっている。ウクライナは旧ソ連ということで国際価格よりもはるかに安い価格で天然ガスの供給を受けてきた。
今回も大幅値上げといっても、EU並みの国際価格であり、日本のLNGでの購入価格(16ドル前後)よりもはるかに安い。
仮に将来、米国からのLNG輸入が可能となっても、これより大幅に安くなることはないと思われる。
2014/4/1 米国からの欧州向けLNG輸出
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2013年のウクライナ向け天然ガス価格は401$/1,000m3(10.025$/MMBTU)であった。
ウクライナは2013年に欧州連合との政治・貿易協定の仮調印を済ませたが、ロシア寄りの姿勢を見せるヤヌコビッチ大統領は2013年11月、EUとの関係を強化する「連合協定」の締結を見送り、ロシアとの協力関係を密にする方針に転換した。
ヤヌコビッチ大統領は2013年12月17日にモスクワでプーチン大統領と会談、ロシアはウクライナに対し150億ドルの金融支援を実施し、天然ガスの価格を2014年1月から約3分の1引き下げることで合意した。
2013年: 401 $/1000m3 (10.025$/MMBTU) 2014年: 268.5$/1000m3 ( 6.7125$/MMBTU)
親EUから親ロへの転換で、欧州連合寄りの野党勢力から強い反発が起こり、ウクライナ国内は大規模な反政府デモが発生するなど騒乱状態に陥った。
事態収拾のためヤヌコビッチ大統領は2014年2月21日には挙国一致内閣の樹立や大統領選挙繰り上げなどの譲歩を示したがデモ隊の動きを止めることはできず、2月22日に首都キエフを脱出、政権は崩壊した。
2014年3月、ロシア軍はクリミア半島の一部の施設を占拠して半島を実効支配、3月16日にクリミア自治共和国およびセヴァストーポリ特別市で、ロシアへの編入を問う住民投票が行われ、96.77%がロシアへの編入への賛成を示した。
翌17日、クリミア最高会議はウクライナからの独立とロシア連邦への編入を決議した。
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ロシアは天然ガスを武器に旧ソ連各国をロシア圏にとどめようとしている。
ベラルーシとの間でも2007年に紛争が起こった。同国は現在は親ロであり、安い価格で天然ガスの供給を受けている。
2007/1/15 ロシア・ベラルーシ石油抗争 解決
ベラルーシやウクライナ向けのパイプラインは欧州につながっており、欧州各国も紛争の余波を受けた。
ウクライナ向け天然ガス価格は2006年以降、下図のような推移をたどっている。
JOGMEC資料を補正 |
1)2006年
ウクライナは2004年暮の「オレンジ革命」以来、親ロシア政策を放棄して、EUとNATOへの加盟を志向する親自由主義国家となった。
2005年4月、ガスプロムがウクライナ政府に対し、それまでの1,000立方メートルあたり50ドルから160ドルへの値上げを提示、後に更に230ドルに引き上げた。
交渉は紛糾し、2006年に入り、ガスプロムはがウクライナ向けのガス供給を停止した。
(EU向けと同じパイプのため、ウクライナ向け対応の30%を削減した)
しかしウクライナ側は、これを無視してガスの取得を続けたため、パイプライン末端のEU諸国のガス圧が低下し、各国は大混乱となった。
問題が二国間の問題に止まらず国際問題となったため、両者は急速に歩み寄りを見せ、1月4日に期間5年、95ドルで妥協した。
2005年: 50$/1000m3 (1.25$/MMBTU) 2006年ロシア要求: 230$/1000m3 (5.75$/MMBTU) 決着: 95$/1000m3 (2.375$/MMBTU)
2) 2009年
ロシアの独占天然ガス会社 Gazprom は2009年1月1日、ウクライナへの天然ガス供給を完全に停止した。両国は、20億ドル以上とする天然ガス供給の代金未払いや債務、滞納の罰金支払いの調整及び2009年からの価格について年末から協議していたが、31日までの交渉が不調に終わったため、強硬措置に訴えた。
2008年のウクライナ向け天然ガス価格は179$/1000m3 だが、両国は今後段階的に引き上げることで合意、ガスプロムは250ドルを提案したが、ウクライナは201ドルを主張してこれを拒否した。ガスプロムは1月4日、価格を450ドルに引き上げると発表した。
1月18日、ロシアのプーチン首相とウクライナのティモシェンコ首相がガス価格の引き上げに大筋で合意、19日に今後10年間のヨーロッパ向けガス輸送と、ウクライナへのガス供給を確認する合意文書に調印した。
・2009年のガス料金は欧州向け価格より20%割り引く。
・2010年以降のガス料金は欧州並とする。(石油価格と連動)
2009/1/2 ロシア、ウクライナ向け天然ガス供給停止
3) 2010年
2010年4月21日、ウクライナのヤヌコビッチ大統領はロシアのメドべージェフ大統領と会談し、焦点のウクライナ向け天然ガス輸出価格の引き下げで合意した。ロシアは見返りにクリミア半島の黒海艦隊の基地貸与の延長を取り付けた。
天然ガス価格は既存の契約(1000立方メートルあたり 330ドル)から3割引き下げとなる。総額では年40億ドルに達する見込み。ウクライナはガス価格の引き下げで財政負担を軽減し、中断している国際通貨基金からの融資再開に弾みを付ける。
市場価格に連動した現行協定を踏まえつつ、1000m3あたり330ドルを超えた場合には100ドル分を値引き、それ以下の場合には3割値引きする。
ロシアは価格引き下げと引き換えにクリミア半島に駐留するロシア黒海艦隊への基地貸与を期限の2017年から、最大30年間延長することで合意した。ユーシェンコ前大統領は延長を認めない構えだった。
旧ソ連の黒海艦隊は、ソ連崩壊後、ロシアとウクライナに分割され、1997年の協定でロシア艦隊の20年間駐留が決まった。
2010年に25年間延長が決まった。
4)2013年
2013年に入り、ロシアのGazprom はウクライナのNaftogaz
に対し、70億ドルの請求を行った。
2009年の売買契約での"Take or Pay" 条項に基づくとしている。
これに対しNaftogasは、以前から2009年の契約が価格その他の条項がアンフェアだとして再交渉を要求している。
ウクライナの姿勢は価格面でロシアから譲歩を引き出す戦術とも見られるが、これに対しロシア側は、値引きの条件として、ウクライナが関税同盟(ロシア、ベラルーシ、カザフスタンが加盟)に参加するか、欧州に通じるパイプラインの経営権を渡すことを挙げた。
2013/2/19 ロシアとウクライナ、天然ガス で再び抗争
最終的には上記の通り、ヤヌコビッチ大統領はEUとの関係を強化する「連合協定」の締結を見送り、ロシアとの協力関係を密にする方針に転換し、ロシアはウクライナに対し150億ドルの金融支援を実施し、天然ガスの価格を2014年1月から約3分の1引き下げることで合意した。
しかし、ヤヌコビッチ政権の倒壊、クリミアのウクライナからの独立とロシア連邦への編入で、ロシアにとってはウクライナは同盟国扱いの対象ではなくなった。
ロシアは2010年4月の値下げの見返りにクリミア半島の黒海艦隊の基地貸与の延長を取り付けたが、本年3月下旬に、クリミアが自国の一部になったとして、黒海艦隊の駐留に関する契約を破棄をウクライナに通告している。
4月2日、プーチン大統領は、ロシア艦隊の駐留に関する全ての合意を破棄する法案に署名した。年間1億ドルの基地使用料支払いもなくなる。
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ウクライナ新政権は3月27日、IMFとの交渉で140億ドル以上の金融支援融資を受けることで基本合意した。
これには、電気、ガス料金の大幅引き上げ、年金改革や公務員の給与凍結等の厳しい条件がついている。
ウクライナ政府は長年にわたってガスを低価格で国民に供給するため年間100億ドル規模の巨額の補助金を投入しており、財政悪化やエネルギー産業の非効率の一因となってきた。
ウクライナ最大の国営ガス会社ナフトガスは3月26日、一般家庭向けのガス料金を5月1日から5割値上げすると発表した。
今回のロシアによる天然ガスの大幅値上げ通告で値上げ幅は更に拡大する。新政権は近く社会保障給付の削減にも踏み切る方針で、生活水準悪化に対する国民の不満が高まることが予想される。
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