光ファイバーケーブルと自動車用ワイヤーハーネスの2件の価格カルテルで課徴金合計88億円を支払った住友電工に対し、同社の株主が当時の経営陣に同額の損害賠償を求めた株主代表訴訟で、5月7日、経営陣側計22人が同社に解決金5億2000万円を支払うことなどを条件に大阪地裁で和解が成立した。
株主代表訴訟の和解額としては過去最高である。
2件の課徴金支払いを受け、関西在住の株主が2010年と2012年に相次いで提訴したもの。地裁の勧告を受けて和解が成立した。
和解では、外部調査委員会が発生原因や責任の所在を調査し、再発防止策をまとめることが含まれる。
解決金は、内部通報制度の外部受付窓口の運営や、社員の研修プログラムの充実など、コンプライアンス体制の推進に充てる。
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問題のカルテルは以下の2件。
1)光ファイバーケーブル
公正取引委員会は2010年5月、NTT東日本などが発注した光ファイバーケーブルなどの受注をめぐり、価格カルテルを結んだとして、住友電気工業など5社に排除措置命令を出し、総額約160億円の課徴金納付を命令した。
アドバンスト・ケーブルシステムズ(Corning Cable Systems 50%、日立電線
50%)は自主申告で課徴金免除となった。
古河電工は、自主申告で課徴金が3割減の46億円となったことを明らかにしている。
しかし、住友電工は自主申告による課徴金減額を受けていない。
課徴金納付命令 単位:千円
NTT東日本等向け NTTドコモ
向け合計 光ファイバー
ケーブルFAS
コネクター熱収縮
スリーブ光ファイバー
ケーブル住友電工 6,267,740 182,230 33,560 279,190 6,762,720 古河電工 4,273,350 136,800 22,470 173,400 4,606,020 フジクラ 4,176,050 118,360 15,400 101,830 4,411,640 昭和電線
ケーブルシステム199,030 ー ー ー 199,030 住友スリーエム ー 120,020 ー ー 120,020 アドバンスト・
ケーブルシステムズ(自主申告で免除) 合計 14,916,170 557,410 71,430 554,420 16,099,430
2010/5/26 光ファイバーケーブルのカルテルで過去最高の課徴金
株主は以下の点を問題視したが、監査役は提訴しないことを決めたため、代表訴訟を行った。
① 本件カルテルに関与又は黙認した過失
② カルテル防止に関する内部統制システム構築義務違反
④ 実際にリーニエンシーを利用しなかった過失2010/11/8 光ファイバーカルテルで住友電工に株主代表訴訟
2)自動車用ワイヤーハーネス
公取委は2012年1月、トヨタ自動車等の自動車メーカーが発注する及び同関連製品の見積り合わせの参加業者らに対し、排除措置命令と課徴金納付命令を行った。
住友電工は日産自動車向けでは1番目の自主申告で課徴金が免除されたが、残る3社分は2番目で50%の減額だった。
株主側は「早期に不正を発見し、日産のケースと同様にリーニエンシーを十分に利用しなかった過失がある」と主張した。
排除
命令課徴金額 (千円) 《 》は減免率 トヨタ
向けダイハツ
向けホンダ
向け日産
向け富士重工
向け合計 矢崎総業 5件 4,979,950
《30%》872,150
《30%》2,763,500
《30%》440,030
《30%》551,500
《30%》9,607,130
住友電気工業 ― 738,610
《50%》482,950
《50%》880,660
《50%》0
《100%》ー 2,102,220
フジクラ 1件 ー ー ー ー 1,182,320
《30%》1,182,320
古河電気工業 ― 0
《100%》0
《100%》0
《100%》ー 0
《100%》0
合計 12,891,670
2012/1/28 公取委、自動車用ワイヤーハーネスのカルテルで課徴金
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これは2009年6月に大林組の防衛施設庁談合事件、名古屋市地下鉄談合事件、和歌山県談合事件、枚方市談合事件に対する株主代表訴訟において、大阪地裁で成立した和解の内容に従うもので、その後も同様の和解が相次いだ。
和解月日 | 被告 | 訴訟内容 | 和解内容 |
09/6/1 | 大林組 旧経営陣ら15人 |
12億8190万円の賠償金 | ・解決金として2億円の支払い ・原因調査及び再発防止策の策定は外部委員を含む 「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置して行い、 同委員会は調査結果の報告と再発防止策の提言を行う。 ・委員会は外部委員を3名とし、内1名は、原告の推薦する弁護士 |
09/12/21 | 日立造船 元役員4人 |
約9億5千万円の返還 | ・4人が解決金計約2億円を支払う ・談合の原因調査や再発防止のため、社内に 「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置。 3人の委員のうち1人は原告が推薦する弁護士 ・解決金は委員会の運営、談合防止マニュアル整備施策に |
10/2/10 | 神戸製鋼所 会長、社長ら6人 |
課徴金2億146万円 の返還 |
・6名は、会社に対し、連帯して解決金8800万円を支払う ・「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置 1年以内に、その提言内容と再発防止策を公表 委員会のうち3名は外部委員とし、 うち1名は原告が推薦する弁護士から選任 |
10/3/30 | 住友金属工業 現会長ら14人 |
76.7億円の損害賠償 | ・14人が連帯して2億3千万円を会社に支払う。 ・それを原資に、社外委員でつくるコンプライアンス委員会設置 |
10/3/31 | 三菱重工業 元社長ら役員7人 |
指名停止措置による 受注減などで被った 損害35億円 |
・元社長らが解決金1億6000万円を同社に支払う。 ・事件の原因調査と再発防止策の策定を1年間をめどに行う ・「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」を設置 ・和解金を委員会や談合防止施策の費用に充てる |
2010/4/10 株主代表訴訟での和解、相次ぐ
これまでの株主代表訴訟の和解最高額は、住友商事の銅取引の巨額損失をめぐる訴訟の4億3000万円。
1996年6月、住友商事の元部長が約10年間にわたり会社の許可を得ずに銅地金の簿外取引をしていたことが発覚し、18億ドル(約2850億円)の損害が発生した。
東京地検が同年12月、詐欺罪で元部長を起訴、1999年に懲役8年の実刑が確定した。
1997年4月に株主代表訴訟が大阪地裁に提起された。遅くとも1991年の末に、ロンドン金属取引所より取引上の不正についての照会が同社宛になされた時点で、チェック機構を整備すべき善管注意義務が各取締役に生じたが、この義務を怠ったことを根拠にし、社長に2000億円、上司の非鉄金属本部長や非鉄化燃部門統括役員など取締役5人に各1億円ずつ、合計2005億円の賠償を求めた。
(会社の管理上の最高責任者たる社長には企業トップの責任の重さに象徴的意味をもこめて、損害のほぼその全額を、他の取締役にはその全額の責任を負担させることは、信義則上酷に過ぎるとの配慮から、 役員報酬や役員退職慰労金の額を参考にその額を請求した。)2001年3月、事件当時の社長ら5人(残る1人は死亡のため訴え取り下げ)が住商に約4億3千万円を支払うことで和解が成立した。
大和銀行事件では、大阪地裁は2000年9月の1審判決で、取締役は「善管注意義務」および「忠実義務」を怠ったという原告らの主張の一部認めて、被告役員のうち、11名に対して、総額7億7500万ドル(829億円)という巨額の損害賠償を命ずる判決を言い渡した。
大和銀行ニューヨーク支店の行員が無断かつ簿外に米国財務省証券の取引を行って11億ドルの損失を出し、この損失を隠蔽するために顧客、大和銀行所有の財務省証券を売却して、大和銀行に11億ドルの損害を与えた。
さらに、大和銀行はこの損害を米国当局に隠匿していたとして、刑事訴追を受けた複数の訴因の一部について有罪の答弁をし、罰金3億4000万ドルを支払った。
本件では高裁が双方に非公式に和解を打診、2001年12月、被告の現元役員49人全員で約2億5000万円を同行に支払うことなどを条件に和解が成立した。
協議の過程で、高裁は被告側に和解金額について、「10億ないし20億円」と打診。被告側は「とても払えない」として、1審判決で敗訴した11人の被告の手取り年俸の総額に当たるという約2億5千万円を提示し、同額で決着した。
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