英国のキャメロン首相は4月17日、ロンドンで中国の李克強首相と会談し、経済中心に「包括的な戦略的パートナー」として関係強化を進める内容の共同声明を発表した。
英中関係は、キャメロン首相が2012年にダライ・ラマ14世と面会したことで、一時冷え込んだが、2013年12月にキャメロン首相が北京を訪ねて習近平国家主席と会談し、人権問題を封印する一方、経済中心に関係の再構築を進めてきた。
今回の李首相の訪英にあたり、英政府は通常国家元首に限定しているエリザベス女王との面会を設定するなど厚遇で迎えた。
(複数の英紙は中国側から「女王と面会が認められなければ訪英をやめる」との強い圧力があったと報じた。)
首脳会談に合わせ、英中の民間企業間でエネルギー、金融、環境技術などの分野で総額140億ポンドの貿易・投資契約も締結した。
中断したままの英中人権対話については「平等な立場で対話を強化する」と触れるにとどめ、対話再開を明記しなかった。
人権問題や強引な海洋進出を巡る批判を封印したい中国と、「中国マネー」取り込みを図る英国の思惑が一致した会談となった。
両国間でくすぶるチベットなどの人権問題には深入りせず、経済優先を鮮明にする英政権への批判も出ている。
経済面では、資源エネルギー、高速鉄道、人民元などがとりあげられた。
共同声明では、英国側は、中国企業の最近の英国への投資が増加していることを認識しており、引き続き、鉄道やエネルギーのようなインフラ部門(たとえば、原発、高速鉄道、洋上風力、太陽光発電)への投資を歓迎するとし、以下の通り述べている。
高速鉄道:
双方は鉄道(高速鉄道を含む)について両国の間での実質的な協力を推進することで合意した。
この目的のため、両国は鉄道輸送分野での協力に関する覚書を歓迎する。(高速鉄道については、日本勢の受注にも影響を与える恐れがある。)
エネルギー:
英国は中国が英国の新設原発計画に参加するのを歓迎する。
両国はHinkley Point 原発が出来るだけ早く成功するよう協力する。(中国広核集団と中国核工業集団の参加が決まっている)
両国は核燃料供給チェーンの分野での協力協定の調印を歓迎し、核廃棄物処理や廃炉を含む分野での協力強化で合意した。
人民元については、以下の通り。
ロンドンでの人民元決済取引銀行の設立を歓迎する。
英当局は中国の銀行が英国でホールセール事業(企業向け金融)の支店設立申請を検討する。
また、中国企業がロンドン取引所で人民元建てボンドを発行するのを推奨する。
両国はそれぞれの外為市場での人民元と英ポンドの直接取引を歓迎する。
首脳会談に合わせ、両国首脳の見守るなか、一連の民間契約の調印が行われた。
キャメロン首相は会談後の共同記者会見で総額140億ポンド(約2兆4200億円)以上の契約をまとめたと表明した。
1)Shell と中国海洋石油総公司(CNOOC) のグローバル戦略パートナー契約
Shell と CNOOC は6月17日、既存の戦略的パートナー契約を再確認するGlobal Strategic Alliance Agreement に調印したと発表した。
中国国内外の石油・天然ガス開発から石油精製・化学まで、上流、中流、下流の各分野で双方の技術や資金面などで協力する。
両社は既に、海南島沖の鶯歌海での石油開発や広東省恵州市の石油化学JVの中海シェル石油化学などで協力関係にある。
2)BP とCNOOC、LNG供給契約
BPとCNOOCは6月17日、LNG供給契約の覚書 (Heads of agreement) を発表した。
2019年から20年間にわたり、年間150万トンのLNGを供給するもの。正式契約は本年央に締結される見込みで、BPは世界各地の拠点から自社のLNGタンカーや傭船を使い、中国のターミナルに輸送する。
CNOOCは2013年に1300万トンのLNGを輸入しており、広東省、福建省、浙江省、上海市、天津市に合計6箇所のLNG受入ターミナルを持ち、更に数箇所で建設中である。BP は豪州、UAE、インドネシア、エジプト、トリニダード、アンゴラのLNG計画に参加している。
3) 中国の民間投資グループ最大手の中国民生投資による15億ドル投資
ロンドンに欧州部門の拠点を設置。
投資分野には金融サービス、海洋土木、新エネルギーや環境保護などが含まれる。
このほか、英国は中国からの観光客やビジネスマンに対するビザ発給制度を緩和する。
中間層が拡大している中国の観光客による消費を呼び込むのが狙いで、ビザ申請から発給までの手続きが24時間以内に完了できるようになる。
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