改正会社法が6月20日、参院本会議で可決・成立した。
ポイントは以下の通り。
・社外取締役の起用を促進
社外取締役の起用を義務づけることは経営側の反対で見送られたが、
起用しない大企業は株主総会でその理由を説明しなければならなくなる。
(法務省は「事実上の義務づけ」としている。)
法律の施行から2年後に「社外取締役」を置くことを義務づけるかどうか検討する。取締役の親族や親会社の役員らは社外取締役とみなさない。
・株主など外部の企業統治を強め、適正な経営を促す
重要な子会社を売るときは株主総会で3分の2以上の賛同(特別決議)を得なければならない。
総資産額の20%以上を占める子会社の株式を売却する場合で、親会社が少数株主に転落(50%未満の株式しか保有しない)するときに限る。
(第467条第1項に追加)親会社の株主が、不祥事を起こすなどした子会社の経営陣を訴えられるようにする
問題となったのは、子会社売却時の特別決議である。
政府の原案に対し、日本維新の会から修正案が提出され、可決された。この条項の適用対象からチッソのみを外すというものである。
これにより、チッソは事業会社のJNC㈱ を、環境大臣の承認があれば、株主総会の特別決議なしで売却することが出来るようになる。
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環境省は2010年7月に、水俣病特別措置法に基づき、チッソの分社化に向けた手続きの一環として、同社を「特定事業者」に指定した。
「分社化」はチッソの事業部門を100%子会社化して上場・独立させ、現在のチッソは補償部門だけを担う親会社とする内容である。
環境省に提出した事業再編計画によると、第三者機関による事業会社の評価額は1950億~2350億円で、上場後の株式売却益で、約1500億円の公的債務と約400億円の金融機関に対する債務に加え、将来も続く患者補償を担う計画で、チッソは当面、子会社の株式配当益で補償業務を担い、3年後をめどに株式を他者に全面譲渡、譲渡益を熊本県に納付して補償業務を委ね、清算するとなっている。
特別措置法によれば、チッソは環境大臣の承認を得て、事業会社の株式の全部又は一部を譲渡できることとなっている。
チッソにとって公害からの解放は「悲願」で、株売却によって、JNCは世界トップレベルのチッソの事業と技術を継承しつつ、水俣病とは無関係になる。
一方、国はこれまで「チッソ支援」として貸与した債権を、一気に取り戻すことができる。
第二段階
事業会社売却
譲渡益を熊本県に納付、補償業務委託
チッソは清算2010/7/6 チッソを「特定事業者」に指定
チッソは2011年1月12日に「事業再編計画」に記載した事業会社(100%子会社)のJNC㈱を設立した。
チッソは2月8日、事業譲渡について、大阪地方裁判所の許可を得たと発表した。
「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」には、この許可があった場合は株主総会の決議があったものとみなすとなっている。
JNCはチッソが営んでいる事業活動を継続するために必要な土地、設備など有形・無形の事業財産の譲渡を受け、4月1日に事業を開始した。
2011/1/12 チッソ、「事業再編計画」に基づく、新会社「JNC株式会社」を設立
しかし、今回の会社法改正で、事業子会社の売却にあたり、環境大臣の承認のほかに、株主総会での特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要となると、子会社の売却が難しくなる。チッソの株主には個人が多く、中には水俣病被害者や関係者も含まれるとみられるからである。
チッソが会社法改正案を知ったのは2年ほど前に法務省のパブリックコメントがきっかけで、株売却に新たなハードルが課されることを恐れたチッソは、環境省に迫ったとされる。
環境省はチッソを適用外とする措置も検討したが、「被害者団体の反発を恐れ」、最終的には見送った。
政府は昨年11月に改正案を提案した。
法案審査の段階で、熊本県選出の自民党議員から異論が上がり、さらに水俣病被害者救済法の成立に関与した与野党議員にも批判が広がった。
この結果、自民党時代に救済法の成立に関わった日本維新の会の園田博之衆院議員(熊本4区)が中心となって、衆議院に「チッソがJNC株を売却する際には、この規定の適用を除外する」という修正案を提出し、これが可決された。
参議院本会議でも自民・公明両党と日本維新の会・結いの党、みんなの党、生活の党などの賛成多数で可決され、成立した。
被害者団体は、救済未了のまま水俣病問題が幕引きされかねないと反発している。
社民党は衆院可決時に、「チッソ」子会社株の売却緩和法案に強く抗議する旨の幹事長談話を発表した。
子会社株の売却時に株主総会の決議を義務づける新規定からチッソのみを免除するもので、安易な水俣病問題の幕引きにつながりかねず断じて認められない。
被害者団体はチッソが子会社株を売却し、売却益で補償債務を返済した上で会社の清算を念頭に置いていると強く危ぐしている。今回の法案はこうした動きを助長・加速させかねず、被害者救済が道半ばで同社や国を相手取った損害賠償請求訴訟も続いている中で加害企業の特別扱いは決して許されない。
安倍政権は患者認定基準を抜本的に改めるとともに、これまで一度も行っていない不知火海沿岸や阿賀野川流域での健康調査や被害者の実態調査を実施し、水俣病の全容解明と全ての被害者への救済・補償を図ることにこそ全力を挙げるべきである。
今回の法案成立を受け、最大の未認定患者団体「水俣病不知火患者会」(熊本県水俣市)の事務局長は「800人を超す認定申請者に対する審査のめども立っていないなど、被害者救済が道半ばであるにもかかわらず、加害企業チッソを免罪する法案可決であり、断固抗議したい」と話した。
集団訴訟を進める園田昭人弁護団長は「水俣病問題が未解決であることは明らかなのに、なぜこのタイミングで株式売却をしやすくし、チッソの消滅を急ぐようなことをするのか。幕引きを計りたいという思惑が背後に見える」と話した。
新聞報道では、チッソや国からさまざまな相談を受けているという元政府高官の自民党国会議員が、「(各方面から)そろそろチッソを解放してやれ、という声が聞こえてくるのは確かだ」 と述べたという。
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