イラクのクルド人自治政府が原油を輸出

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イラク政府は6月22日、クルド人自治区がイスラエルに原油を「違法」に売却したと非難した。 クルド人自治区産の原油を積んだタンカー SCF Altai 号は6月20日、イスラエルのアシュケロンに入港した。

イラク石油省はクルド政府がイラク憲法に反して割引価格で原油を輸出していると主張しており、今後も輸出を監視し、クルド自治政府から原油を購入した者を訴えると表明した。

クルド自治政府は、パイプラインを通じてトルコに2度目の輸出を行ったと認めた。買い手は明らかにして おらず、原油の販売は憲法違反ではないと主張している。

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イラク政府は、クルド人自治区が独自に石油を開発することを認めず、また、石油を直接輸出することを認めていない。

中央政府が認めた場合は輸出は認められており、2009年6月からはノルウェーのDNO International が開発するTawke油田、カナダのAddax Petroleumなどの企業連合が開発するTaq Taq油田から、中央政府が管理する既存パイプラインを使ってトルコの地中海岸の積み出し港ジェイハンに運び、そこから輸出された。


2009/6/9 イラクのクルド自治区の原油輸出開始 

韓国石油公社などが参加する韓国コンソーシアムが2008年にイラクの北部クルド自治区内の油田4つの鉱区の開発とインフラ建設を並行して進める内容の覚書をクルド自治政府と締結した。
これに対し、イラク政府は油田権益の外資企業への開放に際し、
韓国の韓国石油公社とSKエナジーを除外した。

2009/4/7 イラクの油田開放、クルド人自治政府と契約の韓国企業を除外

クルド自治区の原油埋蔵量は600億バレルで、自治区は中央政府の反対を無視してすでに外資系資源開発会社と約50件の開発契約(生産物分与契約)を締結した。

クルド自治政府は2013年末にトルコに直接向かう原油パイプラインを完成させ、既存のトルコ南部の積み出し港ジェイハンに向かうパイプラインに接続した。

自治区は2015年に現在の約3倍となる日量100万バレルまで生産能力を増強する計画で、パイプラインの輸送能力の増強計画もある。

従来は中央政府の管理するパイプラインで輸出していたが、自ら管理するパイプラインの設置で原油収入の分配で主導権を握りたい考え。

イラクでは現在、 スンニ派武装組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」が攻勢を強め、バグダートを目指すなか、クルド自治政府はイラク政府軍が撤退したKirkuk を抑えた。「要衝のキルクークをテロリストから守る」ためだと説明している。

イラク北部の国内最大のBaiji 製油所(文末地図参照)でもISISと中央政府軍との間の攻防が続いている。

クルド自治政府はこのたび、KirkukのAvana dome と自治区内のKhurmala dome を結ぶパイプラインを完成させた。
これにより、Kirkukの石油をクルドのパイプラインを通じてトルコ経由で輸出する道が出来たことになる。

Kirkuk 油田には3つの構造(dome):Khurmala、Baba、Avanaがある。
このうち、KhurmalaはKirkuk地区 と自治区のArbil 地区にまたがっており、2008年の協定でクルド自治政府が管理している。

BabaとAvanaは中央政府の管理のもと、BPが開発している。

これに対し、中央政府は国営石油販売会社(SOMO)を通じた輸出の一元管理を要求しており、国家予算のうち17%と定められた自治区の取り分の支払いを留保すると圧力をかけている。

また、中央政府は各国に対して、クルド自治政府から石油を買った場合、法的措置を取るとしており、米国や欧州の各国は企業に対して購入しないよう警告している。


クルド自治政府は現在、日量12万バレルの石油をトルコのCeyhan のタンクに送り込んでいる。

5月に積み込んだ第一船は米国に向かったが、引き返し、現在はモロッコ港に停泊しているが、モロッコは原油の引取りを拒否している。

6月20日、第二船がイスラエルのAshkelon に入港、22日には空船で出港した。イスラエルはイラクと国交が無く、これにより大きな影響を受けない。

クルド自治政府は発表で、直接にも間接にも原油をイスラエルに売っていないと述べた。自治政府首相の顧問は、この石油の転売を示唆した。

専門家は、この原油がAshkelon から紅海沿岸のEilat にパイプラインで送られ、アジアなどに出荷されるとみている。


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イラクでは、西部や北部を中心にアラブ人のイスラム教スンニ派が人口の2割、中南部を中心に同シーア派が約6割、主に北部に居住するクルド人が約15%を占める。

旧フセイン政権下ではスンニ派が主導権を握り、シーア派の多くは冷遇されてきた。
逆に現在のイラク政権は、スンニ派を冷遇している。

「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」はスンニ派武装組織である。

クルド人はトルコ、イラク北部、イラン北西部、シリア北東部等、中東の各国に広くまたがる形で分布する国家を持たない世界最大の民族集団である。
イラクのクルド人はフセイン元大統領から迫害を受けていた。

湾岸戦争後、グリーン・ラインと呼ばれる境界線内でクルド自治政府が統治していた。しかし、2003年のイラク戦争で、自治政府軍はグリーンラインを越えて南進し、支配地域を広げている。




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