日本の石化の将来に厳しい予想

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経済産業省が 経営コンサルタントのA.T.カーニー㈱に委託した「石油化学産業の市場構造に関する調査」の報告が公表された。

平成25年度石油産業体制等調査研究として、2013年12月に入札され、米国の経営コンサルタント A.T. Kearney の日本子会社が受注した。

2014年3月付けの報告となっている。
 全文  http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/E004116.pdf

     付記 7/16現在、アクセスできなくなっています。


報告では前段で、日本の石油化学企業と欧米の企業との収益構造の比較を行っている。

日本の石油化学企業は、欧米の企業とくらべて営業利益率が低く、特に2009年のリーマンショック以降は以前の稼働状況に戻せていないための低稼働が利益率を引き下げるなどして、直近の営業利益率は比較的低位である。


日本のエチレン・プロピレンの生産の将来見通しについては、化学品の将来の需要に影響を与えるいくつかのキーとなる要素を組み合わせてシナリオを設定し、各シナリオについて日本の内需に対する影響を検討した。

先ず、第三者機関の予測をベースにしたベースシナリオは以下の通り。

上記のベースシナリオに対し、次の5つのリスク因子を考慮した。

<需要の変動を引き起こす要素>

①日本の需要

日本の製造業の空洞化の加速で、エチレン・プロピレン・ブタジエンの国内での需要は減少する。
海外移転企業は現地にて新規の調達を行う可能性が高い。

②中国の需要の減少

多くの予測では、中国の需要は今後も大幅な減速は無く経済成長を続け、需要が増え続けることを想定している。
他方で、中国の人口構成をみると、2020年代以降に人口オーナス期に突入し、経済成長が停滞する可能性も存在する。
中国等の需要が大幅に減少するケースについても想定する必要がある。

中国の2012-2030年のGDPを低位ケースとした場合、需要はベースシナリオから20%程度下振れのリスクがある。

<供給の変動を引き起こす要素>

③北米の生産

シェール革命による北米の化学品コスト低下
いろいろなボトルネックがあり、第三者機関によるNGLの将来産出量には幅がある。
NGL産出量が上振れし、想定以上にボトルネックが解消されれば、オレフィンの生産量は一般の予測よりも上振れる。

④中国の増産

中国は石炭由来の化学品生産を大規模に進め、自給自足を目指す見込み。
どの程度の自給率に到達するか、国外輸出を目指すか、などによりアジアの市場環境は大きく変動することが想定される。

(2025~2030) エチレン プロピレン
ベースシナリオ 45百万t/年 53百万t/年
最大 62百万t/年 62百万t/年

⑤中東の増産

中東の安価な随伴ガスの生産量には限りがある。
国家政策として、原油を製品化して販売することに注力してきており、原油・ナフサ由来の化学品を大量生産する可能性も考えられる。

(2025~2030) エチレン プロピレン
ベースシナリオ 36百万t/年 11百万t/年
最大 45百万t/年 18百万t/年


日本のエチレン、プロピレンの生産量予想に当たっては、日本の需要減に中国の需要減が加わるケースと、日本の需要減に北米、中東、中国が増産するケースを考えた。

中国の需要が減少する場合は供給量はある程度調整されるために、双方のリスクが100%同時に発生することは無いという考え。
但し、中東は市場原理とは独立した判断により、下流側の産業の育成に力を注ぐと考え、日本・中国の需要減の場合も増産が行われるとした。

日本の国内生産への影響が最大となるシナリオの場合で、エチレン生産は、現状6.7百万トンのものが2020年で4.8百万トン、2030年で3.1百万トンとなり、プロピレン生産は、現状5.2百万トンのものが、2020年で3.7百万トン、2030年で3.3百万トンとなると予想している。
 

日本のエチレン、プロピレンの生産量予想 (百万トン)
シナリオ エチレン   プロピレン
現状 METI
 2018
2020 2030 現状 METI
 2018
2020 2030
日本の需要減 &
中国の需要減 &
中東増産
6.7 6.1 5.0 4.3 5.2 5.3 4.2 3.9
日本の需要減 &
北米、中東、中国の増産
4.8 3.1 3.7 3.3


いずれのシナリオも荒唐無稽なものではなく、十分在り得るものである。

ーーー

経産省は6月13日に世界の石油化学製品需給動向(2014年)を発表した。

2018年の日本のエチレン、プロピレンの予測は以下の通りで、今回の報告は これを大きく下回る。

千トン エチレン プロピレン
能力 6,438 5,848
生産 6,061 5,287
需要 5,460 4,271

 

 


METIは年初から、「石油化学産業市場構造研究会」を設置、エチレンセンター各社参加の下、石化産業の将来展望、競争力強化策の検討を重ねてきた。
近く予定されている最終報告では、今回の報告も客観的調査による需給見通しとして示される。

問題は、人員整理が難しいなか、どのような形で撤退していくかである。


 

 


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