米科学アカデミー、福島第一原発事故に関する報告書を公表

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米科学アカデミー(National Academy of Sciences)は7月24日、東京電力福島第 一原発事故に関する報告書
" Lessons Learned from the Fukushima Nuclear Accident for Improving Safety of U.S. Nuclear Plants"
を公表し、東電や当時の原子力安全・保安院が適切な津波対策を怠ったため被害が深刻化したと指摘した上で、福島の事故を教訓に米国内の避難計画の見直しを検討するよう求めた。


報告書は米国の原発の安全性を向上するため米議会がアカデミーに作成を要請したもの。

発表文 

報告 報告は有料となっているが、左枠のDownload をクリックし、登録すると全文が無料で読める。

報告書は、当時の日本では深刻な事故を想定した緊急時の対応が不十分だったとしたうえで、政府と地方自治体の意思の疎通がうまくいかなかったことや、除染が必要だとする放射線量の基準があいまいだったことなどが、政府に対する国民の不信を招いたと指摘している。

事故が深刻化した要因として、東電と当時の原子力安全・保安院が津波対策を怠っていたことなどを挙げた。
「津波に対する原子炉の設計基準が不十分であることを示す証拠が集まっていたにもかかわらず、東電と保安院は重要な安全設備を守る措置を取らなかった」と指摘。
電源喪失に適切に対応するための手続きもなかったなどと述べ、こうした一連の要因が、事故をより深刻なものにしたと結論付けた。

また、東電と保安院は「安全文化」を軽視していたと批判した。

そのうえで、想定外の事態( beyond-design-basis events)を踏まえ住民避難を含む事故対処計画を見直すよう勧告した。
電力会社や政府は深刻な事故が起きた際の周辺住民への情報の提供のしかたや、病気の人やお年寄り、子どもといった弱い立場の人を守る対策、それに長期間の避難生活の影響の評価などが十分か検証すべきだと提言している。

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報告では、福島第一の人々は勇敢に対応したが、下記の点が障害となったとする。

1)東電と原子力安全・保安院が、設計基準が津波に不十分だとの多くの証拠があるにもかかわらず、重要な機器を津波から守る対策を取らなかった。

2)全ての交流・直流電力が失われ、リアクターの熱力学パラメーター、格納容器、使用済み核燃料プールの情報をリアルタイムに得られなかった。
3)上記の結果、1~3号機が冷却できなかった。
4)多数の炉を同時管理しているため、現場の危機管理センターが混乱した。
5)現場のオペレータや危機管理センター員が電力喪失事故の手続きや訓練に欠け、水のレベルやリアクター圧力の管理、水素発生などに対応できなかった。
6)正確でタイムリーな情報発信、指示が出来なかった。
7)現場の危機管理センターのなか、及び現場と本社の役割と責任が明確でなかった。
8)多数の炉で長期間 問題が続いたため、事故管理スタッフが不足。


これを元に、米国の原発産業に以下の勧告を行った。


1)災厄についての新しい情報を求め、対応する。

2)重大事故に効果的に対応するため、プラントシステム、要員、訓練の改善

   想定外の事故(beyond-design-basis events)に効果的に対応できるよう。

3)想定外の事故のリスクの評価能力の強化
   米原子力業界と
原子力規制委員会は想定外の事故のリスクを見つけ、評価し、対応する能力を強化する必要あり。
4)原子力安全規則に最新のリスク概念を導入
5)構外の危機対応能力のチェックと改善策の実施
   構外に被害が生じる重大事故への対応
   ・広範な停電と通信・輸送・危機対応インフラへの被害
   ・放射能排出など原発事故情報がリアルタイムに伝わらない場合
   ・10マイルゾーンを超えた放射能の拡散
6)核安全カルチャーの改善
   nuclear safety cultureの維持と絶えざるモニター


報告書は「原発構外の危機管理から学んだレッスン」という章を設けている。


福島第一事故の大きな問題は、老人や入院患者などの避難計画が無かったことである。

日本の報告は、入院患者の避難の大混乱を描いている。
避難のトラウマと病気の悪化で避難途中で死んだ人も多く、持ち物も持っていけず、数ヶ月で何箇所もたらい回しされた人も多い。
放射能汚染を恐れて受入を拒否した病院もある。
健康な老人でも避難中に死んだ人が多い。

 

1)福島第一事故の際の日本の緊急管理計画は大事故を扱うには不十分なものであった。
2)現場の状態、構外への放射能の拡散、事故の進展、近隣住民の汚染についてのリアルタイムの情報が欠けたため、政府と業界の意思決定プロセスは、不十分なものとなった。
3)中央政府と地方の調整は、コミュニケーション不足でうまくいかなかった。
4)老人や病人などの避難やヨウ化カリウム配布などの保護活動は、急造でバラバラであった。
5)放射能の基準や除染基準が異なり、変更され、住民の混乱と政府への不信感を生んだ。
6)除染と帰還の時期がまだ決まっていない。
7)危機の最中に有効なコミュニケーション戦略を確立できなかったため、政府や規制官庁、原子力業界への国民の不信が生じた。

そのうえで、電力会社や政府は深刻な事故が起きた際の周辺住民への情報の提供のしかたや、病気の人やお年寄り、子どもといった弱い立場の人を守る対策、それに長期間の避難生活の影響の評価などが十分か検証すべきだと提言している。


ーーー

 

大飯原発差し止め訴訟の判決では、想定外事故の可能性と、事故が起こった場合に混乱と焦燥の中で適切かつ迅速にこれらの措置をとることを原発従業員に求めることはできないとし、以下の通り述べている。


「この地震大国日本において、基準値振動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上、基準値振動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというのであれば、そこでの危険は、万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。このような施設のあり方は原子力発電所が有する前記の本質的な危険性についてあまりにも楽観的といわざるを得ない。」

 

2014/5/30 大飯原発差し止め訴訟判決 


原子力規制委員会は九州電力川内原発1、2号機について実質的に「審査合格」とした。
 

原子力規制委員会は「基準に適合しているかどうかを審査するだけで、稼働させるかどうかには関与しない」とし、田中俊一委員長は「基準への適合は審査したが、安全だとは私は言わない。これがゴールではないので、(九電は)努力していく必要がある」と述べた。

川内原発では桜島を含む鹿児島湾北部の「姶良カルデラ 」と呼ばれる火山地帯の巨大噴火が問題視されているが、九州電力は、カルデラ噴火の可能性は小さいとしたうえで、姶良カルデラなどの周辺に観測機器を新たに3か所設置し、監視を強化するとともに、噴火につながる地殻変動やマグマの上昇を細かい基準で判断するとした対策を説明し、規制委員会で了承された。


カルデラ噴火は破局噴火と呼ばれ、地下のマグマが一気に地上に噴出する壊滅的な噴火形式で、しばしば地球規模の環境変化や大量絶滅の原因となる。
姶良カルデラは2.2万年前に発生した。

カルデラ噴火が起これば、高温の火砕流が短時間で川内原発に到達する。

九電の案は、巨大噴火の兆候が出たら、原発を止め、放射性物質を冷却した上、安全な場所に移管するとする。

しかし、火山学者の間では、「巨大噴火は7300年間経験しておらず、今の火山学では巨大噴火を中長期的に予測するのは非常に困難だ」と、疑問の声が上がっている。仮に「3カ月後に巨大噴火」と予知できても、人は避難できるが、放射性物質の冷却には時間がかかり、移管できない。
 

原子力規制委員会の基準は、想定外の事故は起こらないであろうという前提に立っているようである。

 

原発から30キロメートル圏内にある姶良市議会は7月11日、「川内原発の1、2号機の再稼働に反対し廃炉を求める」意見書を可決した。

 

 

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米科学アカデミーの報告書は「原発構外の危機管理」について福島の例から問題提起をしている。

 

国際原子力機関(IAEA)は原発事故対策として「5層の防護」を定めている。3層目までが過酷事故の防止で、4層目が過酷事故対策、5層目は放射性物質が敷地外に漏れ出る場合の防災対策を求めている。
 

  運転状態 多重防護
レベル
目的 必須手段
事故発生防止/
事故影響緩和
通常運転 第1層 異常運転及び故障の防止 保守的設計及び建設・運転における高い品質
予期される運転時の事象 第2層 異常運転の制御及び故障の検出 制御、制限及び防護系、並びにその他のサーベランス特性
設計基準事故及び複合した運転時の事象 第3層 設計基準内への事故の制御 工学的安全施設及び事故時手順
シビアアクシデント 第4層 事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和 補完的手段及び格納容器の防護を含めたアクシデントマネジメント
シビアアクシデント後の状況 第5層 放射性物質の放出による放射線影響の緩和 サイト外の緊急時対応

 

米国では、第5層について、米原子力規制委員会が、原発から半径10マイル(16キロ)の緊急計画区域について州政府・自治体や事業者の緊急時計画を厳密に評価し、運転を認可する。

市民団体「原子力資料情報サービス」は、緊急計画区域を半径25マイルに拡大し、50マイル圏内でも避難ルートを設定するよう求めている。

原子力規制委員会は施策の実行可能性をチェックし、複雑に想定を変えた長期訓練の実施を義務づけている。
緊急事態が発生した際、適切な防護措置が講じられる保証がオンサイト及びオフサイト緊急事態に対する準備で示されない限り、運転認可を与えない。

米科学アカデミーは今回、電力会社や政府は深刻な事故が起きた際の周辺住民への情報の提供のしかたや、病気の人やお年寄り、子どもといった弱い立場の人を守る対策、それに長期間の避難生活の影響の評価などが十分か検証すべきだと提言し た。

しかし、日本では原子力規制委員会は「原発が基準に適合しているかどうかを審査するだけで、稼働させるかどうかには関与しない。」
第5層の防災対策は規制委の審査対象外である。

政府は福島第1原発事故後、事故に備えた重点対策区域を原発から8〜10キロ圏から30キロ圏に拡大したが、第5層の防災対策は災害対策基本法で自治体任せにされ ている。

川内原発が立地する鹿児島県の地域防災計画では、30キロ圏内の病院の入院患者や介護施設の入所者ら要援護者の避難計画は各施設が作るとなっている。
伊藤知事は「30キロ圏までの要援護者の避難計画は現実的ではない」と発言した。対象となる要援護者の数が増え、避難手段や受け入れ先の確保が難しいことが背景にある。


 

規制委員長は「安全とは、私は申し上げない」「世の中に絶対に安全だなんていうものは存在しない」と言い、政府は「安全は規制委の判断に委ね」 「個々の再稼働は事業者(電力会社)が判断する」と逃げている。

設備の基準を少々厳しくしても、事故の発生の可能性はある。「世の中に絶対に安全だなんていうものは存在しない 。」
その場合の避難対策は地域任せで、福島第一事故の前と同じでは、規制委が認めても、再稼動について地元の了解を得るのは難しいだろう。

米科学アカデミーの報告は米国政府と業界への提言だが、同時に日本への提言でもある。

第5層については政府が責任を持つべきである。
評判の悪い集団的自衛権をやめ、自衛隊をフルに使う体制を考えてはどうだろうか。

 

付記

鹿児島県の伊藤祐一郎知事は8月1日の記者会見で、九州電力川内原発について、再稼働の必要性を文書で示してほしいと経済産業省に要請したことを明らかにした。
安倍政権は再稼働について「政治判断しない」としており、最終的な責任の所在があいまいなままだが、知事は「国として意思を示す作業が必要だ」と述べた。

 

 

 


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