貿易赤字の裏側

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河野太郎衆院議員のブログ 「ごまめの歯ぎしり」7月30日号が、「貿易赤字の裏側」というタイトルでLNG輸入の増大について述べている。
  http://www.taro.org/2014/07/post-1505.php

財務省が7月24日に発表した2014年上半期の貿易収支は、7兆5983億円の赤字で、半期では過去最大の赤字となりました。
このままのペースでいくと、年間を通して15兆円の貿易赤字となります。

日経新聞は「燃料輸入の増加が主因」と分析しています。
産経新聞も「原発の稼働停止に伴う、火力発電用燃料の輸入額が高水準となるなど輸入が過去最大に」と解説しています。

天然ガスの輸入量が増えて貿易赤字が増えているというように聞こえます。

(中略 数量の増加よりも金額の増加がはるかに大きいことを説明)

新聞報道を見ていると、あたかも原発が停止したので天然ガスの輸入量が増えて、貿易赤字が膨らんだかのように思えます。しかし、事実は、天然ガス価格の上昇とそれに輪をかけた円安のおかげで円建てのガス価格が上昇し、貿易赤字が増えたのです。

どの新聞を読んでも天然ガスの輸入量やその価格がどう推移したのか、まったくわかりません。

政府が発表していることだけを右から左に流しているだけではマスコミの役割を果たしていると言えないのではないでしょうか。

これに対し、池田信夫ブログ(7月31日)が「LNG価格はなぜ暴騰したのかでこれに反論している。

竹中平蔵氏も産経新聞の正論で同じことを述べている。

「第2の誤りは、貿易赤字は原発停止-燃料輸入増によるとの見解だ。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏が提示する分析によると、過去3年間の貿易収支悪化の約3分の1はエネルギー価格上昇と円安が理由だ。エネルギーの輸入増ではなく、価格要因(円安と国際価格の上昇)である。」

彼らに共通の誤りは、なぜLNG価格が暴騰したのかを知らない点にある。LNGの「価格要因」は自然現象ではない。2010年まではヨーロッパとほとんど同じだった日本のLNG価格が震災後に倍増し、アメリカの4倍になった。その原因は、原発停止でスポットで買いに行ったからだ。


この論争は池田氏の勝ちである。

本ブログでは既に、この分析を行っている。
   
2014/3/9  LNG輸入金額分析--- 原発停止の影響

輸入金額の増加分を、数量増によるものと、価格増によるものに分け、価格増分は更に、円安によるものと、ドル価格アップによるものに分けた。
日本のLNG購入契約は長期契約分は原油スライドであるため、ドル価格アップ分を原油価格スライドのアップとそれ以外に区分した。

原油価格アップを上回る分は、原発停止による高値のスポット買いによるものである。

  2010 2011 2012 2013  

増加分

2010年比 2012年比
輸入金額(兆円) 3.4480 4.7730 6.0015 7.0560 3.6080 1.0545
数量(百万トン) 70.008 78.532 87.314 87.491 17.483 0.177
平均為替レート(円/ドル) 88.09 79.97 79.55 96.91 8.82 17.36
以下は上記から計算    
輸入価格(円/kg) 49.25 60.78 68.73 80.65 31.40 11.91
輸入価格(セント/kg) 55.91 76.00 86.40 83.22 27.31 -3.19
同上 原油価格スライド 55.91     68.77 12.86  
             
WTI原油価格平均($/bbl) 79.59 94.81 94.19 98.05    

この結果、年平均ベースのため大雑把だが、2010年と2013年の金額増 3兆6080億円のうち、数量増によるもの(8611億円)と原油価格アップを上回る値上がり(1兆2252億円)の合計2兆0863億円が原発停止の影響と言える。

円安の影響は2010年(平均 88.09円/ドル)比では4314億円に過ぎない。2012年(79.55円/ドル)比でも1兆3123億円である。

  2010年比 2012年比
数量差 8611億円 121億円
ドル建て価格差
(原油価格スライドの場合)
(原油価格アップを超える分)
2兆3155億円
(1兆0903億円)
1兆2252億円
-2700億円
円レート差 4314億円 1兆3123億円
合計 3兆6080億円 1兆0545億円
うち原発停止の影響 2兆0863億円  

原発停止が貿易赤字の一因であることは否定できない。

但し、円安が狙った効果が出ておらず、貿易赤字の一因であることも事実である。

輸入金額が急増したうえ、輸出が伸びていない。

化学製品などは国際競争力がないため、円安でも輸出は伸びないが、唯一国際競争力のある自動車さえ、円安によって見込まれた輸出の増加は期待どおりには進んでいない。
 

本年1月から6月までの半年間に国内の主な自動車メーカー8社が日本から海外に輸出した車の台数は前年同時期を 5.4%下回った。

このうち、トヨタ自動車は、アメリカでの高級車の販売拡大に向けて九州で生産していた一部をアメリカとカナダの工場に移したことなどから11%減少、日産自動車も、SUVの新型車の一部の生産を去年の秋以降、九州の工場からアメリカに移したことなどから5.4%減少しているほか、ホンダは、主力小型車の生産の一部をことし2月にメキシコに移したため、74.5%の大幅な減少になっている。
(NHK)

これらは円安になってからの海外移管であり、ショックである。


 「人民網日本語版」(7月31日)は、日本の輸出の成長には限りがあり、経済を引っ張る総体的な動力が足りていないことから、「安倍内閣が円安政策を放棄しない限り、貿易赤字の高止まり状況の改善は難しいだろう」としている。



参考 LNGの輸入推移

 


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