2010年の原油流出事故、「BPに重大な過失」と認定

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2010年4月20日にルイジアナ州ベニス南東約84キロで掘削中の海洋掘削プラットフォームDeepwater Horizon rig が爆発し、大量の重油が流出した。

米政府による水質浄化法(Clean Water Act)に基く民事訴訟の裁判で、New Orleansの District Court のCarl Barbier 裁判官は9月4日、BPに 「重大な過失」(gross negligence )と「故意の不法行為」(willful misconduct)があり、これが大量流出の原因となったとし、BPは水質浄化法によるバレル当たり4,300ドルの罰金に値するとの判決を言い渡した。

合わせて、リグのオーナーで掘削作業を行ったTransoceanとセメント作業を行ったHalliburtonに対しても 「過失」(「重大な過失」ではない)があったとみなした。

責任割合について、判事は、BPが67%、Transoceanが30%、Halliburton が3%と認定した。

水質浄化法では原油の流出量 1バレルに対して、1,100ドルの罰金が決められている。
但し、重大な過失による場合は、罰金は4,300ドルとなる。

今回の判決が確定すると、BPは流出量の67%に対し、バレル当たり4,300ドル、他2社は その30%と3%に対しバレル当たり1,100ドルの罰金となる。

BPでは流出量320万バレルとし、重大な過失なしとしてバレル1,100ドルを適用し、35億ドルを引き当てている。
他方、政府は流出量を490万バレルとし、
そのうち420万バレルはBPの責任だとしており、流出量そのものに大きな差がある。

なお、規則では回収努力などを考慮して減額されることとなっている。

仮に流出量を政府主張の490万バレルとすると、罰金は以下の通り。

 Transocean  30% @1100ドル→16億ドル 和解済み(後述)
 Halliburton  3% @1100ドル→1.6億ドル
 BP 67% @4300ドル→141億ドル 

 但し、BPの実際の負担は当時の権益率の65%相当の92億ドルとなる筈。
 
25%分の35億ドルはAnadarkoに請求できる。
 三井石油開発の負担分の10%の14億ドルは、三井が罰金を払って政府と和解しているため(後述)除外される筈。

具体的な罰金額については、2015年1月以降に審理する見通し。

これに対し、BPは9月4日に下記の声明を発表した。

BPはこの決定に強く反対し、控訴する。

裁判で示された証拠からは「重大な過失」「故意の不法行為 」との結論は出てこない。法律では「重大な過失」の証明には高いハードルがあり、このケースでは当てはまらない。公平に証拠を見ると、今回の誤った結論は出ない。

来年1月からの罰金を決める審理を通じて、バレル1,100ドルの適用が正しいことを示す予定である。

ーーー

この事故の当事者は下記の通り。このうち、青色の各社が水質浄化法の責任を問われた。

鉱区Mississippi Canyon 252の権益保有者

 ・BP    65% (Operator)
 ・(Anadarko)    25%
 ・MOEX(三井石油開発)    10%


Deepwater Horizon rig 関連
 ・設計:R&B Falcon
 ・建設:韓国の現代重工業
 ・所有:
Transocean
  ・リース:
BP

  ・コントラクター 
   
Transocean:掘削作業
   
Halliburton:セメント作業(井戸内、または井戸と鉄管との間のセメント作業)
   
M-I SWACOSchlumbergerSmith InternationalJV):Drilling Fluid (mud)サービス

 ・Blow Out Preventor(BOP)の製造:Cameron International Corporation

ーーー

各社のこれまでの対応は以下の通り。

1)三井石油開発

2011年5月、BPとの間で和解した。
三井はBPに
10億6500万ドルを支払い、水質浄化法を除く全ての負担をBPが肩代わりする。

2011/5/20 BPと三井石油開発、メキシコ湾原油流出事故損失負担で和解 

三井は2012年2月、米司法省、Coast Guard、EPAと和解した。
水質浄化法に基づき70百万ドルの罰金を支払うとともに、環境保全のための土地買収の為、少なくとも20百万ドルを支払う。

2012/2/20  メキシコ湾原油流出事故で三井石油開発が米政府と和解

BPは水質浄化法に基づく罰金のうち、10%(当時の三井の権益保有率)を、和解済みとして免除を要求すると思われる。

2)Anadarko

2011年10月、BPとの間で和解した。
BPに対し現金で40億ドルを支払い、水質浄化法を除く全ての負担をBPが肩代わりする。

2011/10/19   BP、メキシコ湾原油流出事故でAnadarko Petroleum と和解 

BPは水質浄化法に基づく罰金のうち、25%(当時の権益保有率)をAnadarkoに請求すると思われる。

3)Transocean

2013年1月、司法省と和解した。
 刑事上の罰金4億ドル
 
水質浄化法での民事上の司法取引で 10億ドル

2013/1/8 Transocean Deepwater Horizon 事故で罰金14億ドル支払い

4)Halliburton

2014年9月2日、同社に対する損害賠償訴訟を行った原告の大半と和解した。
2年間に3分割で合計11億ドルを支払うもの。

今回、「重大な過失」とされなかったことで、残りの原告とも和解できると見ている。

同社は事故対応で13億ドルを引き当てている。

5) BP

BPは2012年3月、個人や企業を原告とする訴訟の併合審理手続きで、原告側の運営委員会との間で和解に達した。
和解で払われる総額は約78億ドルで、全額が被害補償のための200億ドルの基金から払われる。

2012/3/5 BP、メキシコ湾岸原油流出事故で漁業関係者などと和解 

BPは2012年11月、司法省によるすべての刑事訴訟で和解 、米証券取引委員会(SEC)とも和解した。
和解に伴う支払額の合計は4,525百万ドルで、米国史上最大額。

水質汚染防止法に基づく民事訴訟や天然資源の搊害賠償、過去の和解に含まれない個人による請求はこれに含まれない。

なお、BPはMacondo wellの共同所有者及びコントラクターと和解し、下記の金額を受け入れている。  

  三井石油開発    10.65億ドル
  Anadarko   40億ドル
  Cameron   2.5億ドル
  Weatherford   0.75億ドル

2012/11/17  BP、Deepwater Horizon事故に関する米政府の全ての刑事訴訟で和解 


BPでは2014年6月末時点での事故関連損失を下記の通りとしている。
水質浄化法の罰金により、これが更に膨らむ可能性が出てきた。

訴訟、和解のコスト 258.7億ドル
流出対応コスト 143.0億ドル
水質浄化法罰金引き当て 35.1億ドル
環境関連コスト 30.3億ドル
その他コスト 19.4億ドル
(小計) 486.5億ドル
戻入 -56.8億ドル
差引合計 429.7億ドル

 


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