アラスカでは北部の天然ガス田で産出されるガスを南部で液化する計画が2023年にも始まるが、日本側は日本の需要見通しや アラスカ計画への日本企業の投資に対する政府の支援の構想などを情報提供し、アラスカ側はLNG計画の進捗状況などの情報を提供する。
経産省は日本の総合商社やプラントメーカーがLNG基地建設に出資や参加をする際には金融面で支援する。ガスを調達する事業費に最大75%の債務保証をつけられる制度や、権益への出資額の半分を肩代わりする制度の活用も検討する。
ーーー
米国ではNatural Gas Act of 1938 により、天然ガス輸出入にはエネルギー省の許可が必要とされており、輸出許可の判断基準には①公共の利益に反するか否か、②輸出先国で内国民待遇が与えられるかどうかがある。
米国は輸出承認で米国とFTAを締結している国とそれ以外で差をつけている。
FTA非提携国向け輸出については、2011年5月にCheniere Energyが承認を得るまでは、唯一の例外は本土48州に輸送不可能だったアラスカのKenai LNGの輸出だった 。
Kenai LNGはアラスカ州南部のCook入り江のKenai半島の天然ガスをAnchorageの近くのNikiski で液化しLNGにするもので、連邦政府が1967年4月に日本向け輸出を認可、1969年に輸出を開始し、以降、年間約100万トンのLNGが中断されることなく輸出された。
売り手は、Phillips/Marathon、買い手は東京電力と東京ガスである。しかし、輸入開始から40年以上が経過し、Cook入り江のガス田の埋蔵量・生産量が大きく減退し、また液化基地自体も老朽化した。
2014年4月の認可期限切れー再認可で、Conoco Phillipsが少量の生産、輸出に当たっているが、KenaiのLNGは寿命を迎えている。
今回輸入が計画されているのは、アラスカ北部のNorth SlopeのPrudhoe 湾等の天然ガスである。
North Slopeには35兆立方フィートのガスの確認埋蔵量を含む200兆立方フィート以上のガスの資源があると言われている。
ノースロープ地域のガス・石油確認埋蔵量
石油埋蔵量 ガス埋蔵量 Prudhoe Bay 30.0億バレル 24.5TCF Kuparuk River 12.5億バレル 1.2TCF Point Thomson 0.3億バレル 8.0TCF NPRA
(National Petroleum
Reserves - Alaska)0.2億バレル - その他 19.5億バレル 1.7TCF 合計 61.5億バレル 35.4TCF
North Slopeの原油は、1975年-77年に建設されたアラスカ縦断原油パイプライン(Trans Alaska Pipeline)でValdez まで運ばれ、ワシントン州やカルフォルニア州内の石油精製所で精製されている。アラスカ州内にもいくつかの小規模の精製所がある。
しかし、原油パイプラインを天然ガスパイプラインへ転用することは出来ない。
原油は+60℃に加熱され、永久凍土地域では融解を防止するために地上敷設されている。
天然ガスは冷却されるため、地下埋設が原則となる。
このため天然ガスは用途がなく、原油採掘で随伴するほぼ全量(ピーク時にはLNG換算で年間6000万トン分)が油層圧力維持のため に油層内に再圧入された。
North Slopeの大油田地帯は、最盛期の1980年代末には日量200万バレルもの大生産量を誇ってきたが、生産開始から約40年となり、現在では約4分の1の日量50万バレル程度まで大きく減退してきている。
このため、随伴天然ガス全量を再圧入する必要がなくなり、これを販売して収益を得ようという機運が高まった。
ガス埋蔵量の約35兆立方フィートは、年間3500万トンのLNGを20年以上にわたって供給できる量である。
2008年の米大統領選挙で共和党の副大統領候補となったアラスカ州の女性知事Sarah Palin はNorth Slopeの天然ガスを米国本土のマーケットに輸送する Alaska Gas Pipeline の建設に力を入れた。
天然ガスをAlaska Highway 沿いにカナダのAlberta まで送り(全長2,000 km)、そこから既存のTransCanada のパイプラインで米国各地に送るという壮大な計画である。
Palin知事は、知事就任直後のアラスカ州議会 (2007年1月から開催) にガスパイプライン建設業者にインセンティブを与え、建設を促すためのAlaska Gasline Inducement Act を提出し、法案は可決された。
ガスパイプライン建設業者を募る一般公募が行われ、応募した5社のなかからTransCanadaが選ばれた。
しかし、その後のシェールガス革命の影響を受けて、北米の天然ガス価格が大幅低下し、米本土までのパイプライン計画は頓挫した。
ーーー
行き場をなくした天然ガスを液化して輸出しようというのが現在のAlaska LNG projectである。
計画しているのはNorth Slopeの主要生産者であるExxonMobil、BP、ConocoPhillipsの3社とカナダのパイプライン業者のTrans Canadaである。
North
SlopeからNikiski
港まで直径42 inch のガスパイプライン(800マイル)を建設
し、天然ガスをNikiski
で液化してLNGとし、輸出する。
LNG
は年1,500万トンから1,800万トン
生産する計画で、今のところ、2023年の生産開始を予定している。
当初はTrans Alaska 原油Pipelineに沿ってValdezまでのパイプラインを計画したが、2013年10月に既存のLNG基地があるKenai半島のNikiskiに変更された。
ConocoPhillipsが保有している液化基地の老朽化による取り壊しで、その敷地が空くこと、枯渇ガス田に余分なCO2を処分できることなどが理由である。
ただし、新プロジェクトは液化規模が、十数倍大きくなるので、大幅な敷地・航路・港の拡張が必要になる。
総事業費は450~650億ドルとみられている。
アラスカ州内のパイプライン建設に伴う先住民の土地問題は、アラスカ州の場合すでに解決済みで 、既存の石油パイプライン・ルートに基本的に同じなので、環境などに大きな問題は予想されない。
7月にはAlaska
LNGは米国エネルギー省に年間20百万トンのLNG(天然ガスで日量25億立法フィート)を20年間輸出する計画の認可申請を行った。
9月5日には米国連邦エネルギー規制委員会に、計画の認可を得るための環境・安全レビューの開始の申請を行った。
ーーー
このLNGは以下の利点を持つ。
・本土のガス需給に関係しないため、輸出許可の取得が容易と考えられる。
・大半が既に再圧入されている随伴ガスなので、生産コストが非常に安い。
・LNG の日本までの輸送距離はロシアを除いてアラスカが最も近距離(日本・オーストラリア間の約半分の距離)であり、輸送コストが低廉である。
日本向けLNG運賃 ($/百万BTU) 資料:Platts LNG Forum, Tokyo 2012/9/25
Kirimat(カナダ西海岸) 1.24 アラスカの場合、これよりも遥かに近い。 US Gulf Coast 2.96 Cove Point(東海岸) 3.07 Gordon(豪) 1.17 Gladstone(豪) 1.21 Ichthys(豪) 1.23
・近距離により LNG 輸送船の稼働率が上がるため、船舶数も少なくて済む。
・日本までの途中にホルムス海峡や、パナマ運河、あるいは東アフリカ沖、南シナ海のような閉塞海域や危険海域がない。
コメントする