水俣病被害者救済特別措置法の判定結果

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厚労省は8月29日、水俣病被害者救済特別措置法に基づく救済措置に係る判定結果を発表した。

2010年5月1日から2012年7月31日まで救済に係る申請を受け付けた。
各県における判定結果は以下の通り。(新潟県は暫定値)

 
  一時金対象 療養費対象 該当せず 合計 従来の保健手帳(廃止)から被害者手帳への切替
水俣病
(チッソ)
熊本 19,306 3,510 5,144 27,960 14,797
鹿児島 11,127 2,418 4,428 17,973 1,998
新潟水俣病
(昭和電工)
新潟
(暫定)
1,811 85 77 1,973 29
合計
67.3%

 32,244

12.6%

 6,013

20.1%

9,649

100%

47,906

 

16,824

判定基準 手足の先の感覚(触覚、痛覚)が鈍いなどの症状 左には当たらないが、しびれや震え等の一定の症状    

判定無しで切替

救済処置 一時金210万円 療養費
(医療費自己負担分など)
   

医療費自己負担分支給

療養費
(医療費自己負担分など)
療養手当
(月12,900~17,700円)


救済法は原則、1969年11月30日までに生まれた人を救済対象に指定している。
熊本県では、その後に生まれた466人からも申請があり、へその緒でメチル水銀摂取が確認できるなどした4人が救済対象に認められた。

ーーー

水俣病患者救済の経緯は以下の通り。

1956年5月1日に水俣病が公式確認され、1968年に水俣病が初めて公害と認定された。

2006/5/1 水俣病50年

なお、新潟では1971年の新潟水俣病第1次訴訟の判決で、原因は昭和電工の工場排水であることが確定した。(新潟水俣病)

1969年に公害健康被害救済特別措置法が制定され、患者認定制度が始まった。

補償協定の概要
項目 内容                                  
一時金 Aランク 1,800万円/人+近親者慰謝料(最高1,900万円)
B     1,700      +近親者慰謝料(最高1,270万円)
C     1,600 
年金 170~67千円/人・月
医療費 患者医療費全額を支払い
その他
継続補償
医療手当、介護費、温泉治療費、針灸、葬祭費
患者医療生活基金(チッソが7億円拠出)からの支給

しかし、患者の認定の条件(「52年判断条件」)が極めて厳しく、少数の患者しか認定されなかった。
(熊本、鹿児島の2県で2012年2月29日現在で2,273人、棄却は15,248人)

2013年に最高裁で「52年判断条件」に基づく高裁判決を破棄した結果、2014年に改定指針が出たが、これにも問題がある。

また、非認定患者の救済のため、1995年に政治解決が行われた。
しかし、最高裁の認定基準を巡る判決を受けて、再び訴訟が続出したため、「第二の政治解決」として出されたのが、この水俣病被害者救済特別措置法である。


(患者認定基準問題)

1971 環境庁事務次官通知
水俣病の要件として、手足のしびれなどの主症状のうち「いずれかの症状がある場合」と明記。
1977 環境庁環境保健部長通知(事務次官通知を覆す)
「手足のしびれや視野狭さく、運動障害など複数の症状の組み合わせ」を条件
(「昭和52年判断条件」)
2001 関西訴訟・大阪高裁判決
「汚染された魚介類を多く食べ、指先や舌先の感覚に障害があれば認定できる」
「52年判断条件」を事実上否定。
2004 最高裁 大阪高裁の基準を支持
国は、「最高裁の判決は有機水銀中毒症の判断基準であり、水俣病と有機水銀中毒は別」とし、水俣病認定基準の見直しは行わないことを言明。
2013 最高裁判決は、裁判所が患者認定を独自に審査しうるとするとともに、「52年判断条件」に基づく高裁判決を破棄。

手足の先の感覚障害だけの水俣病が存在しないという科学的な実証はない。
「52年基準」の症状の組み合わせが認められない場合でも、諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、水俣病と認定する余地を排除するものとはいえない。

2013/4/17  水俣訴訟、最高裁判決 

2014 環境省が新指針
感覚障害のみでも認定できる」とはしたものの、「水俣病を発症するに至る程度のメチル水銀」の摂取を証明する客観的な資料の提出を求める。

多くの被害者にとって水銀ばく露を証明する書類を今から確保するのは極めて困難で、これが救済対象の拡大につながる可能性は低いとみられている。

2013/1/14  水俣病認定基準 


なお、認定を求めた訴訟では、高裁判決では、裁判所が患者認定審査をできるというものと、県の裁量を重視し、司法は県の判断が不合理かどうかを審理するというものに分かれていた。

2013年4月の最高裁判決は「裁判所においては、諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、個々の具体的な症状と原因物質との間に個別的な因果関係があるかどうかなどを審理の対象として、水俣病に罹患しているかどうかを個別具体的に判断すべきだと解するのが相当」とし、独自に審査しうるとした。

2013/4/17  水俣訴訟、最高裁判決

 

(政治解決)

「52年判断基準」で認定されなかった多くの人たちは、1980年から行政の責任を問い、水俣病と認定するよう求めて各地で提訴した。

1995年、自民党・社会党・新党さきがけの連立与党三党は水俣病の未確認患者問題につき最終解決策を決定した。
村山首相は原因の確認・企業への対応の遅れを首相として初めて陳謝した。

「メチル水銀の影響が否定できない」約1万人の未認定患者を救済対象 
 
四肢末端優位の感覚障害 医療手帳 チッソから一時金260万円、
国・県から医療費自己負担分全額、
月額約2万円の療養手当
感覚障害以外で一定の神経症状 保健手帳 医療費自己負担分(上限付き)支給

関西訴訟で国側が敗訴 後、全額支給に

これにより、ほとんどの患者が和解に応じ裁判を取り下げたが、「関西訴訟」の原告だけが行政の責任を問い続けた。

2001年の高裁判決は、排水規制をしなかった国と県の過失を指摘、水俣病の認定基準も間違っているという判断を下した。

2004年10月の同訴訟の最高裁判決で、最高裁は、「一定の条件があれば感覚障害だけで水俣病と認められる」とした大阪高裁の判断を支持した。

この結果、熊本県と鹿児島県への患者認定申請者が増加、認定申請者が4,500人を超えている。

これに対し国は、現行の水俣病認定基準の見直しは行わないことを言明、熊本県、鹿児島県では、認定審査会の委員が「司法と行政の二重の認定基準が存在し審査ができない」として、再任を拒否、審査業務が停滞した。

このため、未認定患者を救うため2009年7月に特措法が成立した。

2009/7/3 水俣病救済法案、衆院を通過、来週成立の見通し

鳩山内閣は20104月、水俣病の未認定患者を救済するための特別措置法の「救済措置の方針」を閣議決定した。

一時金:210万円
療養手当
療養費の自己負担分
被害者団体計3団体に、活動費用や社会福祉施設の運営費

一時金や加算金は原因企業のチッソが負担する。
但し、チッソは債務超過に陥っていることなどから、国は熊本県が出資する財団法人を通じ、資金支援。

2010/4/16 水俣病「救済措置の方針」を閣議決定

2010年5月1日から2012年7月31日まで救済に係る申請を受け付けた。
今回、3県の申請者47,906人のうち、20.1%の9,649人が申請棄却となった。

申請の棄却理由は、一定の症状がなかったり、年齢や住んでいた地域が対象外であったりすることなど。

熊本県で最大の被害者団体「水俣病不知火患者会」の大石利生会長は「救済されるべき被害者が何の根拠も示されずに切り捨てられている」と話している。

このうち、新潟県で96人が異議を申し立てている他、救済対象外となった約500人が熊本、新潟、東京の3地裁で国などを相手取り損害賠償訴訟を起こしている。
加えて、7月末時点で1,043人が公害健康被害補償法に基づく患者認定を申請している。

石原伸晃環境相は8月29日の閣議後記者会見で「これをもって救済終了とは全く考えていない」と述べた。

蒲島熊本県知事は、チッソが全事業を移管した子会社JNCの株式を売却できる条件である「救済終了」と言える状況かどうか問われると、「公健法の認定を求めている人もおり、株式売却を議論する状況ではない」と答えた。

 

 

 

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