古河電池と凸版印刷、世界初、紙製容器でできた非常用マグネシウム空気電池を開発

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古河電池と凸版印刷は8月29日、世界初となる紙製容器でできた非常用マグネシウム空気電池『マグボックス』を共同で開発した と発表した。
2014年12月中旬に古河電池が発売する。主に県市町村など地方自治体向けに販売予定。


非常用マグネシウム空気電池『マグボックス』は、マグネシウムを負極物質、空気中の酸素を正極物質とし、水や海水を投入して発電させる電池で、大容量かつ長期間保存可能で、非常時に水を入れるだけで、多くの携帯機器に電力を供給することができる。

仕組みは以下の通り。

  負極: 2Mg → 2Mg2+ + 4e-

正極: O2 + 2H2O + 4e- → 4OH-

全反応:2MG + O2 + 2H2O → 2Mg(OH)2

 

負極に用いるマグネシウムは塩水に溶けやすく、原子が放出する電子の量も多いため発電効率が向上 する。

正極で酸素の反応を活性化させる触媒は、古河電池の独自技術により、レアメタルを使用しない酸素還元触媒を使用することでコストを削減した。


製品の特長は下記の通り。

 ・水や海水を入れるだけで発電

注水する水は淡水でも海水でもよく、雨水や河川水、池の水などそのままでは飲用に適さない水でも発電できる。
洗剤など界面活性剤が入った水やアルコール含む水以外は利用できる。実験によれば尿でも発電できるのだという。
非常時でも手に入りやすい500ml入りのPETボトルで4回注水すればよいように設計。

 ・スマートフォンなどUSB 機器の充電に最適 :USB端子を2個備えており、機器に5V、1.2Aの電力を供給できる。
 ・大容量!スマートフォンを最大30回充電:最大5日間動作し、300Whの電力量を取り出せる。

 ・世界初の紙製容器でできたマグネシウム空気電池
  (使い捨て電池として使用後の廃棄が容易となるよう、紙製容器を使用)

 ・騒音を発生せず、また発電時に二酸化炭素を発生しない環境に配慮した電池
 ・新開発のリセットスイッチにより確実なオンオフ動作が可能(特許出願中)

 ・寸法は233×226×226mmで、重量は注水前が約1.6kg、注水後で約3.6kg。

マグネシウム空気電池は外部の空気を取り入れるため、水密構造を維持して大型化するのが困難だが、古河電池と凸版印刷は両社の既存技術を融合させ、電解液が漏れにくく、かつ実用的な容量を確保する構造を実現した。
さらに、使い捨て電池として使用後の廃棄が容易となるよう、環境に配慮した紙製容器を使用している。

古河電池は『マグボックス』の開発・製造・販売を行い、凸版印刷は紙製容器であるセル外装材ならびに外箱の開発・製造を行う。 

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この高性能マグネシウム燃料電池は、東北大学・小濱泰昭教授(当時)と産業技術総合研究所、古河電池、日本素材の共同研究の結果で、2012年1月に発表された。

東日本大震災の経験から、電力会社からの電力が途絶えても数日間はテレビやラジオから情報を得る事ができ、体調維持の為に冷暖房機器を稼動させることができる様な安価な電力システムの構築を目指した。(古河電池は大震災の被災地の福島県いわき市に立地する。)

マグネシウム燃料電池はリチウム2次電池の数倍の電気量を有するため、実用化研究が行われてきたが、
・マグネシウムは発火の危険があること、
・電極が電解液に溶解する(自然放電)、
という二つの大きな技術的な問題があるために、実用化が遅れていた。

東北大学は、宮崎県の旧リニアモーターカー実験施設で高効率高速輸送システム「エアロトレイン」の実験を行ってきたが、2011年に産総研九州センターが開発した「難燃マグネシウム(Mg-Al-Ca合金)」を車体材料として使用することで、時速200kmでの浮上走行実験に成功した。

この難燃マグネシウムは「燃えない」という特徴を生かして空気中でも溶接でき、海水に対する耐食性が従来のMg合金よりも優れていることが判明したため、これを使って高性能マグネシウム燃料電池の目処がたった。
(ただし、今回の製品では特許上の問題で市販のマグネシウム合金を利用している。)

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金属マグネシウムに水を加えると、水酸化マグネシウムに変わる性質を利用、その際に電子を取り出して、外部に供給する。
このため、リチウムイオン蓄電池のように充電することはできず、いったん水を入れたら使い切る電池である。

しかし、発生した水酸化マグネシウムを還元すれば、再びマグネシウム空気電池に使用できる。

小濱氏はマグネシウム電池の開発・普及だけでなく、マグネシウムをエネルギーキャリア(輸送媒体)として大量に利用する「マグネシウム循環型社会構想」を打ち出している。

電池で使用した後の水酸化マグネシウムをオーストラリアなど日射量の豊富な国に送り、太陽熱で金属に還元し (熱還元)、金属マグネシウムを日本に再び送ることで、マグネシウムのサイクルを作るというもの。
太陽光発電や太陽熱発電での電力は日本への送電は難しいが、マグネシウムであれば輸送可能である。

共同研究チームは2011年9月に、70年前に戦艦大和の探照灯用反射鏡として作られた日本光学(現 ニコン)の直径1.5mの反射鏡を太陽炉として用いることで、Mg電池の腐食生成物を金属Mg箔として回収する実験に成功している。

ニコンは2013年春から、小濱氏と共同で太陽熱を利用したマグネシウムの還元の実証実験を行っている。

東北大学が所有する直径1.5mの太陽炉(太陽光を大きな放物面鏡などで集光し、高温を得る装置)を利用して1200度の高温を発生、マグネシウムを還元する実験を行ってきたが、2014年3月から鉄道総合技術研究所の旧リニア実験施設で直径3mの太陽炉を使って実用化に向けた実証実験を開始した。

既に太陽炉を使う技術に問題がないことが確認できており、今回は実用性を考え、製造コストや製造時間の改善を目指す。



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