英国政府は昨年、約20年ぶりとなる原発の新設計画(Hinkley Pointの欧州加圧水型原子炉 2基)に自然エネルギーの普及に使われている「固定価格買取制度」を導入した。
EUはこれがEU法が禁止する「国家補助」にあたるのではないかと調査を続けてきたが、10月8日にこれが合法であるとの結論に達したと発表した。
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フランスのEDF と英国政府は2013年10月、2基の原発リアクターの建設で合意した。英国での原発新設は1995年完成したSizewell B 原発以来となる。2023年の運転開始を目指す。
Hinkley Pointに欧州加圧水型原子炉(EPR) 2基(総出力320万kW)を建設する。
これに続いて、Sizewell に2基のEPRの建設を進める。
同型のものを建設することで、設計、購入、建設における経費節減を図る。
EDFでは、機器メーカーのAREVA、提携している中国の中国広核集団(CGN:旧称中国広東核電集団)と核工業集団公司 (CNNC) に加え、他社の参加を交渉している。
EDF Group 45-50% AREVA 10% CGN & CNNC 30-40% その他(15%までの参加を認める)
英国のCentricaが2008年に20%の出資を決めたが、その後、福島事故による新しい安全対策などのさまざまな理由でコストが跳ね上がり、撤退を決めた。
広核集団はこれを海外原発事業への進出の足掛かりにしようとしている。
この計画は、安全対策費などが膨らんで建設費は2基で
総額160億英ポンド(うち建設費は140億英ポンド)と巨額になり、電気料金が下がると、建設費を回収できなくなる。
このため、英国政府とEDFは、原子力発電での電力の固定価格買取価格(35年間)について、下記の通り合意した。
Sizewell での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合 £92.50/MWh(約14.6円/kWh)
これは現在の卸価格の約2倍になる。
2013/12/27 英国が原発建設再開、固定価格買取制度導入
これに対し、EUは2013年12月18日、英国政府が新しい原発の建設・操業に与える補助金が、EUが禁止する「国家補助」に当たるのではないか、慎重に検討すると発表した。
計画では、電力価格の変動に関係なく、原発の操業者は35年間安定した収入を得ることが出来る。
電力料が固定買取価格より低い場合、政府は差額を支払う。逆に高い場合には操業者は差額を政府に支払う。
いずれにせよ、操業者は35年間は市場変動のリスクから免れることとなる。加えて、建設資金の借り入れに当たり、安い保証料で政府保証を得る。
EUの規則(欧州連合の機能に関する条約:TFEU)では、市場経済投資家原則(Market Economy
Investor Principle:MEIP)
により違法な「国家補助」に当たるかどうかを判断することとなっている。競争相手が受けられないようなメリットを与えるなら違法ということになる。
今回EUは、英国政府の提案した改正案はEUのルールに沿ったものであるとの結論に達した。
調査の過程で、英国政府は条件を大幅に修正したため、競争を阻害しないと判断した。
・英国政府は、EUの懸念と異なり、支援が市場ではどうしようもない事態に対応するものであることを示した。
特に、現状では必要な資金を得ることが出来ない状況にある。
(毎日新聞報道では建設費は 2基で約245億英ポンド≒約4兆2630億円としている。)
・政府保証については、当初の保証料は余りにも安かったが、大幅に引き上げられた。
これにより、補助金は10億英ポンド以上減ることとなる。
・事業利益を英国の消費者とシェアすることとなった。
事業利益が計画を上回った場合、政府とシェアする。
更に、事業利益が一定レベルを上回った場合には、政府はその半分以上を受け取る。
利益率が1%ポイント増えただけで、12億英ポンド以上となる。
政府が受け取った利益は、電力料引き下げで消費者に還元する。
この仕組みは、EUの要請により、35年ではなく、事業の全期間(即ち60年間)適用される。
更に、建設費が計画より減った場合も、利益はシェアすることとなる。
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日立製作所は2012年10月30日、英国で原子力発電所の建設を計画している原発事業会社Horizon
Nuclear Power の全株式を、同社株主のドイツのエネルギー会社
No.1のE.ON及びNo.2のRWEから6億7000万ポンド(約850億円)で買収する契約を締結した。
Horizonが保有する北ウエールズのAnglesey島のWylfaとSouth
GloucestershireのOldburyの2カ所で、1,300メガワット級の原子力発電設備をそれぞれ2~3基建設する予定で、日立が世界で唯一運転実績を持つ第三世代原子炉である改良型沸騰水型原子炉(ABWR)技術を用いる。
東芝は2014年1月15日、スペイン大手電力会社Iberdrola S.A.から、英原子力発電事業会社NewGeneration(NuGen)の株式50%を、またGDF Suez から同社保有のNuGen社株式10%を、それぞれ譲り受けると発表した。取得額は総額で約1億ポンド。2012/11/1 日立製作所、英の原発会社買収
NuGen は仏エネルギー大手GDF Suez とIberdrola
の50/50JVで、英中部Sellafieldで合計出力360万キロワットの原発建設を予定している。
Iberdrola はスコットランドのScottish Powerを所有する。
しかし、Iberdrola が2012年に、事業再編と債務削減を進めるためにNuGenの保有株を売却する意向を明らかにしたことで、プロジェクトは頓挫していた。
東芝は子会社Westinghouse Electric の原発設備をNuGen に納入することを狙い、同社への出資を検討していた。
2013/12/27 英国が原発建設再開、固定価格買取制度導入、東芝と中国企業が計画に参加
今回のルールが適用されれば、両社の計画にも好影響を与える。
ただ、オーストリアは 英国の公的支援に反対し、計画が承認されれば法的措置を取ると表明しており、欧州司法裁判所に提訴する可能性がある。
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Hinkley Pointが採用する欧州加圧水型原子炉(EPR) は稼働中のものはなく、4基が建設中である。
フランス西部のFlamanville とフィンランドの Olkiluotoで1基ずつ、中国の広東省台山市で、中国広核集団が70%、フランス電力が30%出資する台山原子力発電所が2基を建設している。
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