名古屋議定書が発効、日本は批准間に合わず

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名古屋市で2010年に開かれた国連生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)で、生物の保全と持続的利用を目指して採択された「名古屋議定書」が10月12日に発効する。

50カ国・地域の批准から90日後に発効する」となっており、2014年7月に批准国が50カ国に達した。

日本は2011年5月11日に署名し、政府(民主党政権)は2012年9月28日に、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する政府の基本的な計画となる「生物多様性国家戦略2012-2020」を閣議決定し、可能な限り早期に名古屋議定書を批准し、遅くとも2015年までに名古屋議定書に対応する国内措置を実施することを目指すとした。

しかし、現在はなお、関係省庁間で議論している段階。

第1回の議定書締結国会議が10月13日から韓国でCOP12と平行して開催されるが、日本は議決権のないオブザーバーとして参加する。

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生物多様性条約の15条(遺伝資源の取得の機会)では以下の通り規定している。

5. 遺伝資源の取得の機会が与えられるためには、当該遺伝資源の提供国である締約国が別段の決定を行う場合を除くほか、事前の情報に基づく当該締約国の同意を必要とする

7. 締約国は、遺伝資源の研究及び開発の成果並びに商業的利用その他の利用から生ずる利益を当該遺伝資源の提供国である締約国と公正かつ衡平に配分するため、------ 適宜、立法上、行政上又は政策上の措置をとる。その配分は、相互に合意する条件で行う。

しかし、先進国と途上国の利害が対立し、この利益配分(Access and Benefit-Sharing : ABS) の具体的なルールが決まらないままとなっており、遺伝資源の持ち出しを禁止する国も出てきており(インドネシアは鳥インフルエンザのウイルスの国外への持ち出しを禁止)、どうしてもルールを設定することが必要であった。

「名古屋議定書」の要旨は次の通り。

 ・遺伝資源の利用で生じた利益を衡平に配分する。

 ・遺伝資源と並び、遺伝資源に関連した先住民の伝統的知識(薬草の使用法など)も利益配分の対象とする。

 ・利益には金銭的利益と非金銭的利益を含み、配分は互いに合意した条件に沿って行う。

 ・遺伝資源の入手には、資源の提供国から事前の同意を得ることが必要。

 ・利益配分の対象
    「遺伝資源の利用に対し利益配分する」

   遺伝資源を加工した「派生物」という語は削除し、玉虫色の表現で、実際には派生物を含む余地を残した。
        契約時に個別に判断することとなる。

 ・多国間の利益配分の仕組みの創設を検討する。

 ・人の健康上の緊急事態に備えた病原体の入手に際しては、早急なアクセスと利益配分の実施に配慮する。

 ・各国は必要な法的な措置を取り、企業や研究機関が入手した遺伝資源を不正利用していないか、各国がチェックする。

 2010/11/1  COP10、名古屋議定書を採択 

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日本バイオ産業人会議、バイオインダストリー協会、日本製薬工業協会、日本漢方生薬製剤協会、日本種苗協会は10月2日、連名で政府に対し「生物多様性条約・名古屋議定書に関する要請書」を提出した。

名古屋議定書は政治主導の下で、産業界との調整を経ずに採択されたもので、内容が曖昧であるだけでなく、以下のようないろいろな問題がある。
批准に向けた議論を行うにあたっては、拙速に走るべきではなく、内容をひとつひとつ丁寧に検討し、産業界との調整を十分に経た上で結論を出して欲しいとしている。

 「遡及」について

名古屋議定書では、適用対象となる遺伝資源を取得した「時期」について明文による規定がなく、取得時期が生物多様性条約の発効前まで遡るリスクが残っている。
 (議定書では「
多国間の利益配分の仕組みの創設を検討する」としている。)

現在の締約国のうち先進国はEU、デンマーク、ハンガリー、メキシコ、ノルウェー、スペイン、スイスのみ。

批准国53ヶ国中23ヶ国を占めるアフリカグループは依然として大航海時代に移転された遺伝資源にまで遡って利益配分を求めている。
仮に、「遡及」が適用されれば、国内で影響を受けうる産業規模は最大21兆円になる。

 中小企業への影響

名古屋議定書では、中小企業者に対する配慮が規定されておらず、このため、外国の遺伝資源を活用して生産活動を行っている中小企業者は、突然利益配分を求められ、事業活動が維持できなくなる可能性が残っている。

 研究開発への影響

研究開発に対する配慮も十分には規定されていないため、利益の配分に関し各国がどのように実行するのかが明確にされなければ、外国の遺伝資源を活用した研究開発自体が後退するとともに、研究成果の実用化が見送られる可能性が高い。


フィリピンは議定書の発効に先立って、すでに売上の2%以上を分配金として設定すると大統領令で決めている。
仮に、他国がこれに準じると、遡及が認められた場合、最大21兆円の2%、約4000億円の支払いが必要となる。

2012年の名古屋議定書は、先進国と途上国が激しく対立して協議がまとまらず、最終日の朝に議長の松本龍環境相が自ら議定書案を各国に提示、ぎりぎりで各国がこれに同意したものである。

 

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