エア・ウォーターは10月14日、審決取消訴訟の勝訴判決に対し、公取委が上告期限までに上告手続をしなかったため、同社の勝訴が確定したと発表した。
勝訴確定に伴う既納付済みの課徴金の返還金額、返還時期などについては、公取委の審判で決定される。
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公取委は2011年5月26日、エアセパレートガスのメーカー4社に対し、価格カルテルを結んでいたとして、排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。
エアセパレートガスは空気から製造される酸素、窒素及びアルゴンで、対象となったのはタンクローリーによる輸送によって供給する特定エアセパレートガス(医療用を除く)。
排除措置命令と課徴金納付命令の対象は以下の通り。
事業者名 減免 課徴金額 大陽日酸 30% 51億4456万円 日本エア・リキード 48億2216万円 エア・ウォーター 36億3911万円 岩谷産業 30% 4億9902万円 合 計 141億0485万円
2011/5/30 公取委、産業ガスメーカーに排除措置命令及び課徴金納付命令
これに対し、エア・ウォーターは7月22日に審判請求を行った。
争点は以下の通り。
公取委はエア・ウォーターに対する課徴金を、製造業の大企業に適用される10%で計算し、36億3911万円とした。
エア・ウォーターは、同社(45%出資)と大阪ガス子会社のリキッドガス(55%出資)のJVのクリオ・エアーで生産した製品を販売している。
このため、エア・ウォーターでは、小売業に適用される2%で計算した7億2782万円が妥当であるとし、差額分の取り消しを求めた。
公取委は審判手続きを行い、2013年11月19日に審判請求を棄却する審決を行った。
概要は下記の通り。
外形上はクリオ・エアーから仕入れて販売する形式で行われている。
しかしながら、
・エア・ウォーターはクリオ・エアーの45%の議決権を保有
・クリオ・エアーにおける費用等の情報開示を受けている
・価格は、費用+期待利益を基に、クリオ・エアーと両株主の協議で決定
・合弁契約でエア・ウォーター全量引取となっており、実際に全量を引き取っている。この結果、クリオ・エアーは実質的に販売活動の自由を有しておらず,同社を独立の事業主体とみることは困難
さらに、クリオ・エアーは、液化天然ガスの冷熱の利用により、電力のみを使用する場合に比べてコストが低いが、エア・ウォーターはメリットをほぼ全て享受している。クリオ・エアーは冷熱の利用によって見込まれる製造業者として期待される利益を自らの意思に基づき獲得できない立場に置かれていた。
以上のことから,特定エアセパレートガスの製造販売についてみれば、エア・ウォーターはクリオ・エアーと実質的に一体となって事業を行っていたものと認められる。
これに対しエア・ウォーターは2013年12月、東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起し、司法判断を仰ぐことを決定した。
東京高裁は2014年9月26日、エア・ウォーターの主張を認めて審決を取り消し、納付すべき金額は7億2782万円と指摘した。
菅野博之裁判長は「エア・ウォーターの持ち株比率は大阪ガスより低く、製造への関与は低い」として、「卸売業」と認定すべきだと指摘した。
これに対し、公取委が上告期限までに上告手続をしなかったため、エア・ウォーターの勝訴が確定した。
エアー・ウォーターは2010年度決算で3,639百万円を特別損失に落としており、今回、差額を特別利益に計上することとなる。
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公表された事実だけから判断すると、審判手続きで公取委が示した判断が正しく、高裁の判断は出資比率という形式のみにこだわり、実質を見ていないと思われる。
合弁契約書で合弁会社の運営方法を決めておれば、出資比率が51%以上か未満か、製造に関与するか否かは何の関係もない。
51%以上の株主であっても、合弁契約書に違反した運営はできない。
(この例では、一定利益の持分を得るだけである。)
エア・ウォーターが全量をコスト+一定利益(そのうち持分は同社に帰属)で引き取るのであれば、同社の分工場又は製造委託先と看做すべきである。
クリオ・エアーは自らの判断での外販が出来ず、下請けに過ぎない。
何故公取委が上告しなかったのか、理解できない。
付記
公取委は10月14日、課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決を行った。
理由は以下の通り。
クリオ・エアーの事業は大阪ガス子会社のリキッドガスが55%出資し、取締役も多く出し、常勤役員も出している。
工場は大阪ガス敷地内で従業員の多くも大阪ガスからの出向者であり、冷熱を供給している。
クリオ・エアーの事業は大阪ガスグループにおける冷熱利用の一環として行われているというべきである。
エア・ウォーターが、クリオ・エアーの生産計画や販売価格について主導的な影響力を行使することができたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
これは上記の当ブログの意見、即ち、「合弁契約書で合弁会社の運営方法を決めておれば、出資比率が51%以上か未満か、製造に関与するか否かは何の関係もない」というのを考慮しておらず、形式のみをみて、実質を見ていないものである。
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