原油価格の下落が続いている。
(11月5日は78.68円に戻った。)
OPECが生産枠を引き下げる可能性が薄いこと、米国を中心とした供給量の増加と需要の鈍さが重しとなり、下落が続き、6月20日の107.26ドルから28%の下落となっている。
欧州産原油の指標である北海ブレント原油も2.6%安の82.56ドルと、4年ぶりの安値を更新した。
欧州委員会は11月4日発表の秋季経済見通しで、ユーロ圏の今年の経済成長率予測を
1.2%から0.8%へ、来年についても1.7%から1.1%へとそれぞれ引き下げた。欧州の原油需要の弱さも原油安進行の主な要因の一つとなっている。
2012年以降は、国別の「生産枠」は撤廃され、新たにイラクを含む12ヶ国全体の「生産目標」として3,000万バレル/日が設定され、以降、据え置かれている。
OPEC生産枠の推移(千バレル/日)
2007/2 2007/11 2008/1 2008/9 2008/11 2009/1 2012/1 Algeria 794 1,357 1,357 1,357 1,286
Iraq
含まず
Iraq含む Iran 3,788 3,817 3,817 3,817 3,618 Kuwait 2,065 2,531 2,531 2,531 2,399 Libya 1,371 1,712 1,712 1,712 1,623 Nigeria 2,123 2,163 2,163 2,163 2,050 Qatar 663 828 828 828 785 Saudi 8,399 8,943 8,943 8,943 8,477 UAE 2,257 2,567 2,567 2,567 2,433 Venezuela 2,970 2,470 2,470 2,470 2,341 Angola ー ー 1,900 1,900 1,801 Equador ー ー 520 520 493 Iraq (ー) (ー) (ー) (ー) (ー) (ー) Indonesia 1,370 865 865 離 脱
Total 25,800 27,253 29,673 28,808 27,300 24,845 30,000 (増減) (-500) (1,450) 〔2,420〕 〔-865〕 (-1,500)
しかし、複数の加盟国代表によると、大半は減産に消極的で、むしろ市場シェアを維持するため、生産量をこれまで以上としたい考えを示している。ナイジェリア、イラク、クウェート、リビアはいずれも生産を増やしている。
生産縮小の可能性があるのはサウジアラビアだけとされた。
そのサウジは、10月1日に11月分の輸出原油全てを値下げし、アジア向けについては2008年12月以来の安値に引き下げた。
供給過剰の解消に向けた減産で市場シェアを譲り渡すのではなく、OPECの他の加盟国との「価格戦争」に臨む用意があることを示唆した。
Saudi Aramcoは各地向け原油価格をベンチマーク価格からの調整金の額で発表している。
ベンチマーク価格は以下の通り。
米国向けは、2010年1月から以前のWTI crudeからArgus Sour Crude Index (ASCI:米国メキシコ湾岸地域の中質サワー原油現物価格の指数)に変更した。
2009/10/31 Saudi Aramco、米国向け輸出の原油価格決定で英Argus Mediaの指標を利用へ
アジア向けは、ドバイ原油とオマーン原油のスポット価格の月間平均値を足し、2で割ったもの。
欧州向けは、ロンドンのInternational Petroleum ExchangeでのBrent原油加重平均。
11月の調整金は米国向けはバレル当たり 2.45ドルから2.05ドルに0.40ドル下げ、アジア向けは-0.05ドルから-1.05ドルへと 1.00ドルの大幅下げ、欧州向けも -3.20ドルから-3.95ドルへと0.70ドル下げた。
サウジは11月3日、12月のアジア向け調整金を0.95ドル引き上げ、10月分に近い
-0.10ドルまで戻し、欧州向けについても0.60ドル引き上げた。
このため、OPEC加盟国間で価格戦争が起きるとの観測は一時的に後退した。
しかし、米国向け12月積み原油の販売価格を値下げし、市場に衝撃が走った。調整金を2.05ドルから2013年以来最低の1.60ドルに下げた。
米国向けのみを値下げしてきたことは、米市場におけるシェア維持の強い意志の表明に加え、価格をシェールオイルの採算分岐点以下にして、シェールオイルの増産トレンドにブレーキをかけようとしているのではないかとの推測も出ている。
一般にシェールオイルの生産コストは80ドル程度ではないかとの推定がされている。
付記
ある報道では、サウジの米国向け値下げのきっかけは、8月の米国向け輸出が日量90万バレル以下となったことで、これは1988年以来の最低で、過去10年の平均の130万バレルと70%である。
サウジの油質とシェールの油質は異なり、サウジの競合相手はイラク、ベネズエラ、ブラジル、カナダで、これらとの競争で値下げを行ったとしている。
次回のOPEC総会は11月27日に予定されているが、現在では減産の可能性は見られておらず、在庫は増加する一方で、在庫の増加は必然的に価格下落をもたらす 。
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第二次石油ショック時の1982年3月にOPECは生産枠を決め、真のカルテルに移行し、高値を維持しようとしたが、その後、アラスカや北海油田のほか、原子力、天然ガスなどの新しいエネルギーソースが増え、また各国で省エネを進めたため、価格が下がり始めた。
しかし、OPEC諸国は一度増えた収入を維持しようとして、生産枠を破って増産、サウジ一国がスイング国として価格維持のため減産した。
1985年に入り、サウジのシェアは大幅にダウンしたため、スイング国をやめると宣言、値下げ販売を行ったため、各国が追随し、大幅な価格下落となった。
今回もサウジが値下げによるシェア維持に踏み切ると、原油価格の大幅な下落も起こり得る。
その場合、ロシア、イラン、イラクなど経済を石油に頼る各国の経済に大きな打撃を与えるとともに、米国のシェールブームにも影響を与え、世界経済が混乱に陥る恐れもある。
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