BASFと戸田工業は10月30日、日本を拠点にリチウムイオン電池用正極材を展開する合弁会社の設立について、基本合意に達したと発表した。
合弁会社名は、BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社で、BASFが66%、戸田工業が34%を出資する。
両社は、それぞれの正極材(CAM)ビジネス、知的財産権、日本における製造設備・拠点などを結集し、NCA(ニッケル系正極材)、LMO(マンガン系正極材)、NCM(三元系正極材)といったさまざまな正極材料の研究開発、製造、マーケティング、販売に注力する。
山口県山陽小野田市と福岡県北九州市に年間製造能力 約18,000トンの正極材および前駆体の製造拠点を構え、2015年2月末に活動開始の予定。
両社は本年4月3日、日本を拠点にリチウムイオン電池用正極材を展開する合弁事業に向けた独占交渉を開始したと発表、交渉を続けていた。
戸田工業は金属酸化物の湿式合成技術を基盤とし、リチウムイオン電池正極材、顔料・トナーなどの各種着色材料、磁性体粉末材料・フェライト材料などの磁性体の多様な商品を製造しているが、電池材料事業では、リチウムと金属の化合物であるリチウムイオン二次電池正極材料の研究開発と製造を行っている。
両社の電池材料事業の内容は下記を参照。
2012/7/20 BASFの電池材料事業
2014/4/9 BASF と戸田工業、日本でリチウムイオン電池用正極材の合弁事業に向けた協議を開始
なお、下記の通り、戸田工業は三井造船と組んでリン酸鉄リチウム(LFP)での正極材事業を行っていた。
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エコカーや太陽電池などの新エネルギー市場の拡大を受け、リチウムイオン2次電池(LiB)向け材料分野には各社が進出している。
しかし、競争は激化しており、今回BASFと戸田工業が事業を開始するリチウムイオン電池用正極材分野では、三菱化学と三井造船が相次いで撤退を決めている。
三菱化学は2014年8月1日、リチウムイオン電池部材の正極材事業から9月に撤退すると発表した。
付記
同社は三元系正極材を採用している。
三元系は通常、「ニッケル:マンガン:コバルト=1:1:1」(コバルト含有比率約33%)だが、同社は独自の粒子構造制御や改質処理により、正極材の性能を維持しつつ、高価なコバルトの含有比率を10%にまで大幅に低減させる技術を確立した。
電気自動車(EV)用電池向けへの販売が苦戦していた。将来の売り上げ見通しが立たないため、水島事業所(岡山県倉敷市)にある正極材の生産設備を減損処理し、特別損失約10億円を計上した。
三菱化学はリチウムイオン二次電池の主要4材料(電解液・負極材・正極材・セパレータ)すべてを取扱う世界唯一の企業で、各事業部に分散していた電解液、負極、正極、セパレータの事業と研究開発を一括運営する社長直轄プロジェクトを立ち上げ、1999年に電池機材部を新設し、2003年には電池機材事業部に昇格させて、プロジェクトを推進している。
今回、正極材から撤退する。
2010/9/13 三菱化学、リチウムイオン二次電池用負極材の製造能力増強
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三井造船は10月23日、正極材事業からの撤退を発表した。戸田工業とのJVのM&Tオリビンを解散する。
「現状では中長期的にも大幅な市場拡大は見込めないことから、経営資源を有効に活用するために製造事業から撤退する」としている。
中国メーカーの台頭で値崩れが進み、顧客開拓も思うように進まなかった。
三井造船と戸田工業は2011年6月、中大型リチウムイオン電池正極材のリン酸鉄リチウム(LiFePO4:LFP)
製造の事業化検討のため、M&Tオリビン(三井造船51%、戸田工業49%)を設立、12月に増資し、三井造船 90%とし、千葉県市原市の三井造船千葉事業所内に年間2,100トンの
製造設備を建設した。
製造するLFPは、リチウムイオン電池の正極材の中でも、安全性が高く、急速充放電が可能、レアメタルを使わない、電池寿命が長いなどの特長を持つ強固な結晶構造の正極材で、プラグインハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)、集合住宅やオフィス、学校などに向けての電源システム、業務用の電源装置、スマートグリッド及び電力平準化定置型蓄電池向けに大幅な需要拡大が見込まれるとしていた。
三井造船は、パイロットプラントでの研究を経て、2009年に年産36トンのセミコマーシャルプラントを建設し、品質の改良に取り組んできた。
また、2011年7月にLFP などのリチウムイオン電池正極材料をワールドワイドに製造・販売できる特許実施権をLiFePO4+C Licensing AG(スイス)から取得した。
注)BASFもLiFePO4+C Licensing AGからLFPバッテリー材料技術のグローバルな製造・販売権の取得を目的とした長期的なライセンス契約を締結している。
戸田工業は、マンガン酸リチウム(LMO)、ニッケル酸リチウム系(LNCA)、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム系(三元系:LNCM)を事業化しているが、新たに、LFPの事業にも参入する。
工場は2013年5月に完成したが、安価な競合製品が増え、エコカーの普及も進まなかったことから撤退を決めた。
当初は戸田工業が持つ正極材料の技術力や営業力、品質管理の強みを活用し、顧客開拓を進める計画だったが、その後、戸田工業はLFPの事業から実質的に手を引き、BASFとの協業による3元系事業拡大に軸足を移した。
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LFPの製法には固相法(焼成法)と水熱法がある。
三井造船は固相法で、セラミックス粉末を作る方法として最も一般的に用いられているが 、粉体同士の接触点におけるイオンの熱拡散が唯一の反応推進力であるため、高温・長時間を要し、均一な組成の生成物を得ることが難しく、また、生成物は一般に焼結塊状物となるために粉砕工程が必要であり 、粉砕装置や粉砕媒体からの不純物の混入が避けられない。
一方、水熱法を用いれば 、低温・短時間の反応で組成が均一な単結晶性の微粒子を容易に得ることができるとされる。
住友大阪セメントは、水熱法の開発を進め、2012年にベトナムに年産2000トン能力の新工場を建設した。1万トンレベルまでの設備拡張が可能。
名称:SOC Vietnam
所在地:ベトナム フンイエン省イエンミー地区タンロンⅡ工業団地
出資:住友大阪セメント 100%
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