新潟市等に所在するタクシー事業者26社が2010年3月に北陸信越運輸局から運賃値上げの認可を受けた。
これに関し、公取委は2011年12月、タクシー事業者が共同して運賃を決定したとして、25社に対し排除措置命令及び総額2億3175万円の課徴金命令を出した。
新自動認可運賃で上限は据置き、下限は引き上げられたが、これについて、中小型については新自動認可運賃の下限、大型・特定大型については上限とすると決めたとしている。
課徴金は最高が3479万円、次が1423万円、他9社が1000万円以上となっている。
これに対し16社が審判請求を行い、2012年4月に審判が開始されたが、10月に審判請求を棄却する旨の審決案が出された。
新潟のタクシー事業は供給過剰な状態で、輸送人員、営業収入ともに減少を続け、2008年には2社が廃業、280人が解雇され、2012年にも1社 (従業員 100人) が廃業した。
タクシー乗務員の賃金水準は全産業平均を大きく下回るが、労働時間は平均より長く、事業者・乗務員の置かれている状況は非常に厳しい。
このなかで、2009年にタクシー特措法が施行され、下限を下回る運賃の審査が厳格化された。
タクシー事業者が厳しい環境から、他社との競争を意識する中で、経営判断により下限運賃を選択したのは、社会的に十分妥当性を持つ。
一方、課徴金は売上額の4%で、3千万円を超える負担となる事業者もある。
事業者の廃業、それに伴う従業員の失業、労働条件の悪化等が強く懸念され、地域社会全体に大きな影響を及ぼす恐れがある。審決に当たっては十分斟酌して欲しい。
課徴金命令は受けていないが、新潟市に本拠を置くタクシー会社の「しあわせタクシー」が、11月21日付で新潟地方裁判所より破産手続の開始決定を受け倒産した。
1951年に創業の同社は、新潟市内を中心にタクシー運行を手掛けていたものの、景気低迷に伴う競争激化などから業績が悪化し今回の措置に至った。
EUの欧州委員会は2010年6月、浴室の設備メーカー17社が価格カルテルを結んでいたとして、総額6億2225万ユーロの制裁金を命じた。
このうち5社については、当初想定していた制裁金を科すと倒産する恐れがあると判断し、制裁金を減額する異例の措置を講じた。
17社のうち、10社が欧州委員会に対して制裁金を支払えないと申し出た。
比較的規模の小さい企業が多く、金融危機で住宅投資が減少し、企業収益が悪化している。
欧州委員会では、各社の最近の決算書や今後の損益予想、諸財務比率(健全性、収益性、支払能力、流動性など)、銀行や株主関係、各社の社会的・経済的状況を検討、更に制裁金のために倒産に追い込まれた場合に各社の資産価値が大幅に失われるかどうかを検討した。
評価は、公平性を確保し、EUの抑止力を維持するよう、出来るだけ客観的に、数値化して行われた。
この結果、10社のうち、3社に対しては50%の減額、2社に対しては25%の減額とした。減額対象となった企業名は明らかにされていない。
Joaquin Almunia 競争政策担当委員は、違法な行為は摘発していくこと、制裁金は違法行為をやらせないような水準にすることを強調しつつ、「制裁金の目的は経済的苦境にある企業を倒産に追い込むことではない」と述べた。
2010/6/25 欧州委、倒産の恐れを考慮しカルテル制裁金を減額
タクシー業界の苦境は小泉政権下の2002年に施行された「改正道路運送法」でタクシー事業への参入が原則自由化され、タクシー会社が乱立したことにある。
本件についてカルテルの事実関係は分からないが、こういう状況が背景にあり、これ以上の混乱を生まないための苦肉の策ではなかろうか。
特に今回の場合、一般市民に影響を与える中小型については新自動認可運賃の下限とすると決めたとされる。
この場合、最低の値上げで済むこととなり、一般市民には有利な結果となる。
合意により、「取引分野における競争を実質的に制限していた」としても、「公共の利益に反して」はいない。
料金を下限にすることによる不当利益はなく、課徴金をとることは不当利益を取り戻すという趣旨に反する。
法律上、免除の規定がないから出来ないというなら、上限に設定して「公共の利益に反して」いると思われる大型、特定大型の売上高についてのみ、課徴金を求めるということも可能である。
欧州委員会の言うとおり、「制裁金の目的は経済的苦境にある企業を倒産に追い込むことではない」。
コメントする