ロシアは12月1日、ウクライナを迂回してロシアから欧州南部に天然ガスを輸送するパイプライン South Stream の敷設計画を撤回した。
アンカラで開かれた記者会見でプーチン大統領は、「ブルガリアから未だに許可を得られていないため、ロシアはこの計画の実現を続けられない。つまり、今重要なのは、このパイプライン網の黒海への建設に着手することだ。 しかし大金を投じて建設しても、ブルガリアから許可を得られないと役に立たなくなる」と述べた。
「EUの立場は非建設的であり、そのためロシアは他の地域にエネルギー輸送先を切り替え、またはLNGに軸足を置き替える」とも語った。
ハンガリー、オーストリア、セルビア、ブルガリアなどは、ウクライナ経由の天然ガスが何度も絶たれたことから、ウクライナを迂回するSouth
Stream に期待していた。
また、計画中止は、ガスの通過料収入などを見込んでいたブルガリアやセルビアなど関係諸国にとって痛手となる。
プーチン大統領はブルガリアに対し、EUから逸失利益の補償を求めるよう提案した。
「ブルガリアは主権国家として行動する権利を奪われているのかも知れないが、もしそうでも、欧州委員会から逸失利益分の補填を要求することくらいはしたら良かろう。トランジット料金だけでブルガリアは年に4億ユーロを手に入れられるはずだったのだから」 と述べた。
プーチン大統領は、ロシアはSouth Stream の代わりにトルコを経由する南欧向けのガスハブ開発を進めるとした。
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ロシアのGazpromとパートナーは2012年12月7日、南ロシアの黒海東岸の Anapa市でSouth Stream pipeline の着工式を行った。
South Streamはロシアと中央アジアの天然ガスを欧州に送るもので、黒海の湖底を通って対岸のブルガリアに渡り
(900km)、その後、2手に分かれる。
北西ルートはブルガリア、セルビア、ハンガリーを通ってスロベニア、オーストリーに通じる。南西ルートはギリシャからイタリアに通じる。
2012/12/13 ロシア、サウスストリームパイプライン計画着工
ロシアとブルガリア、セルビア、ハンガリー、ギリシャ、スロベニア、クロアチア、オーストリアの各国との建設契約は既に締結されている。
これに対し、EUは2013年12月4日、各国が締結した建設契約はEUの法に違反しており、ゼロから再交渉する必要があるとした。
South Stream pipeline 建設契約が反しているとされるEUの規則は、2007年9月に採択された第三次電力・ガス自由化パッケージである。
これはエネルギーに関する消費者の選択、フェアな価格、クリーンエネルギー、供給の保証を目的とするもの。
再生可能エネルギーに投資するなどの小企業でもエネルギー市場に参入できるようにするもので、具体的には、エネルギーの生産と輸送ネットワークの所有を分離する。これにより電線やパイプラインの所有者が、利用を拒否したり、高い価格を要求したりして参入を妨害するのを防ぐことを狙うものである。
South Stream pipelineについては、天然ガスの生産者であるGazpromがパイプラインを所有することになるため、これに違反するという主張である。
Gazpromの天然ガスだけを送るパイプラインは認められないとした。
ウクライナは2013年に欧州連合との政治・貿易協定の仮調印を済ませたが、ロシア寄りの姿勢を見せるヤヌコビッチ前大統領が2013年11月、EUとの関係を強化する「連合協定」の締結を見送り、ロシアとの協力関係を密にする方針に転換した。 (これが現在のウクライナ問題につながる)
EU規則は2007年9月のものだが、2013年12月までは
EUはSouth Stream 計画について何も問題視していない。
この時になって急に問題提起をしたのは、ウクライナ問題があったことは明らかである。
2014/7/11 天然ガスを巡るEUとロシアの攻防
今回のロシアの決定は、EUのこの方針に対 して行われた。
実際には、EUの承認問題に加え、パイプラインの海底部分建設のための140億ユーロの調達がEUの制裁で困難になっていることもある。
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