欧州単一通貨ユーロを使う19カ国の金融政策を決める欧州中央銀行(ECB)は1月22日、定例理事会を開き、ユーロ加盟国の国債などを購入し、資金を大量に金融市場に供給する「量的緩和政策」の導入を決めた。
ユーロ圏は物価が下落し続けるデフレの懸念が強まっており、量的緩和はこれを払拭する狙いで、量的緩和の導入は1998年のECB創設以来初めて。
ECBの狙い:
購入する国債の価格が上昇(金利が低下)し、企業向け融資や住宅ローンの金利も低下して、企業の生産や家計の消費を促す。
ユーロが大量に出回ると、ユーロの価値がドルや円に対して下がるため、外国為替市場でユーロ安が進む。
ユーロ圏からの輸出を後押しするほか、ユーロ圏が輸入する原材料や製品の価格が上昇し、ユーロ圏の物価を押し上げる。
2014年12月のユーロ圏消費者物価指数速報値は前年比で -0.2%となった。マイナスとなったのは2009年10月の -0.1%以来で、原油安でエネルギー価格が大幅に下落した。
欧州中銀は
過去の平均値の2%弱の上昇を目標としているが、原油安で下落が続く可能性が高い。
付記 2015年1月は前年比0.6%下落 (うちエネルギー 8.9%下落、エネルギー除くと +0.4)
量的緩和政策の概要は下記の通り。
1) 2015年3月から2016年9月末まで、毎月 600億ユーロ(約8兆円)、総額1兆1400億ユーロ(約156兆円)の金融資産を買い取る。
2) ユーロ圏の全加盟国の残存期間2~30年の国債を購入対象とする。購入はECBへの出資比率に応じて行う。
National central bank 比率% Deutsche Bundesbank (Germany) 25.57 Banque de France (France) 20.14 Banca d'Italia (Italy) 17.49 Banco de España (Spain) 12.56 De Nederlandsche Bank (The Netherlands) 5.69 Nationale Bank van België/Banque Nationale de Belgique (Belgium) 3.52 Bank of Greece (Greece) 2.89 Oesterreichische Nationalbank (Austria) 2.79 Banco de Portugal (Portugal) 2.48 Suomen Pankki - Finlands Bank (Finland) 1.78 Central Bank of Ireland (Ireland) 1.65 Národná banka Slovenska (Slovakia) 1.10 Lietuvos bankas (Lithuania) 0.59 Banka Slovenije (Slovenia) 0.49 Latvijas Banka (Latvia) 0.40 Banque centrale du Luxembourg (Luxembourg) 0.29 Eesti Pank (Estonia) 0.27 Central Bank of Cyprus (Cyprus) 0.21 Central Bank of Malta (Malta) 0.09 Total 100.00
出資比率が最大のドイツの国債を最も多く買うこととなるが、ドイツは財政が健全で景気も堅調なため、国債購入の効果は少ないとみられる。
一方、景気停滞と財政難が続くギリシャなど南欧諸国の国債の購入が少なくなると、そうした国の国債金利が低下せず、効果が限定的になる恐れがある。
3) 購入した国債の信用が低下し、国債価格が急落して、ECBに損失が生じた場合、
損失の2割は全加盟国で分担
残る8割は、国債を発行した国の中銀が負担。
ギリシャ国債のリスクは他の国は負わないということ。
負担を懸念するドイツなどに配慮したものだが、ユーロ圏の結束の原則に反し、高水準の債務を抱える国の財政をさらに圧迫する可能性があるとの批判が上がっている。
4) ギリシャの場合、EU、ECB、IMFの3機関で構成する国際債権団がまとめた支援プログラムの条件を順守する必要がある。
ギリシャでは1月25日に総選挙が行われるが、急進左派連合(SYRIZA)が優勢となっている。
SYRIZAの党首は、ギリシャがユーロ圏にとどまる意向を示しながらも、勝利した場合には債権国から課された緊縮財政政策に終止符を打つと約束 しており、EUとIMFから借りた2400億ユーロの一部帳消しも望んでいる。場合によってはギリシャ国債は対象外となる可能性もある。
ユーロ圏は景気や財政など経済状況がばらばらな19カ国が加盟している。
ECBへの出資比率に応じた国債購入が景気や物価の押し上げにつながるのかは明確でなく、金融市場にも効果に懐疑的な見方がある。
国債購入は賛成多数で決まった。
銀行筋によると、ドイツ、オランダ、オーストリア、エストニアの中銀総裁とラウテンシュレーガー専務理事の計5人が資産買い入れに反対した。
ドイツはこれまで、効果が少ない、財政規律の改革に支障、財政ファイナンスを禁止したEUの条約に反するといった理由で反対していた。
EUの基本条約「リスボン条約」は、ECBによる参加国国債の購入は、「財政ファイナンス」にあたるとして禁止している。
欧州司法裁判所の法務官は1月14日、ECBの無制限債券買い入れ策「OMT(Outright Monetary Transactions)」について、「原則的に」EU条約に沿っているとの意見を示し、条件付きでこれを支持した。
Pedro Cruz Villalon法務官は、OMTは「必要」であり「妥当」との見解を示す一方、ECBはOMT実施を正当化する根拠を示す必要がある、と指摘 した。
また、OMT実施の条件として、ユーロ圏の特定の国への支援プログラムにECBが直接関与しないことを挙げている。同法務官は「ECBはEUの金融政策を策定かつ実施するに当たり、幅広い裁量を与えられるべきであり、裁判所はECBの活動を査定するに当たって相当程度の慎重姿勢が求められる」と述べた。
法務官の見解に拘束力はないものの、それに沿った判断を司法裁が最終的に下すケースが大半。
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