東京電力は1月23日、福島第1原発構内のタンクに保管している高濃度汚染水の2014年度内の全量浄化処理を断念する方針を決め、経済産業省に伝えた。
浄化処理完了の見通しは5月中としている。
東電は2013年9月に安倍首相が第1原発を視察した際に、2014年度中の全量処理を約束した。
東京五輪招致活動で首相が「状況はコントロールされている」と述べたことなどを受け、東電が約束した。
多核種除去設備ALPSを既存の3系列 (日量処理量750t) に3系列(同750t)を加えて6系列 (同1500t)とし、更に国が150億円の費用を出した
改良型ALPS (同500t)を導入した。
しかし、トラブル続きで処理が遅れており、合計能力日量2000トンに対し、現在の稼働能力は合計で日量1,215トンとなっている。
本ブログは2013年9月に東電の計画の問題点を列挙し、次のように述べた。
要処理量はもっと増える可能性があり、処理量はもっと減る可能性がある。
処理水の海洋放出がもたつけば、処理水そのものを保管することが必要となる。この状況で、「2014年度中に全ての汚染水の浄化を完了」などというのは無責任である。
首相の五輪招致時の発言と合わせ、国際公約と見なされては大変である。2013/9/30 福島原発、多核種除去装置「ALPS」 試験運転再開
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しかし、河野太郎衆議院議員の「ごまめの歯ぎしり」(2015年2月13日号 変えられた汚染水処理の定義 )によると、5月中の処理完了も不可能であるという。
現状は下記の通りで、現在のALPS関係の処理能力のままなら、汚染水の処理に300日かかることとなる。
河野代議士によると、東京電力は、「汚染水処理」の定義を変えたようだ。
当初、「汚染水処理」とは、ALPSで62核種を除去し、除去不可能な トリチウムのみが残った水にすることを指していた。
ところが東京電力が5月末までに終わらせると言っているのは、これではない。
サリー、キュリオンだけを通すか、サリー、キュリオンを通ってからモバイル型ストロンチウム除去設備またはRO濃縮水処理設備と呼ばれるものを通した汚染水についても「処理した」と扱うことに定義を変えた。
米国のKurionは2014年6月、今までに類のない、タンク水を除去するモバイル式システムにより、福島第一のタンク水からストロンチウムを除去する契約を締結した。
ガラス固化しやすい、無機のイオン交換メディアを使用して、水中に存在する競合する低リスク汚染物質からストロンチウムを分離する。
東電の「汚染水処理」の定義は下記の通り。
セシウムとストロンチウムだけを除去し、他の多くの核種が残っていても、「汚染水処理」が済んだとすることとし、これが5月末に終わるというだけである。
毎日の発生量とALPS処理前のタンク残の24万トンを新しい定義での「汚染水処理」をしたとしても、多くの核種が残っている。
付記 河野代議士は2月18日号で次のとおり補足している。
キュリオンかサリーでは、セシウム134は3000Bq/L程度に、セシウム137は6300Bq/L程度まで除去されるが、それでも告示濃度限度を上回っている。
今年の1月19日以降、キュリオンとサリーでもストロンチウムもある程度除去できるようになったが、もともと10の7乗ベクレル/Lだったものが10の5乗ベクレル/Lまで低下するだけで、告示濃度限度の30Bq/Lとは文字通りけた違いだ。
これをALPSを通すとセシウム134と137が0.3Bq/L未満に、ストロンチウムが0.12Bq/Lにまで下がってくる。ALPSを通らずにRO濃縮水処理設備とモバイル型ストロンチウム除去設備だけを通った汚染水はいわば「中ストロンチウム汚染水」とでも呼ぶような程度にしか汚染レベルは下がらない。
いずれにしろ汚染水はALPSを通さなければならない。
時間をかけてALPSで処理をするのであろうが、それでもトリチウムは除去できない。
ALPSでの処理後の水も約30万トンが溜まっているが、経産省告示でのトリチウムの排出規制値は6万ベクレル/リットルであるのに対し、当初は420万ベクレル、現状でも40万ベクレルもあるため、海洋放出はできない。
トリチウムの処理方法は今のところない。保管能力がなくなれば、どうするのだろうか。
これでは5月末になっても、「状況はコントロールされている」とは言えない。
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河野代議士はこう述べている。
内閣府・経産省に、当初の定義どおりの「汚染水処理」が終わるのはいつになるのか報告を求めた。
さらに、異なる定義で「汚染水処理」という言葉が使われるのは国民の間に混乱と誤解を生むので、「汚染水処理」とは当初の定義通りトリチウムのみの汚染水にすることに統一するように求めた。
政府は東京電力をきちんとアンダーコントロールの状況にしておかなければならない。
付記
経産省は2月24日、東京電力が汚染水処理の定義が変えて5月末と言ったこと、元の定義では来年度いっぱいかかる可能性があることを明言した。
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