Obama大統領は2月24日、米議会上下院が可決したKeystone XL Pipelineの建設推進法案に拒否権を発動した。
TransCanada 社が建設計画中のKeystone
XL Pipelineは、カナダのOil
sandを採掘・処理した合成原油の輸入拡大を目指す取組みで、既に操業中のKeystone
パイプライン(Phase
1-2)が、カナダ産合成原油を米国中西部製油所に輸送するのに対し、現在検討中のKeystone XL
パイプライン(Phase 3-4)はメキシコ湾岸製油所まで輸送する。
問題になっているのは、Phase 4
で、ネブラスカ州の1/4を占めるSand Hills 地域は湿原地帯で、Ogallala Aquifer
(帯水層)の上にある。
ネブラスカ州の責任者や住民はSand Hills 地域への懸念に加え、Great Plains
諸州の飲用水のソースであるOgallala 帯水層を横切ることに懸念を表していた。
米国務省は2011年11月、Keystone XL 計画を2012年の大統領選挙後まで凍結すると発表したが、オバマ大統領は2012年1月18日、安全性や環境保全などが完全には保証できないとの見解を示し、これを認可しないと発表した。
2011/11/19 オバマ政権、Keystone XL オイルパイプライン計画を凍結
2014年1月31日、国務省が
Keystone
XL 計画に関する
Final
Supplemental Environmental Impact Statement
を公表
、温室効果ガスへの重大は影響はないとした。
仮にKeystone XLが建設されなくとも、カナダのオイルサンドの石油は鉄道などにより輸送されることとなり、環境への影響は変わらないとしている。
2014年11月の中間選挙で野党共和党は上院と下院で多数を占めた。
2015年1月9日に下院が建設を推進する法案を可決し、上院は別の法案を1月29日に可決した。
共和党 民主党 合計 賛成 238 28 266 反対 0 153 153 棄権 4 6 10 欠席 5 1 6 合計 247 188 435
共和党 民主党 無所属 合計 賛成 53 9 0 62 反対 0 34 2 36 棄権 1 1 0 2 合計 54 44 2 100
これを受け、下院は2月11日に上院が通した法案を可決し、大統領に送った。
共和党 民主党 合計 賛成 241 29 270 反対 1 151 152 棄権 2 8 10 欠席 3 0 3 合計 247 188 435
大統領は拒否権発動に当たり、国境を越えるパイプラインの建設承認は国務省の権限であることを踏まえ、「法案は行政上の手続きに違反し、パイプラインが国益にかなうかどうか判断する手続きを回避しようとしている」と米議会を批判し、地球温暖化や安全保障など国益への影響を考慮すべきだとの意向を改めて訴えた。
パイプライン建設は雇用創出につながるとして法案可決を主導してきた共和党は再度採決する意向を明らかにし ているが、大統領が拒否権を発動した法案の成立には、両院が3分の2以上の多数で再可決する必要があ り、難しいと見られている。
建設を申請したカナダのTrans Canadaは2月24日の声明で「パイプラインよりも安全でなく非効率な方法で原油を運ぶことになる」と反論した。
ーーー
米国は石油と天然ガスに石炭を加えると、世界最大の埋蔵量を誇るが、石油の埋蔵量は少ない。
化石燃料エネルギーの埋蔵量(単位: 石油換算 10億バレル) |
Richard Muller "Energy for future presidents" |
米国ではエネルギー不足が問題ではなく、自動車の燃料用等の石油不足が問題である。
CTL (Coal to Liquid)やGTL (Gas to Liquid)で豊富な石炭・天然ガスから Synfuel をつくるのがベストだが、建設費が高く、石油価格が下落すれば採算が取れないため、そのリスクの懸念から進んでいない。
一時はモノの貿易収支の赤字の半分を原油が占めた。2014年でも赤字は2000億ドル近くとなっている。
米国は中東の原油に依存することに非常に神経質になっている。石油ショック時のような禁輸が行われれば、安全保障上、大変なこととなるとの懸念である。
このため、カナダからのパイプライン輸送は米国にとってベストな選択である。
オイルサンドの環境汚染、先住民族の健康被害が大きな問題となったときに、当時のクリントン国務長官は、「中東の汚い石油か、カナダの汚い石油か、アメリカの選択肢は2つです」と述べている。
2011/4/14 「岐路に立つタールサンド開発」
ーーー
オバマ大統領と野党共和党は、金持ち増税や「医療保険改革法」(オバマケア)など、色々な点で争っているが、最近では移民制度改革(不法移民の大量受け入れ)が争点になっている。
米上院本会議は2014年12月13日深夜、2015年9月までの大半の政府支出を賄う内容の総額1兆1000億ドルの包括的歳出法案を賛成56、反対40で可決したが、移民制度改革(不法移民の大量受け入れ)の所管事項が多い国土安全保障省の予算については、2015年2月までとされた。
2014/12/18 米国、包括的歳出法案が可決するも、問題を残す
米議会の上下両院は2月27日夜、同日深夜に期限が切れる米国土安全保障省の暫定予算について、期間を1週間延長する法案を賛成多数で可決した。
共和党上院トップのマコネル院内総務は、国土安保省の一部閉鎖に至った場合、同党への批判が高まる事態を懸念し、移民制度改革を阻止する条項を切り離し、15会計年度の予算を認める案を提案、27日午前の本会議で可決した。
しかし、下院では移民制度改革に対する保守派の抵抗が強く、1週間延長とし、移民制度改革の阻止に向けて引き続き圧力を強める。
大統領と共和党の対立は続く。
コメントする