武田薬品は4月29日、米国における2型糖尿病治療剤「アクトス®」に起因する膀胱癌を主張する製造物責任訴訟で、大多数を解決する和解に向けた合意に至ったと発表した。
同社は、本訴訟における原告側の主張には根拠がないものと考えており、同社の法的責任を認めるものではないとしている。
和解は原告の95%が受け入れた場合に有効となる。
和解金は原告の95%が受け入れた場合は23.7億ドル、97%以上が受け入れた場合は24億ドルとなる。
同社は和解に参加しない訴訟の費用等を含め、2015年3月期に27億ドル(3,241億円)を引当計上する。
同社は同日、2015年3月期の損益見直し(億円)を発表した。他の修正も含む。
営業利益 税引前利益 当期利益 前回公表 1,700 1,600 650 今回予想 -1,300 -1,450 -1,450 増減 -3,000 -3,050 -2,100
同社が最終赤字になるのは1949年の上場以来、初めて。
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2014年4月、原告Terrence Allen が 2型糖尿病治療剤「アクトス®」に起因する膀胱癌を主張する製造物責任訴訟において、米ルイジアナ州の連邦地裁の陪審が、原告の主張を認め、武田に60億ドル、米国でアクトスを共同で販売しているEli Lilly に30億ドルの懲罰的損害賠償の支払いを命じる評決を出した。
損害賠償としては、147.5万米ドル(武田 75%、Eli 25%)が命じられている。
武田薬品は、原告の膀胱癌はアクトスによるものではなく、また、この医薬品のリスクについては適切に注意書きをしているとし、「このたびの評決は大変遺憾であり、到底承服できない」としている。Eli Lilly も、アクトスは2型糖尿病には重要な治療薬であり、アクトスが原告の膀胱癌を起こしたとの証拠は無く、徹底的に争うとした。
2014/4/11 米連邦地裁の陪審、武田薬品に60億ドルの懲罰的賠償支払の評決
武田薬品はこの評決を不服とし、可能なあらゆる法的手段で対抗する方針を表明、ルイジアナ州連邦地方裁判所に対しては、陪審認定を無効とする請求と、再審の請求を別々に行った。
懲罰的損害賠償金の陪審認定を無効とするよう求めた請求に対しは、判事は2014年8月、これを退ける決定を行った。
武田は再審理か大幅な減額を求めたが、ルイジアナ州西部連邦裁判所は10月27日、懲罰的損害賠償金額の減額を認める決定およびかかる減額を反映する判決を下した。
武田の懲罰的賠償金額 60億ドル→2,765万ドル
Eli Lilly 30億ドル→ 922万ドルなお、補償的損害賠償金額については、先に147.5万ドルから127万ドルへの減額が決定されている。
これまでの高額懲罰的賠償の10例では全てが破棄または大幅減額となっており、陪審の決定どうりのものはない。
米国の最高裁は、懲罰的賠償は補償的損害賠償や実際の被害額に見合ったものでないといけないとしており、いくつかのケースでは補償的損害賠償額の10倍なら認められるとした。
しかし武田は、損害賠償金額の大小を問わず、この事件で取り扱われた証拠によって、同社の責任は認定されるものではないとし、上訴することとした。
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上記は原告Terrence Allen に係わる裁判だが、米国では、アクトスの長期服用が原因で膀胱癌が発症したり、悪化したとの訴訟が約6000件起きている。
アクトスに関しては、これまでこれまで本件を含め、7件の陪審員評決や判決が出ている。うち、5件は却下されている。
カリフォルニア州とメリーランド州の州裁判所では陪審員が合計820万ドルの支払いを命じたが、裁判長がこれを却下 した。
ラスベガスの州裁では2014年、陪審員が原告の訴えを却下した。
2014年5月に80歳と81歳の女性が10億ドルの損害賠償を求めた裁判では、発ガン時にはアクトスを飲んでいなかったとされており、陪審員が訴えを却下した。
その前週に行われたシカゴの男性(既に死亡)のケースでも、陪審員は2時間以内の審議で却下した。
2014年10月3日、ペンシルベニア州フィラデルフィア郡一般訴訟裁判所で Frances Wisniewski氏を原告とした「アクトス®」に起因する膀胱がんを主張する製造物責任訴訟において、武田薬品等が205万米ドルの補償的損害につき責任があるとの陪審評決が下された。
今回の和解は米国で提起されている製造物責任訴訟に関し、その大多数を解決する和解に向けた合意に至ったもの。
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