京都大学iPS 細胞研究所、Cellular Dynamics Internationalと提携へ

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日本経済新聞によると、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授は4月8日、富士フイルムホールディングスが買収する米ベンチャーCellular Dynamics International, Inc.と iPS細胞関連の有力特許の相互利用などを推進する考えを明らかにした。

Cellular Dynamicsは山中教授の特許の実施権をすでに得ているが、癌になりにくい安全なiPS細胞を作ったり、iPS細胞から心臓の細胞を育てたりするための特許を幅広く保有し、高品質なiPS細胞製品を世界中の研究機関に供給している。

山中教授は、それぞれの特許を相互に利用できるようにするクロスライセンス契約の締結など「これまで以上に深い協力ができると期待している」と話した。

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山中教授と、オタマジャクシを使って最初のクローンを作りだした Sir John Bertrand Gurdon がノーベル医学生理学賞を受けたが、ウィスコンシン大学のJames  Thomson 教授も山中教授と同じ2007年11月に人間の受精卵を使わずに皮膚細胞からiPS細胞ができると発表している。

Cellular Dynamicsは、そのJames Thomson 教授が創始者の一人である。

Cellular Dynamicsが持つ特許の範囲は、体の様々な細胞からiPS細胞を作製する技術、iPS細胞から心筋や糖尿病治療への応用が期待される膵臓のベータ細胞を作る技術など幅広い。中でも2013年に成立した、プラスミドと呼ばれる環状DNAを使ってiPS細胞を作る技術は、がんになりにくい安全なiPS細胞を得るのに不可欠とされる。

Cellular Dynamicsが米国で取得している特許

 ・多能性幹細胞からの膵臓のベータ細胞などへの分化誘導

 ・ヒトES細胞などを自動培養する方法と機器

 ・血液の細胞の初期化によるiPS細胞の作製

 ・少量の末梢血からのiPS細胞の高効率作製

 ・ウイルスを使わないiPS細胞の作製法

 ・多能性幹細胞からの心筋細胞の作製

 ・ヒトES細胞やiPS細胞の血液の前駆細胞への分化誘導

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参考

iPS細胞での癌の発生の一つの理由は、レトロウイルスベクターと呼ばれるウイルスを通じて導入される4つの遺伝子のうちに、がん化のおそれのあるc-Myc があることだが、これを除いた3つの遺伝子のみの導入での iPS細胞の作成に成功している。
他方、プラスミドの細胞内への導入では、細胞のゲノムの改変を起こしにくく、がん化などの異常を起こす心配がないとされる。
 

もう一つは、目的の細胞に育たずiPS細胞のまま残ったものが無秩序に増殖し、癌化するもの。

産業技術総合研究所と和光純薬はこのたび、残った未分化の iPS細胞を取り除く試薬を開発した。

レクチン(糖結合タンパク質)の一種がヒトiPS/ES細胞に特異的に結合することが分かったため、細胞内に取り込まれるとタンパク質合成を阻害し細胞死を引き起こす緑膿菌由来外毒素を末端部分に融合させた組換えタンパク質(薬剤融合型レクチン)を考案した。

薬剤融合型レクチンを培養液に添加すると、未分化のiPS細胞のみがほぼ死滅するが、分化した細胞には影響を与えない。

    https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2015/pr20150410/pr20150410.html
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Cellular Dynamicsは、良質なiPS 細胞を大量に安定生産する技術に強みを持っており、大手製薬企業や先端研究機関など多くのユーザーとの供給契約、開発受託契約を締結している。
現在、創薬支援や細胞治療、幹細胞バンク向けのiPS 細胞の開発・製造を行っており、既に創薬支援向けでは、心筋や神経、肝臓など12 種類の高品質なiPS 細胞を安定的に提供している。

また同社は、
California Institute for Regenerative Medicine とのiPS 疾患細胞バンクの樹立、
National Eye Institute へのドライ型加齢黄斑変性症の臨床試験開始届を行うための前臨床試験用 iPS 細胞受託を進めるなど、
米国でのiPS 細胞供給ビジネスを積極的に展開している。

Cellular Dynamicsは本年2月、2人のHLA "Super-donor" からGMP基準のiPS細胞を樹立したと発表した。
HLA "Super-donor"
は父母から引き継いだHLA(白血球抗原) の型が同じ人(例 A-B-C / A-B-C)で、HLA型のどちらかが同じ人(A-B-C / X-Y-Z)になら免疫拒絶なしに移植できる。
この2つのiPS細胞で、米国人の計19%がカバーできる。

これは山中教授が進めているiPS細胞バンクと同じ構想である。

日本人の場合、75名の"Super-donor"(ホモドナー)で80%をカバーできる。

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富士フイルムHDは、3月30日、株式公開買付けによりCellular Dynamics を買収することで同社と合意した。
発行済普通株式の総数を約307 百万米ドルで取得する。


富士フイルムは、写真フィルムの研究開発・製造などで培ってきた技術やノウハウを活用して、再生医療に必要なリコンビナントペプチド(RCP)を開発している。

2010年には国内で再生医療製品事業を展開するジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)と資本提携を行い、41.29%の株式を取得したが、2014年12 月には持株比率を50.33%とし、連結子会社とした。J-TECは再生医療で皮膚や軟骨を手がけている。

2010/9/3  富士フイルム、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングと資本提携

今回、Cellular Dynamics 買収を通じ、iPS 細胞を使った創薬支援分野に参入する。

さらに、Cellular Dynamics のiPS 細胞関連技術・ノウハウと富士フイルムの高機能素材技術・エンジニアリング技術やJ-TEC の品質マネージメントシステムとのシナジーを発揮させ、再生医療製品の開発加速、再生医療の事業領域の拡大を図るとともに、再生医療の産業化に貢献していくことを目指す。

富士フィルム会長は、「iPS細胞を使った治療はこれからだが、細胞治療にも取り組みたい。例えばパーキンソン病や加齢黄斑変性の分野では臨床研究への応用も十分ありえるだろう」と述べた。

 

 

 

 

 

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