国際がん研究機関、 米モンサントの除草剤に発癌性の恐れを発表

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世界保健機関(WHO)の専門組織、国際がん研究機関(International Agency for Research on Cancer :IARC)は3月20日、米モンサントが開発した除草剤 Glyphosate に発がん性の恐れがあるとする報告書を公表した。

人での発がん性を示す証拠は限られているものの、動物実験や薬理作用などの研究結果に基づいて判断したとし、5段階分類で上から2番目にリスクが高く 「人に対する発がん性が恐らくある」ことを示す「2A」に位置付けた。
   http://www.iarc.fr/en/media-centre/iarcnews/pdf/MonographVolume112.pdf

IARCは5つの有機リン農薬の発がん性を評価してきたが、評価の概要をLancet Oncologyに発表した。
   http://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanonc/PIIS1470-2045%2815%2970134-8.pdf


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付記

「科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体」Foodcom.net の「編集長の視点」で松永和紀さんがこれについて詳しく説明している。
   http://www.foocom.net/column/editor/12412/

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Glyphosateは「Roundup」の商品名で知られる除草剤の主成分で、日本を含む多くの国で使われている。

日本ではラウンドアップの商標権、生産・販売権は2002年に日本モンサントから日産化学に譲渡されている。(現在、輸入販売)


各製品の評価は以下の通り。

    人体での証拠 動物での証拠 発ガンメカニズム 分類
テトラクロルビンホス 殺虫剤 不十分 十分 2B possibly carcinogenic
to humans
パラチオン 殺虫剤
マラソン 殺虫剤 限定的:
非ホジキンリンパ腫
前立腺
同上 遺伝毒性、酸化ストレス、炎症、受容体媒介効果、細胞増殖orアポトーシス 2A probably carcinogenic
to humans
ダイアジノン 殺虫剤 限定的:
非ホジキンリンパ腫、
白血病、肺がん
限定 遺伝毒性、酸化ストレス
グリホサート 除草剤 限定的:
非ホジキンリンパ腫
十分 遺伝毒性、酸化ストレス


日本モンサントは同日、下記の発表を行った。

私たちはEUおよび米国のグリホサートタスクフォースのメンバーとともに、下記の理由から今回のIARCの分類には同意できません。

新たな試験研究やデータが用いられていないこと:IARCで検討された研究結果は、そのいずれもが過去に規制当局機関によって評価検討済みのもので、直近では欧州連合(EU)を代表してドイツ政府が実施しています。

  • 評価にとって重要な科学的データが評価から除外されていること
    IARCはグリホサートが人の健康にリスクを与えないという結論を支持する多くの科学的研究、特に遺伝毒性研究を受け取りながらも、これを意図的に無視しました。
     
  • 結論が科学的データに裏付けられたものでないこと
    IARCの分類は、世界中の国々で公衆の安全性に責任を持つ何百人もの科学者が加わって実施した、数多くの、複数年にわたる、包括的な評価と整合性がありません。
     
  • IARCによる分類が、グリホサートとがんの発症の増加との間の関連を確立するものではないこと
    IARCの分類については、広い視野で考えることが重要です。IARCは、コーヒー、携帯電話、アロエべラ抽出物、野菜のピクルスといった多くの日常的な製品や、理容師/美容師、揚げ物料理のコックなどの専門の職業についても、カテゴリー2に分類しています。

日産化学は3月24日、下記発表を行った。

グリホサートは、米国環境保護庁(U.S. EPA)では最もリスクの低いE に分類され、欧州連合およびFAO/WHO 合同残留農薬専門家会議(JMPR : Joint Meeting on Pesticide Residues)においては、がんとの因果関係はないとされています。

また、2015 年1 月、ドイツ政府はEU を代表した4 年間にわたるグリホサートの評価を完了しました。
ドイツ規制当局では、IARC が考慮したデータに加え、さらに多くの研究を精査したうえで、ヒトに対して発がんリスクを有するとは考えにくいと結論づけています。

以上のことから、弊社はグリホサートに発がん性は無いと判断しております。

IARC は、世界保健機構(WHO)の下部組織であり、公表されている限られた文献情報に基づき、物質や環境等の因子に発がん性があるかどうかという可能性を評価し、5つのグループに分類しています。

今回グリホサートを2A としましたが、WHO の他のプログラムによる「グリホサートに発がん性がない」という評価と矛盾しています。加えて、WHO 飲料水水質ガイドラインは、グリホサートが人の健康に害を示さないと結論付けています。

農薬に関しては、日本を含む各国の規制当局が、発がん性を含む様々な項目についての適正なガイドラインに沿った多数の試験成績を基に、継続的かつ厳正に審査したうえで使用を認可しています。


現在までのところ、農林水産省はなにも発表していない。

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Monsantoは除草剤 Roundup を販売する一方、特定の除草剤に耐性を持つ遺伝子を組み込むことにより、除草剤をまいても枯れないようにした除草剤耐性作物を販売している。

普通、除草剤は選択性(効果を発揮する雑草が決まっている)であるため、農作物を栽培する際には、数種類の除草剤を数回にわたり散布しなければならない。

しかし Roundup のような非選択性の除草剤を使い、その除草剤に耐性を持った作物を栽培すれば、農作物以外の雑草だけを効率的に枯らすことができるため、わずか1~2回の散布で済み、コストや労力が削減される。

同社はRoundup Ready のブランドで、大豆、トウモロコシ、ワタ(綿)、ナタネなどのグリホサート(Roundup)耐性作物を商品化している。

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フランスのジャーナリスト Marie-Monique Robin は、Monsanto社と除草剤耐性作物についてのドキュメンタリー(The World According to Monsanto)を作成、それを元にした本を出した。

NHKは2008年6月14日にBS世界のドキュメンタリーで「アグリビジネスの巨人 "モンサント"の世界戦略」を放映した。

本は2008年にフランスで出版され、2010年に英訳が出版された。  右枠上段の本紹介 参照
 
  タイトル    The World According to Monsanto
  サブタイトル   Pollution, Corruption, and the Control of the World's Food Supply


本年に出た邦訳 「モンサント――世界の農業を支配する遺伝子組み換え企業」の内容紹介は以下の通り。

世界43か国で、遺伝子組み換え種子の90%のシェアを誇るモンサント社――。この世界最大級のバイオ化学企業は、これまで、PCB、枯葉剤...と、史上最悪の公害をくり返し、多くの悲劇を生み出してきた。そして現在、遺伝子組み換え作物によって、世界の農業を支配しようとしている。

いかに同社が、政治家と癒着し、政府機関を工作し、科学者に圧力をかけ、農民たちを訴訟で恫喝することによって、健康や環境への悪影響を隠蔽し、世界の農業を支配下に収めてきたか。本書は、3年にわたる調査によって、未公開資料、科学者・政治家・農民たちの証言をもとに、その驚くべき実態を明らかにした、世界が瞠目した話題騒然の書である。

同書はまず、Monsantoの「体質」を批判している。

PCBや枯葉剤Agent Orange(ダイオキシンを含む)の毒性を当初から知りながら、それを隠し、学者に安全だとの報告書を作成させて利用し、当時のEPAなどを篭絡して販売を続け、それを追求する人間を迫害してきた。PCBを河川に流出させて多くの人に危害を与えた。

乳牛に投与される遺伝子組み換え成長ホルモン Bovineの場合はFDAも篭絡され、問題ありと知りながら承認を与えた。

Monsantoの人間が監督官庁に、監督官庁の人間がMonsantoにという人事が頻繁に行われている。
まさに「回転ドア」である。

Roundupについては、多くの研究者がRoundupの発がん性を問題にしてきたとしている。

一つの研究は、通常はDNAの損傷があれば修復したり、アポトーシスにより異常DNAの拡大を防ぐが、Roundupがこの機能を阻害するため、癌が発生するとする。

但し、Roundupの原体(active ingredient )のglyphosateだけではこれは起こらない。glyphosateには細胞に入り込む能力を持たないからという。
Roundupに含まれるpolyethoxylated tallowamine (POEA)が問題ではないかとする。

農薬登録は glyphosateの安全性評価だけで行われており、POEAなどを含む Roundup のデータはチェックしていない。

また、ウニの細胞分裂に影響を与えるという研究もある。
遺伝子組み換え作物の普及を妨げないよう、発表を禁止された。

FDAは遺伝子組み換え植物が除草剤に対して耐性をもつという特異な性質を持つのに特別な扱いはせず、従来の植物と同等であるという「実質的同等性の原則」を採用した。
反対派は、少量の食品添加物でもチェックするのに、野放しはおかしいと批判する。


本書によると、PCBやAgent Orange の場合は、Monsantoも専門家(ほとんどがMonsantoの息がかかっている)も監督官庁のEPAも問題なしとしてきたのが、実際はそうではなかった。

今回のケースがどうであるかは知らないが、報告を機に、公正を期すため、いくつかの研究機関で原体 glyphosate 及び 製品 Roundup の再調査をしてはどうか。

Monsantoにとっては、仮にRoundupが禁止されると、Roundup耐性作物(Roundup Ready) は意味を持たなくなるため、徹底的に争うとみられる。

 

 

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