カルテル事件などを捜査する米司法省反トラスト局が昨年、捜査対象になった従業員を継続雇用しないことを企業に求める新たな方針を示し、米独禁法の専門家から疑問の声が上がっている。
カルテルの捜査対象になった企業が司法取引をして有罪を認める場合、企業による司法取引とは切り離されて別途捜査を受ける従業員について、その従業員を雇い続けると他の従業員の捜査協力に悪影響があるか、その従業員が価格決定などに影響を与えられる場合は雇用を続けるべきではないとの内容。
これに対し弁護土は、「まだ起訴もされていない段階の従業員には『推定無罪』の原則が働く。その段階で雇用を打ち切るのは有罪を前提とした措置になる」と憲法上の問題があると指摘する。
これは、2014年9月10日にGeorgetown University Law Center
で行われたGlobal Antitrust Enforcement Symposiumで司法省反トラスト局長のBill
Baer 司法次官補が行ったスピーチである。
問題となる箇所の概要は下記の通り。
日本でのカルテル事件では極めて悪質な場合のみ個人が起訴されるが、米国では殆どの場合、企業と同時に個人も起訴される。問題となるのは、企業が罪を認めて司法取引を行う場合で、追求された個人が罪を認めない場合である。
その場合、司法省はその個人を企業の司法取引の対象外(
"carved out")として指名し、追って起訴する。
司法省は2013年に"carved out"対象を犯罪行為に関与したと信じる理由のある人間、及び捜査の対象となる可能性がある人間に限るとの決定を行った。
Principles of Federal Prosecution
に基づき、その人間のカルテルでの役割、会社での地位、その人間が他の共犯者摘発に役立つかどうかなどを考慮し、個々に決定する。
起訴以前にこのことが公開されることを避けるため、司法取引書の秘密添付書類に名前を記載し、裁判所に公開しないことを要請する。
企業が司法取引を行った後、司法取引の条件のコンプライアンスプログラムを作成し、きちんと改善しましたとしながら、有罪の可能性のある役員で、責任を認めず、司法取引からcarved out されている役員を雇用し続けている企業がある。
会社としてはその人間が有罪であると知っているが、本人はカルテルでの責任を認めず、上位の地位にあり、価格決定責任を有する人間を雇い続けるなら、その企業がコンプライアンスの文化を持っているとは考え難い。
企業がその人間を、重要な権限を持つポジション、直接・間接に共謀行為を続けられるポジション、企業のコンプライアンス計画を監督するポジション、その人間の犯罪行為について証言する人間を監督するポジションで雇い続ける場合、その会社が新しいコンプライアンスプログラムを本気で実行することに強い疑問を持つ。
そのような場合、反トラスト局としては、企業が有効なコンプライアンスプログラムを実行するかどうかを確認する手段として、裁判所による保護観察を求めることを検討する。
有効なコンプライアンスプログラムを確保し、再犯を防ぐために必要な場合、監視担当者設置を含めた保護観察を求める権利を保持する。
台湾の液晶パネルメーカーAU Optronics(友達光電)の例がある。
カルテルの裁判で、陪審は同社を有罪とし、共謀企業も罪を認めたが、同社は違法だとは認めず、コンプライアンスのコミットもせず、責任者(起訴されたが米国から逃亡)の雇用を続けている。地裁は反トラスト局の主張通り、3年間の保護観察期間の命令を下した。有効なコンプライアンスプログラムを作成、実行すること、それを監視し、裁判所と反トラスト局に報告する監視担当者を置くことが求められた。
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「推定無罪」との関係は難しいところである。
司法省自身、おそらく「推定無罪」の原則に立ち、起訴以前にこのことが公開されることを避けるため、司法取引書の秘密添付書類に名前を記載し、裁判所に公開しないことを要請する。しかし、起訴もされていないのに解雇せよということは、「公開」よりはるかにひどい。
裁判になった場合、裁判所はどう判断するであろうか。
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スピーチでは有効なコンプライアンスプログラムの重要性を強調している。
有効なコンプライアンスプログラムとは、再び問題を起こさないということである。("should
not need to see us again.")
再度問題をおこせば、大きなペナルティを覚悟すべきであるとする。
ブリヂストンの例を挙げている。
ブリヂストンは数年前にマリーンホース事件で有罪となった。しかし同社はそのとき、自動車の防振ゴム部品の価格カルテルに参加していることを明らかにしなかった。
この結果、同社は保護観察下におかれ、425百万ドルの罰金を課せられた。これは過去4番目に高額な罰金で、うち100百万ドル以上が初めの段階でこれを報告しなかったために増額された。 (同社が保護観察下の置かれていたことは、これまでは明らかになっていない。)
同社は2014年2月の発表で、下記の通り述べている。ガバナンス・コンプライアンス体制の更なる徹底
当社グループでは、マリンホースに関する2007 年5 月のカルテル捜査及び2008 年2 月の外国公務員に対する不適切な支払の可能性についての自主公表を受けて、2008 年よりコンプライアンス教育の強化、ガバナンス体制の改革、不正行為防止の為の規程新設などの種々の施策により再発防止策を実行してまいりました。今回のカルテル行為は、これらのガバナンス・コンプライアンス体制の強化・改革をきっかけに2008 年に終了したものです。しかしながら、結果として2008 年時点で本件を見つけ出すことができなかったことについては、会社として真摯に反省をしており、今後信頼回復に向けて、国内外の全てのグループ会社において、「更に上」のガバナンス・コンプライアンス体制の徹底を図ってまいります。
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