仮処分は正式裁判の判決が確定するまでの間に差し迫った危険や損害が起き、申し立て側の損害が回復不能となることを避けるため「仮の状態」を定める手続き。
仮処分で原発の運転を禁止する決定は初めてで、決定はすぐに効力を持つ。
原子力規制委員会委員長の「基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない。」という川内原発に関しての発言は------ 文字どおり基準に適合しても安全性が確保されているわけではないことを認めたにほかならないと解される。新規制基準は合理性を欠くものである。
関電は高浜3、4号機の再稼働を今年11月と見込んでいるが、今後の司法手続きで仮処分の取り消しや執行停止がない限り、再稼働はできない。
関電は決定を不服として福井地裁に異議申し立てと執行停止の申し立てをするとみられる。
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原子力規制委員会は2月12日、高浜3、4号機について「新規制基準に適合する」と結論付け、再稼働に向けた合格証にあたる「審査書」を正式に決定した。
関電は津波の想定を最大6.2メートルまで高めて防潮堤を設置。地震による揺れで最大級の想定も約2割引き上げて設備の耐震性を高めた。
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樋口裁判長は2014年5月、関電大飯原発3、4号機の運転差し止めを住民らが求めた訴訟で、地震対策の不備などを指摘し、「地震で原子炉の冷却機能が失われたりする具体的な危険がある」として再稼働を認めない判決を出した。
2014/5/30 大飯原発差し止め訴訟判決
この訴訟は控訴審で係争中のため判決が確定しておらず、差し止めの効力は発生していない。
滋賀県の住民らが関西電力大飯原発3、4号機と高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを求めた仮処分申請で、大津地裁は2014年11月、住民側の申請を却下する決定をした。
この決定に失望した9人の住民が2014年12月5日、関西電力を相手取り、福井地方裁判所に大飯原発3、4号機と高浜原発3、4号機の運転差し止めを求める仮処分を申し立てた。
住民側は保全すべき権利として「人格権の妨害予防請求権」を主張、大飯原発3、4号機の運転差し止めを認めた2014年5月の福井地裁判決を引用し「250キロ圏内の住民の人格権が侵害される具体的な危険がある」としている。
「再稼働は時間の問題であり、原発が運転すれば福島原発事故のような具体的な危険が顕在化する」として保全の必要性を訴えている。
一方、関電側は原発で事故が起これば危険があるのは当然の前提とした上で、「適切に管理できるかが判断されるべき」と主張。
地震や津波などの安全対策を十分に行っているとし「放射性物質が異常に放出するような事故が起きることは考えられない」と反論している。
本年3月11日の第2回審尋期日に裁判所は、申立てのうち原子力規制委の安全審査に合格した高浜3、4号機については緊急性を認めて審理を分離し、差止請求についての決定を出す方針を明らかにした。
大飯3、4号機の差し止め審理は、審尋の次回期日を5月に指定した。
慎重な検討を求める主張を退けられた関西電力は樋口裁判長ら3人の裁判官の忌避を申し立てたが、福井地裁は「裁判の公正を妨げる事情があるとは認められない」として却下する決定をした。
関電側は「議論が尽くされず、審理が終結したことは不当」とし、名古屋高裁金沢支部に即時抗告したが、高裁は4月9日付けで関電側の忌避の抗告を棄却した。
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菅義偉官房長官は記者会見で、「国は当事者ではない。あくまでも仮処分であり、事業者の対応を注視したい」と述べた。同時に「粛々と再稼働を進めていきたい」と強調し、原発再稼働方針に変更はないとの考えを示した。
付記
原子力規制委員会の田中委員長は4月15日、「十分に私どもの取り組みが理解されていない点がある」とし、事実関係に誤認があると下記の通り反論した。
福井地裁 | 委員長 |
原発では過去に想定を上回る。 | 過去の教訓を反映したうえで想定を見直している。 |
想定未満の地震でも炉心損傷の危険がある。 | 仮に想定を超えても炉心損傷につながらない対策を求めている。 |
使用済み核燃料を保管するプールが堅固でない。 使用済み燃料プールに水を送る設備の耐震性が「Bクラス」 |
きちんとプールの水位を管理すればリスクは大きくない。 最も高い「Sクラス」 |
原発の新規制基準は緩やかに過ぎ、合理性に欠く。 | 世界的に最も厳しいレベルにあると国際的に認知されている。 基準や審査内容を直ちに見直す考えはない。 |
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