法案名は、Bipartisan Congressional Trade Priorities and Accountability Act of 2015 (TPA-2015 ) となっている。
民主、共和両党の議員が法案の最終的な細部をめぐって半年間議論を進めてきた。
しかし、与党・民主党内での反対論が根強く、審議が順調に進むかは見通せない。
付記 4月22日に上院財政委員会で可決(多くの修正案が出されたが原案で可決)
4月23日、下院歳入委員会で可決(為替操作への報復措置を盛り込む修正案は否決)
但し、両院本会議は簡単ではない。
TPPの合意には、この法案が成立することが前提となる。
以前のTrade Promotion Authority法では、議会は、大統領と外国政府との通商合意の個別内容の修正を求めずに、一括承認するか不承認とかのどちらかであった。
アメリカ合衆国憲法第2章第2条第2項では、大統領は上院の助言と承認を得て条約を締結する権限を有するとされるが、同憲法第1章第8条第3項では、連邦議会の立法権限として諸外国との通商を規制する権限も認めている。
George W. Bush政権は、2002年8月に成立したTrade Promotion Authority法(2002年超党派貿易促進権限法)によって貿易促進権限を得た。これによって、議会への事前通告や交渉内容の限定などの条件を満たす限り、議会側は行政府の結んだ外国政府との通商合意について、個々の内容の修正を求めず迅速な審議により一括して諾否のみ決することとされた。
TPAは2005年6月に延長されたが、その後は再延長が認められず、2007年7月1日に失効したまま現在に至っている。
このままでは、TPP交渉国は、仮に米政府と合意しても、議会が認めず、更なる妥協を強いられる可能性があるため、最終決定ができない。
通常の法案と異なり、本法案は全体としては 野党の共和党議員が賛成であり、与党の民主党議員が反対している。
TPA成立でメリットを受けるのは、共和党の支持者が多い農業をはじめとし、ITなど技術関連業界、医薬業界、保険業界、その他大企業である。
逆に、労働組合、環境保護者、メキシコ系労働者など民主党支持者は、これまでのNAFTA(米・加・メキシコの北米自由貿易協定)やその他の貿易協定で約束が守られず、結局は米国の労働者が傷つくだけであるとして猛反対している。
A.F.L.-C.I.O. や殆ど全ての労働組合は、TPAによりTPPが通ると失業と賃下げになるとし、彼らが支持する議員に対し、TPAに反対するよう猛アタックをかけるとしている。
このため、今回のTPA法案では、反対派をなだめ、賛成に向かわせるため、これまでにない多くの対策を折り込んでいる。
TPA-2015の概要は下記の通り。
概要:http://www.finance.senate.gov/download/?id=070F3045-8E10-4284-896C-95344D75ECDE
法案概要:http://www.finance.senate.gov/download/?id=0009D10C-38FD-4D67-AC17-C9F29ABEAF05
1)従来のTPAの改善
・議会主導
・議会との協議、情報公開 (TPPルールでは情報公開は認めていない)
・要件を満たさない場合は、貿易促進権限を取り消し、議会が最終決定
2)TPPを含めた今後の通商交渉の目的の見直し
デジタル時代に合った新しい財・サービス貿易
農業のルールの強化
バランスの取れた投資
知的財産保護
労働と環境
Human Rights対策
通貨操作対策
国有企業(State-owned Enterprises) の扱い
強力な紛争解決手続き
手続き改善
現地生産強制への対策
Global Value Chain の推進
米国の通商法の尊重
3)議会、国民との協議
全ての議員とスタッフに交渉案テキストの開示
調印60日前の発表、米国提案の詳細サマリーの公開
USTRに議会担当を置く
USTRはいつでも議員に会い、説明すること
議員に交渉参加権
チェックのため両院にAdvisory Groupを設置
4)議会によるコントロール
TPAは3年+3年(オプション)とし、次期政権にも貿易促進権限を認める。
通商協定の効果についての報告・公開義務
米国主権の保護(議会承認なしに通商協定で米国の法律を変えることを認めない)
議会の拒否権限
要件を満たさない場合は上院の60%の賛成で貿易促進権限を取り消す。
これに加え、賛成票を増すため、輸入が急増した場合にそれによる失業者に(製造労働者だけでなくサービス労働者にも)補助金を出すなどで影響を緩和する貿易調整援助法案も併せて提出する方針だが、補助金を増やしすぎれば、歳出拡大を嫌う共和党の反対者が増えるジレンマも抱える。
また、失業者の健康保険加入支援のため、tax credit の4年延長も検討している。
しかしそれでも、多くの民主党議員が反対に回るのではと見られており、最終的にどうなるか、見通せない。
また、この法案どおりであれば、仮に日本が農業分野で大きな妥協をして米国との間で合意したとしても、大統領がサインする前に議会がクレームをつける可能性(最悪時には要件に合わないとして貿易促進権限を取り消す可能性)もある。
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