アジア開発銀行(ADB)の関連会合が5月2日、年次総会が5月4日、アゼルバイジャンの首都バクーで開幕した。
中尾武彦総裁は記者会見で、ADBの融資能力を2017年に、現在の年間約130億ドルから最大で200億ドルに拡大すると発表した。
中所得国に市場の水準に応じた金利で貸し出す「通常資本財源」と低所得国に低金利で融資する「アジア開発基金」とを一本化する。
ADBの借入限度枠は、払込資本+準備金と、非借入加盟国からの請求払資本の合計額を超えることはできないこととなっている が、別途ドナー供与国が資金を拠出するアジア開発基金をADBの自己資本に統合することで信用の裏付けとなる資本力を高め、拡大した融資枠の8割をインフラ向けにあてる。
2013年末で171億ドル、現在約180億ドルの自己資本(調整後払込資本+準備金)を2017年1月に530億ドルに拡大する。
協調融資と合わせ、年間融資額は2014年の230億ドルから400億ドル近くまで増える。
現在ADFローンを受けている貧しい開発途上国は拡大したOCRから現在のADFローンと同じ条件で融資を受けられる。ADFローンはグラント用のみが残ることとなる。
中尾総裁は「アジアインフラ投資銀行(AIIB) とは関係ない」としたが、中国主導でAIIBの設立準備が進む中、日米が主導するADBは機能を強化する。
計画には「融資契約までにかかる期間を半年短縮」、「調達手続きの迅速化」などが盛り込まれた。加盟国からは、手続きが煩雑で時間がかかるとの不満が上がっていた。
融資対象事業の調査から実際の契約までにかかる期間は平均21カ月かかっているが、これを15カ月まで短縮する。
加えて、現地駐在員事務所に決裁権限の一部を委ねる、事務所職員を増員などの改革を行い、業務を迅速化する。
また、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)と、協調融資を行う考えも示した。
ADBは5月4日、アジアでのインフラ整備に民間企業が資金を投じやすくするための信託基金を設立したと発表した。
日本が4千万ドルを拠出し、カナダ、オーストラリアの各政府とADBからの拠出分を足して計7400万ドルを集めた。欧州も関心を示しており、規模は将来的に最大1億5千万ドルまで拡大する見通し。
ADBは、三菱東京UFJ、みずほ、三井住友銀行を含む日英仏などの8銀行と協力し、当事国政府に代わって事業調査や事業者の選定、契約書の作成などに資金を出し、民間企業の投資判断を手助けする。
中尾武彦総裁はAIIBとの協力を明言しており、新基金がAIIBの投融資先の発掘にも活用される可能性がある。
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ADBの活動の財源は、通常資本財源(OCR) と特別基金で構成されるが、特別基金の中心はアジア開発基金(ADF)である。
通常資金財源(OCR)は中所得国に市場の水準に応じた金利で貸し出すもので、財源は 1) 払込資本金、2) 準備金(累積利益)、3) 借入金からなる。
2013年末の状況は下記の通り。
授権資本 163,840 百万ドル 応募済資本 162,809 日本は25,510百万ドル 請求払資本 154,640 24,230百万ドル 払込資本 8,169 1,280百万ドル 同 調整後 5,885 準備金 11,253 自己資本 合計 17,138 借入残高 61,615
応募済資本と払込資本の差である請求払資本は、ADBの借入先の大規模な債務不履行という不測の事態が発生した場合にのみ、ADBの債権者(ADB債券を保有する投資家と ADB保証債務の保有者)保護を目的として利用することができ るが、過去にADBが請求払資本の実行を請求した例はない。
メンバー各国とその出資比率は下の表の通り。
参加国は、域内が48カ国、域外が19カ国の合計67カ国。
域内のうち、借入国が40カ国、非借入国が8カ国で、借入国のうち17カ国はADFのみ、12カ国はOCRとADFの両方、残り11カ国がOCRのみとなっている。
出資比率は日本が15.67%、米国が15.56%であるのに対し、GDPが日本の約2倍の中国は6.47%にすぎない。
中国など新興国は経済規模に応じた資本構成にするための増資を求めてきたが、今回の改革に増資は盛り込まれなかった。
IMFも2010年に、新興国の出資比率を引き上げ、理事会への登用を増やす「IMF改革」に合意したが、米国では議会の賛成が得られず、批准されていない。
IMFへの出資比率 (%)
現状 改革後 米国 17.67 米国 17.41 日本 6.56 日本 6.46 ドイツ 6.11 中国 6.39 英国 4.51 ドイツ 5.59 フランス 4.51 英国 4.23 中国 4.00 フランス 4.23 イタリア 3.31 イタリア 3.16 サウジ 2.93 インド 2.75 カナダ 2.67 ロシア 2.71 ロシア 2.50 ブラジル 2.32 「米国議会は中国の影響力拡大を懸念しており、増資の承認を得るのは難しい」とされており、これらに対する反発がAIIBの設立の契機の一つとなった。
中国の楼継偉財政相は講演で現在のADBの出資比率を批判し、「ADBが資本の不公平問題に取り組むことを期待する
」と述べた。
これを受け、中尾総裁は5月4日の講演で、
「近い将来、加盟国に増資の支持を求める」と各国に検討を依頼した。
実施時期は未定。増資の際には「出資比率の変更をあり得る」との認識を示したが、調整は難航すると思われる。
アジア開発基金(ADF)は、1人当たりのGNP が低く債務返済能力に限りがある開発途上加盟国に対して、OCRよりも緩やかな条件で貸付けするもの。
貸付条件は、
(1)プロジェクトに対する貸付の返済期間は8年の据置期間を含む32年、
(2)セクター開発などプログラム・ローンの返済期間は8年の据置期間を含む24年、
(3)新規貸付はすべて、据置期間中は1%の金利、その後は1.5%の金利(元本は均等償還)である。30ヵ国のドナー供与国が資金を拠出し、約4年ごとに増資が行われる。
日本はADFの最大ドナー国で、 2014年末現在、全体31,794百万ドルの約44%(13,877百万ドル)を拠出している。
その他の主なドナー国は、日本に次いでアメリカ(3,972)、ドイツ(1,940)、オーストラリア (1,936)、カナダ (1,904) の順となっている。
特別基金にはそのほかに、日本が全額拠出し、プロジェクト準備技術援助や、技術移転に関する支援に使う日本特別基金(JSF) 、日本が拠出するADB研究所特別基金、日本が焼く100億円を出資した貧困削減日本基金(JFPR)がある。
加盟国は以下の通り。
参考 アジア開発銀行(ADB) とアジアインフラ投資銀行(AIIB) 加盟国対比
参加 出資
比率投票権 ADF
拠出額
2014/endADB
借入
対象ADF
借入
対象AIIB
参加(域内) % % 百万ドル 非
借
入
国日本 1966 15.670 12.835 13,877 X 豪州 1966 5.810 4.946 1,936 ○ 韓国 1966 5.058 4.345 437 ○ ニュージーランド 1966 1.542 1.532 153 ○ 台湾 1966 1.094 1.173 92 X 香港 1969 0.547 0.736 94 X ブルネイ 2006 0.354 0.581 18 ○ シンガポール 1966 0.342 0.572 18 ○ (小計8カ国) 30.417 26.720 借
入
国中国 1986 6.470 5.474 81 ○ ○ インド 1966 6.357 5.384 15 ○ ○ インドネシア 1966 5.173 4.437 15 ○ ○ マレーシア 1966 2.734 2.486 23 ○ ○ フィリッピン 1966 2.392 2.212 ○ ○ パキスタン 1966 2.187 2.048 ○ ○ ○ タイ 1966 1.367 1.392 15 ○ ○ バングラ 1973 1.025 1.119 ○ ○ ○ カザフスタン 1995 0.810 0.946 2 ○ ○ ウズベキスタン 1995 0.676 0.840 ○ ○ ○ スリランカ 1996 0.582 0.764 ○ ○ ○ ミャンマー 1973 0.547 0.736 ー ○ ○ アゼルバイジャン 1999 0.447 0.656 ○ ○ ジョージア 2007 0.343 0.573 ○ ○ ○ ベトナム 1966 0.343 0.573 ○ ○ ○ アルメニア 2005 0.300 0.538 ○ ○ X キルギス 1994 0.300 0.539 ー ○ ○ タジキスタン 1998 0.288 0.529 ー ○ ○ トルクメニスタン 2000 0.254 0.502 ○ X ネパール 1966 0.148 0.417 ー ○ ○ パプアニューギニア 1971 0.094 0.374 ○ ○ X フィジー 1970 0.068 0.353 ○ X カンボジア 1966 0.050 0.338 ー ○ ○ アフガニスタン 1966 0.034 0.326 ー ○ X モンゴル 1991 0.015 0.311 ○ ○ ○ ラオス 1996 0.014 0.310 ー ○ ○ チモール 2002 0.010 0.306 ○ ○ X ソロモン諸島 1973 0.007 0.304 ー ○ X バヌアツ 1981 0.007 0.304 ー ○ X ブータン 1982 0.006 0.303 ー ○. X キリバス 1974 0.004 0.302 ー ○ X モルディブ 1978 0.004 0.302 ー ○ ○ ミクロネシア 1990 0.004 0.302 ○ ○ X ナウル 1991 0.004 0.302 ー ○ X トンガ 1972 0.004 0.302 ー ○ X クック諸島 1976 0.003 0.301 ○ X マーシャル諸島 1990 0.003 0.301 ー ○ X パラウ 2003 0.003 0.301 ○ ○ X サモア 1966 0.003 0.301 ー ○ X
ツバル 1993 0.001 0.300 ー ○ X (小計 40カ国) 33.079 38.405 合計 48カ国 63.496 65.125 (域外) 米国 1966 15.560 12.747 3,972 X カナダ 1966 5.252 4.500 1,904 X ドイツ 1966 4.344 3.773 1,940 ○ フランス 1970 2.337 2.168 1,335 ○ 英国 1966 2.051 1.939 1,248 ○ イタリア 1966 1.815 1.750 938 ○ オランダ 1966 1.030 1.122 806 ○ スイス 1967 0.586 0.767 524 ○ オーストリア 1966 0.342 0.572 283 ○ ベルギー 1966 0.342 0.572 241 X デンマーク 1966 0.342 0.572 296 ○ フィンランド 1966 0.342 0.572 165 ○ アイルランド 2006 0.342 0.572 72 X ルクセンブルグ 2003 0.342 0.572 50 ○ ノルウェー 1966 0.342 0.572 246 ○ スペイン 1986 0.342 0.572 403 ○ スウェーデン 1966 0.342 0.572 378 ○ トルコ 1991 0.342 0.572 115 ○ ポルトガル 2002 0.114 0.390 103 ○ 合計 19カ国 36.504 34.875 % % 百万ドル 総合計 67カ国 100.00 100.00 31,794
2013年の実績は下記の通り。(百万ドル)
ソブリン ノンソブリン 合計 OCR 特別
基金合計 OCR 特別
基金合計 OCR 特別
基金合計 融資 8,761 3,007 11,768 1,425 1,425 10,186 3,007 13,193 出資 142 142 142 142 グラント 849 849 849 849 保証 35 35 35 35 技術協力 150 150 6 6 156 156 小計 8,761 4,006 12,767 1,602 6 1,608 10,363 4,012 14,375 協調融資 3,715 2933 6,648 合計 16,482 4,541 21,023
中長期資金として11,975百万ドル (2012年は13,217百万ドル)、短期資金として2,518百万ドル (2012年は5,684百万ドル) の借入金を調達した。
ADBの融資残高(2014年6月末現在のOCR 残高 793億ドル)の内訳は下記の通り。
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