米連邦地方裁判所のThomas Griesa判事は6月5日、2001年のアルゼンチンのデフォルトの際に債務再編に応じなかった約500人の "holdout" (不服)債権者に対して新たに54億ドルを支払うようアルゼンチン政府に命じた。同国政府は不服として控訴する方針。
2012年のGriesa判事の判決が、アルゼンチンが昨年、再度のデフォルト(今回は資金はあるのに返済できないTechnical Default)に陥った原因である。
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アルゼンチンは2001年に債務危機が発生し、政府は 2002年1月、イタリア・リラ建て国債(2,800万ドル相当)の利払い停止を発表、国債のデフォルトとなった。3月には、円建て国債の利払いも不履行となった。
その後、IMFや他の国際機関とも債務返済について合意、民間債務について2004年12月に債務再編案を提示した。
対象となる民間保有の国債の元本総額は約810億ドルで、この75%をカットするというものであったが、2005年と2010年の合意でデフォルトに陥った国債全体の92.4%が交換された。
これに応じなかった"holdout"債権者のデフォルト状態の債権の残高は未払いの利息も含めてざっと150億ドルになっている。
米国の富豪Paul Singerが支配するヘッジファンド、 Elliott Managementの子会社のNML Capital Fund とAurelius Capital Management が約15億ドルの支払いを求め、米国で訴訟を起こした。
これらは当初からの債権者でなく、"holdout"債権者から安く(再編案よりは高い)買い取って債権者になったもの。
アルゼンチン政府は「ハゲタカ」と呼んでいる。
2012年にニューヨーク連邦地裁のThomas Griesa判事が判決を下した。
アルゼンチンが債務再編に応じた新債券保有者に支払いを続けるのであれば、"holdout"債権者の保有債券についても、全額支払わねばならない。
もし"holdout"債権者に支払わない場合は、米国の金融機関はアルゼンチン政府から新債権保有者への支払い手続きをしてはならない。
(複数の債権者に対し返済の優先劣後を設けないとするPari Passu 条項:債権者平等条項を適用)
これに対し、アルゼンチン政府は米国の最高裁判所に対し、アルゼンチンの債務再編に応じていない債権者への支払いを命じた下級審の判決を見直すよう求めていたが、最高裁は2014年6月16日、これを却下した。
この結果、アルゼンチン政府は新債券保有者に対し、利息を払う意思もあり、資金もあるにもかかわらず、利息を払えなくなり、デフォルトとなった。
2014/6/25 アルゼンチン、再び債務危機
問題点は下記の通り。
1) アルゼンチン政府は債務再編に当たり、「将来、より良い条件での債務返済を申し出ない」というRUFO 条項(2014年末まで有効)を取り決めている。
Elliott Managementへの全額返済という要求には応じられない。2) 新債券保有者への全てニューヨークで行われている。ドル建て国債は米国法準拠。
1994年の売り出しにあたり、如何なる紛争も米国法に基づき解決するとの条項がある。3) 新債権の種類と利息は下記の通り。(JETRO Area Reports)
その後の動き:
最高裁の却下後の最初の利払いは6月末のDISCOUNT国債で、アルゼンチン
政府は支払い原資の539百万ドルをBank
of New York Mellon の口座に振り込んだが、銀行は裁判所の判断に従い、債権者への支払いに応じなかった。
その後の30日間の猶予期間中にファンドとの交渉を行ったが、まとまらず、7月30日に再びデフォルトに陥った。
今回のデフォルトが、2001年のデフォルトと異なるのは、アルゼンチンに債務履行能力があることである。
アルゼンチン政府は8月7日、「米国は国の主権を尊重する国際的義務に違反している」として、国際司法裁判所に提訴したと発表した。
但し、米国が同意しない限り、国際司法裁はいかなる裁判手続きも起こさない。
残りの"holdout"債権者らが2014年6月中旬以降、25件の提訴を行い、計47億ドルの支払いを請求している。
(今回 2015年6月の判決はこれに対するもの)
アルゼンチン議会は2014年9月11日、外貨建て債の支払いを米国法の効力が及ばない国内法に準拠して実施できるようにする法案を可決、フェルナンデス大統領の署名を経て成立した。
ニューヨークメロン銀行が支払いを仲介する米国法と英国法に準拠する「DISCOUNT」の支払いを、アルゼンチン国立銀行グループが代行することも規定している。
しかし、新規国債への切り替えは容易でなく、アルゼンチンの経済財務大臣は、新規国債への交換を希望する申し出が決して多くはないことを明らかにしている。
また米裁判所はこうした国債の準拠する法律を変更する行為について違法であるとの見解を公表した。
米連邦地裁のThomas Griesa判事は9月29日、アルゼンチンの債務問題をめぐり、「裁判所の判決を無視し、再編に応じた債権者への利払いを試みている 」として同国に法廷侮辱罪を宣言した。
米 Bank of New York Mellonは10月31日、アルゼンチンのドル・ユーロ建て2038年償還PAR国債に対する利払いが行われなかったとし、同国の陥っているデフォルトが拡大したことを明らかにした。支払期日の9月30日からの30日の支払い猶予期間内に利払い原資の振り込みがなかった。
米シティグループ は2015年3月、アルゼンチンのカストディ(証券管理)業務からできるだけ早期に撤退する意向を明らかにした。
シティは米連邦地裁に対し、アルゼンチン法に準拠した新債券保有者に対する利払い処理を行えるよう求めていたが、連邦地裁のThomas Griesa 判事は、シティの訴えを退けた。
またアルゼンチン政府はシティに対し、利払いを行わない場合、銀行免許の剥奪や刑事、民事上の制裁を加える構えを見せており、シティはこうした事情から撤退を決定したとしている。
これを受け、Griesa 判事は方針を転換し、Citi Argentinaがアルゼンチンでカストディ業務から撤退するのに伴い、アルゼンチン法に基づき発行されたドル建て債券の3月31日と6月30日の2回の利払い業務を認めた。
今回の承認はアルゼンチン法に基づき発行されたドル建て債券に限られ、混乱は続く。
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国連総会は2014年9月9日、債務不履行に陥った国が進める債務再編過程に対し、投機を目的とする「ハゲタカ・ファンド」と呼ばれる投資ファンドなどが妨害を加えることを規制する国際協定の策定を求める決議を、賛成124、反対11、棄権41の賛成多数で採択した。
決議は、アルゼンチンの債務返済をめぐり大もうけを狙う米投資ファンドが混乱をつくりだしている事態を受けて、発展途上国でつくるG77の議長国のボリビアが提出した もので、債務再編は国の主権だと指摘し、「再編の努力がヘッジファンドのような特殊な投資ファンドによって無効にされたり妨害されたりしてはならない」と強調している。
米国は「経済に不確実性をもたらす」などとして反対し、日本も反対に回った。
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