クルド自治政府、独自に石油輸出

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イラク北部のクルド自治政府が中央政府との合意に反して、独自に石油輸出を始めた。

中央政府とクルド自治政府は2014年12月2日、対立の原因だった石油輸出問題で合意、キルクーク油田などで産出された石油に関して自治政府が中央政府を通して輸出し、中央政府が必要な予算を配分することになっていた。

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イラクでは中央政府とクルド自治政府が石油開発を巡って争ってきた。

中央政府は、自治政府と外国企業の油田開発契約を違法とし、参加した外国企業を中央政府との開発交渉から除外した。

イラク政府は第1回油田開発入札資格審査で韓国石油公社やSKエナジーを排除、オーストリアのOMVに対しても石油輸出の停止処分を行なった。
ExxonMobil に対しても警告した。

2009/4/7 イラクの油田開放、クルド人自治政府と契約の韓国企業を除外

しかし、その後もクルド地区での石油開発は続いている。

2012/8/14  イラク・クルド自治区の石油開発の状況

クルド地区の利点は、石油をトルコを通る既存パイプラインを使って、トルコの地中海岸の積み出し港ジェイハンにまで運び、そこから輸出できることである。

イラク政府は、自治政府が独自に石油を開発することを認めず、また、石油を直接輸出することを認めていない。

中央政府が認めた場合は輸出は認められており、2009年6月にはノルウェーのDNO International が開発するTawke油田、カナダのAddax Petroleumなどの企業連合が開発するTaq Taq 油田から、中央政府が管理する既存パイプラインを使ってトルコの地中海岸の積み出し港ジェイハンに運び、そこから輸出された。

原油の販売はイラク石油省傘下の国営石油会社(SOMO)が担当し、中央政府が収入の71%、クルド政府が17%を受け取り、残りを外国石油会社が受け取るもの。

2009/6/9 イラクのクルド自治区の原油輸出開始 

2014年6月、イラク政府は、クルド人自治区がイスラエルに原油を「違法」に売却したと非難した。 自治区産の原油を積んだタンカー SCF Altai 号は6月20日、イスラエルのアシュケロンに入港した。

イラク石油省は自治政府がイラク憲法に反して割引価格で原油を輸出していると主張しており、今後も輸出を監視し、自治政府から原油を購入した者を訴えると表明した。

自治政府は、パイプラインを通じてトルコに2度目の輸出を行ったと認めた。買い手は明らかにしておらず、原油の販売は憲法違反ではないと主張している。

これを受け、中央政府は自治政府に対する予算の支払を凍結した。
この結果、自治政府の職員やクルド人民兵は何ヶ月も支払を受けられなかった。

この問題は、ISISとの戦いにも支障をきたした。

2014年11月に双方の間で、日量15万バレルの石油の代わりに中央政府が自治政府に5億ドルを支払うという暫定合意に達した。
この支払いの約束を契機に妥協が生み出された。

2014年12月の合意では、クルド自治政府は中央政府に日量55万バレル(現在のイラクの輸出量の1/5に相当)を引き渡す。
このうち、30万バレルはISISが進出しイラク軍が撤退した後、クルド軍が掌握したキルクーク周辺(自治区外)の油田からのもの(中央政府は自分のものと主張している)で、残り25万バレルはクルド地区の他の油田からのもの。

これらの石油はイラク石油輸出公社(SOMO)を通じて輸出される。これにより、中央政府はクルド自治区の石油とその収入への管理を強化できることとなる。

その代わりに、自治政府はこれまで凍結されていた中央政府の財政支出の17%を確保することになった。
この比率は、イラクの全人口に占めるクルド人の割合を基礎としたもので、2005年憲法に盛り込まれた財政取り決めを反映したもの。

シーア派政治家は「われわれ全ての上にISISの脅威がのしかかっていることから、どのような形にせよ、双方が合意することは必要だった」と話した。

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クルド側は7月に中央政府への石油の引渡しを停止した。

自治政府によると、当初は技術的問題で約束しただけの量を中央政府に渡せなかったが、これに対し、中央政府は約束した額の30~40%をカットした。

その後、クルド側は技術的問題を解決し、4月に入って平均日量50万バレル以上を送ったが、中央政府は支払を増やさなかったという。

信頼関係が弱まり、自治政府は6月の輸送量を15万バレル以下とし、7月にはゼロとした。

自治政府はトルコ経由のパイプラインで日量60万バレル以上を輸出し、支出をカバーするに必要な月額10億ドル近くを確保している。

自治政府側は、自治政府の職員や戦闘員に給与を支払うため、中央政府に頼るのではなく、経済的自立に向け動かざるを得なかったとしている。

中央政府が昨年、予算の支払を凍結したため、多額の借入金があること、ISISとの戦闘の費用、他の地域から流入した170万人の外国人及びイラク人の避難民の費用などから、輸出を増やさざるを得ないとしている。

しかし、自治政府が輸出している石油には、中央政府が自分のものとしているキルクークの石油が含まれていることが、問題を複雑にしている。

昨年の合意が何故壊れたのかについては、いろいろな説があるが、中央政府内にクルド自治政府に譲りすぎだとの批判があったとされる。





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