マリン カッサの「コールダー・ウォー: ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争」を読んだ。 右の図書紹介
(出版社のPRから)
東西冷戦をしのぐ米露の熾烈な戦いが始まっている。プーチンは今、膨大なエネルギー資源を武器に強力な資源外交を展開している。狙いは資源取引のドルベース・ルール(ペトロダラーシステム)に変更を迫り、アメリカ覇権を転覆させることだ。その長期戦略はもはや経済制裁や原油安では阻止できない。米国有数のファンドマネージャーが資源開発現場で得た最新情報をもとに、ドル崩壊の危機を予測した全米ベストセラー !
著者:
Casey Research のエネルギー部門主任研究員で、エネルギー産業に特化した投資ファンドマネージャーとして大きな成功を収める。世界各地の資源開発現場に飛び、第一線の最新情報を持つ。
ほとんどのアメリカ人が知らないうちに、米露の間で超冷戦(Colder War) が進んでおり、プーチンの長期戦略が結実しつつある。
プーチンのグランドデザインは下記のとおりとする。
1)ロシアは外国からの攻撃に屈しない強国でなければならない。
2)ロシアを脅かすのは米のみ
3)周辺国をバッファーに(米との連携を許さない)
4)ロシアの安全保障のためにも国民は豊かにならなくてはならない。
5)ロシアの繁栄は天然資源とりわけエネルギー資源に依存する。
6)資源収入は軍事予算を担保するだけでなく、資源輸入国をロシア依存国にする。
7)資源エネルギー関連産業の圧倒的力がロシアに依存せざるを得ない国をつくる。
8)資金と技術のため海外からの資金は歓迎するが、政府の全面的監督下に。
9)ロシア国外のエネルギー事情混乱はロシアに有利。中東騒乱は有利。
10)PetroDollarに風穴をあけ、米に打撃を与える。
PetroDollar体制とは:
1971年8月15日、ニクソン大統領は、ドルと金の交換を停止した。
ニクソンはキッシンジャーをサウジに派遣し、以下の交渉を行わせた。
・米はサウジを防衛する。どんな兵器も売る。サウジ王家を未来永劫に保護する。
・見返りに①サウジの石油販売を全てドル建てにする。
②サウジの貿易黒字で米国財務省証券を購入する。
サウジはこれを受け入れ、1974年に調印された。
その後、OPECの他のメンバーもドル建て取引を採用し、ドルが世界通貨となった。これが「ペトロダラー」システムで、これまで金との兌換が必要なため、無制限なドル印刷は出来なかったのに対し、ほぼゼロコストでドルを無制限に印刷し、輸入決済に充てることが出来るようにな った。
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著者によると、ソ連の崩壊はレーガンの政策の成功の結果ではなく、ソ連が石油開発に資金を割けなかったため、埋蔵量はありながら、生産が激減したためであるとする。
プーチンはロシア再興のカギは豊富なエネルギー資源であると早くから認識し、それはロシアの民間資本で運営されるべきで、経営は国家の指導に沿ったものでなくてはならないと考えた。
このため、この方針に沿わない新興財閥(オリガルヒ)を国家権力を使って排斥すると共に、中小企業を半官半民の超企業に育て上げた。
ユダヤ人のMikhail Khodorkovskii は混乱期のロシアで違法スレスレの手段で国営石油会社 Yukos を超安値で買収した。
Khodorkovskii はこれを、Roman Abramovich が同様の手法で育てた石油会社 Sibneft と合併させ、ロシアの石油生産の30%を占める大企業にした上で、高値で売却すべく、ExxonMobil とChevronとの交渉を開始した。
一方で、Khodorkovskii はプーチンを公開の場で批判し、プーチンの政敵に政治献金をした。政府はKhodorkovskiiを脱税、横領、詐欺、文書偽造で逮捕して財産(ユコス株含む)を凍結するとともに、Yukosの最大子会社を脱税で差し押さえた。
最終的に、ExxonMobilもChevronも交渉を取り止め、Yukos-Sibnet の合併はご破算となり、Yukos は破産、清算した。Yukosの残余資産は、Rosneftがバーゲン価格で取得し、これを機に拡大した。
石油戦略
ソ連崩壊時 原油生産設備は荒れ放題であったが、プーチンは石油増産のため合併を進め、2007年以降、寡占化に1600億ドルを投じた。
Rosneft にYukos資産を取得させた上で、少数株主の株を強制的に買い上げさせ、政府プロジェクトを任せ、大企業に育て上げた。ロシアの生産は1998年に日産600万バレルであったのが、2012年には1100万バレルに達した。
2012年の世界の消費量 8500万バレルのうち、ロシアの供給は1100万バレルで13%を占め、国際間取引では15%を占める。ExxonMobilとの提携で、北極圏開発。
2013/6/24 Rosneft とExxonMobil、戦略的協力関係を促進TNK-BPの買収で、BPとの提携強化
2012/10/24 ロシアのRosneft、TNK-BPを買収石油パイプラン敷設
中国・アジア向け
2010年 ESPO(東シベリア・太平洋石油パイプラン) 中国国境まで完成
2012年 コジミノまで開通2012/12/27 東シベリア太平洋石油パイプラインが全線で稼働
欧州向け
ドルジバ(Friendship) Pipeline
2012/3、輸出ターミナル新港 ウスチルガが開通
パイプライン使用料で揉めたベラルーシを通らず、ウラル石油を欧州に供給
天然ガス戦略
Gazpromはソ連崩壊時に民間企業になったが、乱脈経営で資産を超安値で売却。
プーチン就任後、直ちに経営陣を刷新。
新経営陣は、シブネフチガスを買収、Gazprom銀行を設立。本書に記載はないが、サハリンⅡではロシア政府が工事の承認を取り消し、最終的にGazpromが過半数(50%+1株)を出資した。
2007/1/9 サハリン2計画 再スタートとその背景ウクライナとの抗争
2013/2/19 ロシアとウクライナ、天然ガスで再び抗争ウクライナを経由しないパイプライン
① Nord Stream
2011/8/27 Nord Stream Pipeline、欧州ネットワークに接続
2015/7/1 Nord Stream 倍増計画② South Stream
2012/12/13 ロシア、サウスストリームパイプライン計画着工
2014/12/4 ロシア、South Stream 計画を取り止め
代替案 Turkish Stream
2015/7/15 ギリシャへの中国、ロシアの接近アジア向け Eastern Pipeline、Altai Pipeline 中国に30年の供給契約
2014/5/26 ロシアのGazprom 、中国への天然ガス供給契約に調印LNG戦略:パイプラインで遅れない地区にLNGで供給
サハリンⅡ 年1000万トン輸出 →2020年 6000万トン
バレンツ海シュトックマン海底ガス田(Gazprom 75%、Total 25%)のガスをNord Stream へのつなぎ込むとともに、ムルマンスク州のテリベルカにLNGプラント建設
アフリカ戦略(ナイジェリア、エジプト、モザンビーク、アルジェリアで開発)
イスラエルで膨大な天然ガスが発見され、開発中。
2013/4/4 イスラエルで新ガス田からの天然ガス輸送開始
Gazpromは2013年2月、Tamar ガス田のガスのLNG化を計画するLevant LNG Marketing Corp. との間でLNGの20年間の独占購入契約を締結した。
また、天然ガスをキプロスとギリシャを経由するガスパイプランで欧州に輸出することも検討している。
ロシアは、キプロスに財政支援、ギリシャにもTurkish Stream を通すなど関係強化を図っている。
ウラン戦略
ウラン鉱山の囲い込み
ロスアトム子会社ARMZは2010年に「ウラニウムワン」の持株を17%から51%にアップ。
ウラニウムワンはウラン鉱最大手で、豪、カナダ、カザフ、南ア、タンザニア、米に鉱山カザトムプロム(カザフ)と共同生産合意
モンゴルでのウラン開発
2020年にロシア生産分で世界のyellow cake 生産の1/3を占め、カザフを加えるだけで世界の半分。
他にウクライナ、ウズベキスタン、モンゴル
ロシアは転換と濃縮分野でのリーダーでもあり、転換能力では世界の1/3のシェアを持ち、
濃縮のシェアも40%でこれを50%にアップする構想。
目標 Yellow cake 生産では58%確保、加工工程でも半分以上
原子力発電では米国も含め、ロシアに依存することとなる。
黄昏のペトロダラーシステム
プーチンの長期戦略に従い、国家権力も使って、ロシアに依存せざるを得ない体制が密かに完成しつつある。
ペトロダラーシステムに対しても、ドルを介在させない取引が出現しつつある。
ロシア:石油産出国に金による価格設定を要請
中国:ブラジル、豪、UAE、トルコ、韓国などと通貨スワップ協定を締結、ドル介在なしでの取引が可能に。
BRICS:新開発銀行設立
米国:イランの経済制裁が、逆にドル崩壊を加速化している。
制裁をくぐった貿易は盛んであり、SWIFT(ドル決済システム)が使えないため、ドルを使わない決済(金塊、他の通貨、バーターなど)が次々に開発された。
米国の政策が各国に反米感情を産んでいる。
ペトロダラーの元のサウジも最近は対米不満が高まっている。
・シリアのスンニ派の反アサドの戦いに支援なし
・スンニ派パレスチナ組織の対イスラエル交渉に何もせず
・シーア派イランへの接近
・フセイン放逐に反対したが、米は従わず、結果はイラクがばらばらに 等々そのなかで、ロシアがサウジに接近している。
サウジと米国の提携が崩れ、石油取引がドル建てではなくなった場合、米国経済は崩壊する。
最悪のシナリオは、各国がドルから逃げ出し、金利が大幅アップ、発行済み国債が暴落し、ドル の減価で輸入コストが急増し、インフレが進行、金利アップやデリバティブ商品の破綻で金融機関が危機に陥る。
これを回避するには、政府予算削減、外交姿勢修正(紛争介入回避)、過度な福祉政策の停止、国内エネルギー資源開発、非経済な再生可能エネルギーの見直しなど厳しい政策が必要であると説く。
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本書にはほとんどの米国人が知らない米政府の問題行動を明らかにしている。
①イラクのクウェート侵略
米国の駐イラン大使 April Glaspie は侵略の1週間ほど前に大統領官邸でフセインと会談し、クウェート侵略を黙認するような以下の発言をした。
あなた方とクウェートとの紛争の様な、アラブの紛争には何の意見もありません。ベーカー国務長官は、1960年代のクウェート問題は、アメリカとは関係がないという、最初にイラクにさしあげた説明を強調するよう、私に指示しました。
②ウクライナ問題
2014年2月に国外脱出したヤヌコーヴィッチ大統領は選挙で選ばれた大統領であり、暴力的に失脚させることに米は手を貸した。
米資本の入ったインターネットTV(フロマッケテレビ)が煽った。Victoria Nuland 国務次官補は過激なネオナチのスヴォボダ党党首とヤヌーコヴィッチ大統領追い落とし作戦を打ち合わせた。
暫定政権でスヴォボダ党は副首相、農相、環境相、司法長官を確保した。
ウクライナの改革は進まず、腐敗は相変わらずである。
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