TPPを巡ってハワイ州のホテルで開かれていた日米など12カ国の閣僚会合は7月31日午後、合意を見送って閉幕した。
医薬品に関する知的財産ルールと乳製品の貿易で対立し、各国の利害を調整できなかった。
参加国は8月中の閣僚会合の再開を目指す。
共同声明の要旨:
・重要な進展があり、限られた数の問題の解決にむけて作業を続け、妥結に向けて道筋をつける
・共通の土台を見つけるため、勢いを保って集中的に作業を続ける
・交渉は最終段階にあり、TPPが妥結間近にあると確信している
一つの問題はニュージーランドで、日本、アメリカ、カナダ、メキシコに対し、膨大な乳製品の低関税枠を求め続けた。
甘利経済再生相は、「いろいろ過大な要求をされている国がありまして」、「もうちょっと妥当な要求に頭を冷やしてもらわなきゃならない」と述べた。
ニュージーランドは国内市場が小さいことから輸出に力を入れており、輸出全体のおよそ60%を農産物が占めている。
中でも、バターやチーズなどの乳製品が輸出される農産物のおよそ半分を占めており、経済的に重要な位置を占めている。同国にとって、競争力がある乳製品の輸出拡大は重要な政策課題であり、「安易な妥協」を認めず本来の理念を強調することは、ニュージーランドの国益とも一致する。
閣僚会合後の共同記者会見では、ニュージーランドは、小規模経営の酪農家が多い日本やカナダを念頭に、 「乳製品に競争力がない国と難しい問題を抱えてしまうのはいつものことだ」と述べ、自らの主張に問題がないことを強調した。
TPPは元々はニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリの4カ国がモノやサービスのやりとりを原則自由にしようと結んだ貿易協定が前身で、2005年7月18日に締結、2006年11月8日に発効した。
これによれば、他に規定がある場合を除いて、発効と同時に他の締約国の原産品に対する全ての関税を撤廃すると規定している。
実際は下記のとおり順次撤廃する。
ブルネイ チリ ニュージーランド シンガポール 発効時 92% 発効時 89.39% 発効時 96.5% 発効時 100% 2010年 残り1.7% 2009年 残り0.94% 2008年 残り0.03% 2012年 残り1.1% 2011年 残り0.29% 2010年 残り1.54% 2015年 残り5.2% 2015年 残り0.12% 2015年 残り1.92% 2017年 残り9.26%
この協定の拡大である現在のTPPは「全ての関税撤廃」には程遠く、ニュージーランドの主張も理解できる。
最大の問題は「新薬データの保護期間」で、バイオ医薬品について、米国は「12年」、日本は「8年」を主張しているのに対し、価格の安い後発薬を多く使う豪州やマレーシアなどは、新薬が保護されると医療費が高くなるとして「5年」を求めてきた。
新しい医薬品は特許で守られる。特許保護期間は20年である。ただし、医薬品の場合、臨床試験や審査に多くの年数を要し、販売を開始するときには特許切れまで数年しかない場合が多い。
このため、各国は特許とは別に、医薬品規制当局に提出する臨床試験データ等を承認申請時から一定期間保護している。
この保護期間中は、仮に特許が切れたとしても、ジェネリックメーカーは、独自に臨床試験データを作成する場合には膨大な手間とコストがかかるため、実質的に販売できないこととなる。
米国では保護期間は一般医薬品は5年、バイオ医薬品は12年となっている。
日本では一般医薬品は8年、稀少疾病用医薬品は10年。
(薬事法では、新薬承認時に指定される「再審査期間」中はジェネリック医薬品の承認に新薬と同等の資料が必要と定めらており、実質的にデータ保護期間の役割を果たす)
EUは10年。「国境なき医師団」は、途上国で使われるエイズ治療薬の8割以上がジェネリックだと指摘し、「知的財産権の保護」によって、医薬品価格を高止まりさせる米国の「誤ったビジネスモデル」で、「人命が左右される事態になる」と批判している。
会合では、米国や日本が原則8年、バイオ医薬品について12年を要求、逆に、後発医薬品に依存するニュージーランドや豪州、マレーシアなどは5年を求めて対立が続いた。
米国紙によると、米国は最終的に「12年」は降りる姿勢を示した。日本は期間延長に際し、猶予期間を設ける提案をしたとされる。
しかし、合意には達せず、最後にニュージーランドは米国や日本、カナダなどに乳製品の大幅な輸入拡大を求め、 それがない限り、5年間の保護期間を譲らないとした。
他にも各国間でまとまらない項目は残っているが、新薬データ保護期間でまとまる見込みがないことから、各国とも最後の切り札を切らなかった。
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これまでは、米国大統領に強力な通商交渉の権限(Fast track negotiating authority ) を与える貿易促進権限(通称TPA)が切れていたため、交渉で妥協して合意しても米国議会がその部分を認めない可能性の恐れから、各国が最後の切り札を切らなかった。
6月24日に米議会は貿易促進権限(TPA)法を可決、翌日にはこれと対の、失業者対策を盛り込んだ貿易調整援助制度(TAA) 法案を可決し、オバマ大統領は6月29日、TPA法案に署名、成立した。
2015/6/25 米上院がTPA法案可決 近く成立
これで障害はなくなり、今回で一気に合意に達すると思われたが、米国の根回し不足でまとまらなかった。
米政府はTPA法により、TPPの署名の90日前に議会に通告する必要がある。その後に始まるTPPの実行に必要な法改正などを盛り込んだ関連法案の審議にも90日程度かかる。年明け2月には 大統領選挙の予備選が始まるため、年内の議会承認が必要である。
年内の米議会承認には、8月末がギリギリのタイミングで、次も合意に失敗すれば、 見通しがつかなくなる。
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