韓国にイラン企業から3番目のISD提起

| コメント(0)

韓国の金融委員会は9月22日、「イラン系家電メーカーが、大宇エレクトロニクス買収契約が不当に解除され損害を受けたとして、韓国政府を相手取り投資家対国家間訴訟(ISD)を提起した」と明らかにした。

韓国にとって米国系ファンド Lone Star、UAEのIPICのオランダ子会社 Hanocal に続く3番目のISD提起となる。

  ISDについては、国際投資紛争解決センター(ICSID)に関する基本情報

イランのEntekhab Industrial Group は売りに出ていた大宇エレクトロニクスの買収に手を挙げた。
2010年4月に、企業再生支援業務などを行う政府系金融機関の韓国資産管理公社は
Entekhabを買収の優先入札者と認めた。

Entekhabは2010年11月に買収契約を締結、10%相当の49百万ドルを支払った。

しかし、韓国資産管理公社は2011年5月に契約を打ち切った。

同社はこの49百万ドルと金利の支払を要求している。

業界内の当時の情報では、Entekhabが値引きを要求し、全額の支払期限が過ぎたのが契約打ち切りの理由とされた。

ーーー

米ワシントンの国際投資紛争解決センター(ICSID)で2015年5月15日、米国系ファンドのLone Star と韓国政府間の国際仲裁が始まった。

Lone Starは2012年5月にICSIDに提起する意思を明らかにした。
2013年5月、ICSIDは裁判長を選任、仲裁判定部が構成された。

Lone Star は当初43億ドルだった請求金額を「為替相場変動による損害」などを理由に46億7900ドルに増額した。

争点は①売却遅延損害と②課税問題による損害の2種類で、Lone Star は2012年に訴訟を起こした。

①売却遅延損害

Lone Starは2003年10月、経営危機に陥った韓国外換銀行に1兆3,830億ウォンを投資し、持ち株の51%を取得し、その後、同銀行の経営を立て直し、収益性を大幅に向上させた

Lone Starは2007年9月に香港上海銀行との間で、5兆9,376億ウォンで韓国外換銀行を売却する内容の売買契約を締結した。

しかし、韓国の金融監督院は、売却の承認を1年近く先送りした。Lone Star は2008年4月まで香港上海銀行との契約を延長して承認を期待したが、最終的に金融監督院の承認は得られず、香港上海銀行は世界金融危機の余波もあり、2009年9月に契約を諦めた。

その後2012年に、Lone Star は韓国外換銀行株をハナ銀行に3兆9,157億ウォンで売却した。

Lone Star は韓国政府の承認の先送りによって、売却額の差額の約2兆ウォンの損失が発生しただけでなく、その間の諸費用を考慮すると、その損害賠償額は3兆3,800億ウォンに上ると主張している。

仲裁意向書では、韓国当局の「嫌がらせ」と「敵対的世論」を数回にわたり取り上げており、不必要な適格性審査で売却の適正なタイミングを逃したとする。

これに対し、韓国政府は、Lone Starが韓国外換銀行の買収費用を抑えるために虚偽の減資説を流布したことと、また株価操作の疑いもあって、Lone Star が捜査を受けていたため売却の承認ができなかっただけで、故意に承認を延ばしたわけではないと主張している。

韓国の株価操作の裁判では、一審でLone Starが敗訴、二審で逆転勝訴した。

②課税問題

2003年10月に外換銀行を買収したのは、Lone Star のベルギー法人であるLSF-KEB Holdings である。

Lone Star は、LSF-KEB Holdings は韓国とベルギーの投資保障協定の適用対象であるとして、韓国外換銀行株をハナ銀行に売却した際に国税庁が徴収した10%のSales Tax 分 3915億ウォンなど、各種税金合計8500億ウォンと、利子、為替差損などの返還を求めている。

韓国政府は、LSF-KEB Holdings はペーパーカンパニーだとしている。

ーーー

UAEのInternational Petroleum Investment Co (IPIC) のオランダ法人 Hanocal BV は2015年4月30日、韓・オランダ投資保護協定を違反したという理由で韓国政府を国際投資紛争解決センター(ICSID)に提訴した 。

これに先立ちHanocal は2014年10月、朴大統領を受信者とする仲裁意向書を韓国政府に送っている。

Hanocal は1999年、アジア金融危機で打撃を負った Hyundai Oilbank 株50%を取得、2003年に追加で20%を取得した。

2010年8月に現代重工業が1兆8381億ウォンで買い戻した。
現代重工業はこの際、代金の10%の1838億ウォンのSales tax を源泉徴収し、国税庁に納付した。

Hanocal は、オランダと韓国の協定により納税は不要として、この還付を要求し、韓国側は、Hanocal は オランダ法人だが実態のないペーパーカンパニーであり、徴収は妥当であるとしている。

IPICの持株の現代重工業への売却を巡っては、国際仲裁裁判所の裁決に頼っている。

現代重工業はHyundai Oilbankを買収する意向を示しているGS Caltex などGSグループの3社を相手取って株式買収禁止仮処分を法廷に申請、IPICが保有している全株式に対し株式購入のための権利を行使することにし、これをIPIC側に伝えた。
更に、IPICがこれを不服とする場合に備え、国際仲裁センターに法的紛争の仲裁も要請した。

2009年11月、国際仲裁裁判所はIPICに対し、全持ち株を現代グループに買い戻させるよう命じる判決を下した。

2009/11/21 現代グループ、Hyundai Oilbank の経営権を奪還

ーーー

TPPの交渉を巡っても、ISD条項が議論されている。

これに対し河野太郎公式ブログ 「ごまめの歯ぎしり」(2011/11/25) が取り上げている。(以下 各部分)

TPPに関しては、いろんな議論があると思うが、なかには誤解に基づいた議論もある。

そのうちの一つが「ISD条項」に関するものだ。

「アメリカの陰謀で、ISD条項という危険な条項がTPPに入れられようとしている。これが入ったら、米国企業が日本政府を訴えられるようになり、経済主権が侵される。」とか、「このISD条項のために、カナダ政府がNAFTAでひどい目にあった。」等という話がネット上に流布されている。
この条項は、海外に投資している日本企業の利益を守るのに役立つので、1978年の日本エジプト投資協定以降に結ばれた25本の投資協定では、日本フィリピンEPAを除き、全てにおいて投資家対国家の紛争手続(ISDS)規定が含まれている。

ちなみに最近の日本では、貿易黒字よりも投資収益の黒字のほうが大きいので、日本企業の外国への投資の保護は重要である。

ネット上での議論は、政府による国有化のような直接収用だけでなく、政府による規制の導入や変更等による間接収用も訴訟の対象となるという主張だが、国有化に匹敵するような「略奪行為」がなければ間接収用にも該当しない。

また、TPPそのもので「政府が行うことができる規制」を規制しない限り、国内外の企業に等しく適用される規制はその国の政府が自国の法律に基づき、自由に行うことができる。


というわけで、ISDS条項は、日本がTPP交渉に参加することを妨げるものではまったくない。

ーーー

EUの欧州委員会は9月16日、米国とのFTA交渉で、企業と国家の間の投資紛争を処理する裁判制度の創設を提案すると発表した。

EUが環境などの法規制を改正した場合に米国企業がISD条項を使って損害賠償目当ての訴訟を頻発させる恐れがあり、国家の主権が損なわれるとの見方が根強いため、ISD条項の代替措置として「投資法廷制度」を提案した。

新制度は「投資裁判所」と「控訴裁判所」の二審制となっており、EUと米国の政府が両国と第三国から同数の人数の裁判官を公選する。

企業が提訴できる紛争も絞り込み、性差や人種、宗教、国籍に基づく差別や、補償のない一方的な資産収用などに限定し、制度の乱用につながらないようにする。

欧州委は新提案について欧州議会などとの調整を経て最終案を確定し、米国側に提案する。

コメントする

月別 アーカイブ