天津爆発でB型肝炎治療薬がピンチ

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GraxoSmithKline (GSK)の日本法人は8月31日、医療関係者に下記の「重要なお知らせ」を出した。

2015年8月12日に起きた中国天津浜海新区倉庫爆発事故により、GSK天津工場が被害を受けた。

本工場では日本向けのB型慢性肝疾患治療薬「テノゼット®錠300mg」 (一般名:テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩)を製造しているが、爆発事故による被災により本剤の製造・出荷が停止しており、8月31日現在、本工場の操業再開の目途が立っていない状況 。

2015年8月末時点での国内における本剤の在庫数は、月間出荷量の約2カ月分。

この状況をうけ、本剤の出荷調整を実施する。

同社は日本の工場での早期製造開始(許可が必要)や、他社から薬剤の供給を受けることも検討する。
医療現場には新規患者への処方を控えると同時に、一度の処方量を減らすよう求めていく。

約7000人の患者が服用している。

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B型肝炎ウイルス(HBV)の主たる感染経路は母子間感染だが、その約9割は自然経過によりHBVが減少し、健康人となる。
しかし、残りの1割ほどは炎症が持続してB型慢性肝炎を発症する。慢性肝炎からは年率約2%で肝硬変へと進展し、肝硬変からは年率約3%で肝癌が発生する。

B型慢性肝炎の治療では、従来からインターフェロン療法、ステロイド離脱療法などが行われているが、近年では抗ウイルス療法が積極的に行われている。

抗ウイルス療法で使用される薬剤は逆転写酵素阻害剤(核酸アナログ製剤)で、HBV(B型肝炎ウイルス)やHIV (ヒト免疫不全ウイルス:AIDSの原因) の逆転写(RNAからDNAへと遺伝情報を複写する過程)を行う酵素を阻害することで、ウイルスの複製を阻害する。

ラミブジン(商品名ゼフィックス®)、HIV治療薬としては商品名エピビル®:GSK  

アデホビルピボキシル(商品名ヘプセラ®):GSK

エンテカビル(商品名バラクルード®):ブリストル・マイヤーズ

これら薬剤の使用で有効性は飛躍的に向上したが、薬剤耐性のHBVの出現が大きな問題となっている。ラミブジン及びアデホビルは耐性ウイルスが比較的出現しやすい。

エンテカビルもDNA変異ウイルスの出現により耐性を獲得されることがある。

テノゼット®も同じ逆転写酵素阻害剤だが、多剤耐性獲得ウイルスに対しても効果を示す。

このため、海外の主要学会におけるB型慢性肝疾患治療ガイドラインで第一選択薬として推奨されるとともに、他の核酸アナログ製剤に耐性を示す患者に対しても、単独または他の核酸アナログ製剤との併用療法が推奨されている。

 

「テノゼット®錠」は、米国Gilead Sciences社により開発された。B型慢性肝疾患の適応では、2008年4月に欧州で承認されて以来、米国を含む113の国又は地域で承認されている。

GSKグループはGilead Sciences社との間で開発・販売契約を締結し、日本と中国における本剤のB型慢性肝炎治療薬としての独占的開発権および販売権の供与を受けている。
現在は日本のみで販売している。

HIV治療薬としては商品名ビリアード®で、日本たばこ産業製造、鳥居薬品販売が扱っている。

GSKは2014年3月24日、日本での製造販売の承認を受けた。

製品は天津のGlaxoSmithKline(Tianjin) でテノゼットの原薬から製剤を行い、栃木県日光市の工場で包装している。

GlaxoSmithKline(Tianjin) 、GSKとTianjin Pharmaceutical GroupのJVで、爆発現場の2km西にある。

 


 


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