日本ガイシは9月3日、米国司法省との間で自動車用触媒担体の取引の一部に関して米国反トラスト法違反で有罪を認め、罰金6530万米ドルを支払うことを主な内容とする司法取引に合意したが、証拠隠滅などにより当局の捜査を妨害した疑いもあり、 司法妨害でも会社と役員が起訴される可能性がある。
日本ガイシの前社長(現在 相談役)は2002年から2007年まで、排ガス浄化装置を扱うセラミックス事業本部長を務めており、調査に非協力的だったこともあり、他の2名とともに免責されなかった模様。
仮に起訴された場合、日本に留まれば「海外逃亡」で時効が中断するが、犯罪人引渡し条約により、日本から送還されたり、他国に入国した時点で逮捕・米国送還される 可能性がある。
2015/9/7 日本ガイシ、自動車用触媒担体のカルテルで米司法省と司法取引
独禁法で米国に送還された最初の外国人は、マリーンホース国際カルテルのイタリアのParker ITRのRomano Pisciotti である。
当時米国におらず逮捕を免れていたRomano Pisciottiは、2013年6月にナイジェリアからイタリアに戻る途中、ドイツの空港で逮捕された。
Pisciottiはイタリアの裁判所とEUの人権裁判所に訴え、EUの法律が適用されるべきとするとともに、ドイツによる国籍差別の犠牲者であると主張したが、2014年4月3日に米国に送還された。
Romano Pisciottiは4月24日、有罪を認め、禁固2年、罰金5万ドルを受け入れた。
ドイツでの拘束期間の(9ヶ月+ 16日)がこれから差し引かれる。
2014/5/8 マリーンホース国際カルテルでのイタリア人被告の米国への引渡し
しかし、その前の2010年3月に英国の工業用炭素・セラミック製品メーカーのMorgan Crucible の元CEOが英国から米国に身柄を引渡されている。
1999年4月頃、大陪審は独禁法違反の疑いで Morganiteに文書提出令状を出した。
Morgan Crucibleの当時のCEO のIan Norrisはタスクフォースを編成し、カルテルの証拠を集め、隠滅した。
従業員が聴取されると知り、供述の際に使う競合相手との会合についてのシナリオを作成、競合相手にもそのシナリオに従うよう求め、リハーサルでうまくやれなかった従業員を無理やり退職させた。
しかし、最終的に隠滅作戦は失敗した。
2002年に米子会社Morganite Inc.は独禁法違反で当時の罰金の最高限度の1000万ドル、Morgan Crucible は司法妨害で100万ドルの罰金の支払を命じられた。
更に3人の従業員が2003年に有罪を認め、禁固刑と罰金刑を受けた。
Morgan Crucibleの事業部長が証拠隠滅で禁固4ヶ月、罰金2万ドル
英国子会社 Morganite Electrical Carbon のPricing Coordinator が従業員に証拠隠滅をさせたとして、禁固5ヶ月、罰金2万ドル
米国子会社 Morgan Advanced Materials and Technology の社長が証拠隠滅を助けたとして、禁固6ヶ月、罰金2万ドル
Morgan Crucible とCEOのIan Norrisは2001年にEUでの10年前のカルテルについて報告し、EUでの免責を得た。Ian Norrisは1年後に病気を理由に退任した。
しかし、米国の大陪審は2004年、Ian Norris を独禁法違反と証拠隠滅の2つの容疑で起訴した。
米司法省は犯罪人引渡し条約に基づき英国にIan Norrisの送還を要請した。
これに対しIan Norrisは、英国で価格カルテルが罪になったのは2002年であり、米国でのカルテルはそれ以前のため、カルテルの罪は当て嵌まらないと主張し、抵抗した。
裁判となり、最終的に2007年に英国の最高裁である貴族院で Ian Norrisの勝訴となった。
米司法省はこれで諦めず、独禁法違反を外し、司法妨害の罪で送還を求めた。
今回も貴族院まで行ったが、今回は司法省の勝訴となった。
最後に欧州人権裁判所に訴えたが却下され、Ian Norris は2010年3月に米国に送還された。
独禁法事件で米国に送還される最初の外国人となったが、独禁法の罪は外され、司法妨害の罪での送還となった。
2010年12月10日、連邦地裁はIan Norris に禁固18ヶ月、罰金25千ドルの判決を下した。
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日米の場合は1980年の条約で、両国でいずれも処罰の対象となり両国の法律で死刑、無期懲役、1年以上の拘禁刑に当たる罪の場合は引渡しが可能となっているが、独禁法違反の場合には日本政府は該当せずとし、引渡しは行われなかった。
2009年改正により、独禁法の最高が懲役5年となったため、執行猶予の対象外となり、条約上の引渡し対象となる。
(それまでは最高が懲役3年のため、執行猶予が付いた。)
条約第5条では、「被請求国は、自国民を引渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる」となっており、日本政府の判断で引渡しを行うかどうかを決めることとなる。
逆に今後、日本側が引渡しを求める事態も発生する可能性があるため、要請があった場合には、余程の理由がない限り、引渡しを行うと思われる。
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